『そんな告白』 恋人をこの腕に抱いて横たわるこの幸せは何にも替えられない。サスケは常々思っていた。 今のこの恋人の前にも何人か付き合った女はいたが、その時は纏わり付く身体が鬱陶しくてならなかったのに。 やはりそれは、本当に好きな相手だからなのだろう。 さらさらと手触りのよい金髪を撫で、それに鼻をうずめるようにしてキスをした。 好きで好きでどうしようもなくて、でも一度は…いや、何度も諦めかけたこの恋だが、やっと手に入れられた事に、いまだに幸せを感じている。 それなのに…。 「なぁ、サスケの好きな人って誰?」 自分を見上げて言うその言葉を聞いた後一瞬、サスケは嘘ではなく本当に開いた口がふさがらなかった。 自分の耳が信じられなくて、ナルトの顔を凝視してしまう。 それもそのはず…先ほども言ったが、今自分たちは一つのベッドの中で一糸纏わぬ姿でいるのだし、ちょっと前まで二人は恋人同士がベッドですることをしっかりいたしていたわけで、まさかその相手にそんな事を尋ねられるとは、木の葉の里でもトップクラスの忍と言われるサスケでも思わなかった。 ぽかーんとしているサスケを尻目にナルトは、更に言葉を続ける。 「今日さ、サクラちゃんが女の子たちに、サスケには好きな人が居るから諦めろって言ってたの聞いたんだってばよ」 だから誰なのかな〜って思って。なんて言った。 しかも物凄く明るく。 ただの世間話をするかのように。 暫くして、サスケはいようやく怒りを覚え(というか、呆れすぎたせいか…)、ブルブルと身体を震わせた。 「ウスラトンカチ…」 先ほどまでの気だるい心地よさと幸せはあっという間に消え失せる。 自慢じゃないが、女に不自由はしない。 ただ立っているだけで、里中の女性の視線を一身に浴びるサスケだ。自分でそれも自覚している。 それなのに、サスケは男のナルトを選び、手に入れた。 手に入れたと思っていた。 恋人だと思っていた。 なのに…!! 恋人のはずのナルトにまさかそんな事を言われるなんて…っ!! かなり間抜けではないか…。 「ウスラトンカチ言うなってば!!」 しかし、そんなサスケの気持ちがわからないナルトは、サスケの腕から抜け出して身体を起こす。そして、まだ寝たままのサスケの身体を両手でゆさぶった。 「いいから早く教えろってばよ!」 ガクガクゆさぶられて、サスケは眉間に皺を寄せる。 「……お前はわかんねーのか」 「わかんないから訊いてるんだってば!」 「はぁ…」 わかっていた…ナルトからその答えが返ってくるのは、わかっていた。 しかし、溜息を吐かないでいられるだろうか?いや、無理だろう。 「それなら、どうして俺がお前を抱くと思ってるんだ?」 このままではあまりに自分が虚しすぎるので、サスケは何とかナルト自身に気づいて欲しくて、そんな訊き方をしてみる。 と、ナルトはきょとんとして、 「へ?ただの性欲処理?」 なんて言いやがった。 ついでに、 「そんな理由でもなければサスケがオレなんか抱くはずないだろ?」 とも…。 ―好きでもなけりゃ男なんか態々抱くはずねぇだろ!! いくらたまってても、いくらあとくされがないだろうとしても、そんな理由で男なんか抱く男、いるわけがない。 元々そう言う趣味のヤツならわからないが、サスケはいたってノーマルであり、そこら辺の女が放っておかないくらいの容姿、血筋なのだ。 少し考えればわかるだろうにと、サスケはナルトの馬鹿さ加減に脱力し、起き上がるとベッドサイドのテーブルに置いてあった煙草に手を伸ばす。 その一本を口に咥え、マッチで火をつけると深く吸い込み、そして深く煙を吐き出した。 「……なんでそう思う」 煙草のフィルターを歯できつく噛み、ナルトを睨みつければ 「だって、お前覚えてるか?オレのこと初めて…その、抱いた時のこと!」 ナルトもサスケを負けじと睨み返し、ほんのり頬を赤くしてそう言った。 「ああ」 それに、サスケは頷く。忘れるはずもない。 そう、あれは一年ほど前だったろうか。二人が上忍になったばかりで、中々会えなくなった頃だ。 中忍の頃まではほぼ毎日のように会っていて、任務も同じチームになることが多かったのに、上忍になった途端ぱったりとナルトとの仕事がなくなった。まるで誰かがわざとそう仕組んでいるかのように、里に戻り休みに入るのも入れ替わりという状態になった。 そうなると、今まではこのままで…親友というポジションのままナルトの傍に居れるだけでいいと思っていたのが嘘のように、ナルトが欲しくて欲しくてたまらなくなった。 離れている時間ずっとナルトを想い、自分の知らないところで誰かと共に過ごしている事に激しい嫉妬を覚えていた。 ナルトへの恋心を諦めようという気持ちはもうすっかりなりを潜め、ただナルトを手に入れたい気持ちばかりが大きくなっていく…。 そんな時、偶然ナルトに出会った。 報告書を提出し、帰ろうとした時その出口にナルトはサクラと一緒に居た。 「サスケ!待ってたってばよ!!」 そういったナルトの笑顔がとても眩しくて…サスケは両目を細める。 もはやサクラも…周りの人間もサスケの目には入っていなかった。ただ久しぶりに会うナルトがとても綺麗で、離れていた時間の分、ナルトへの愛しさが大きく膨らんだ。 「久しぶりに三人が里に居るから、よければ一緒に飲みに行かない?」 サクラの言葉に、無意識に頷いていた。 浮かれていたのかもしれない。 何時もよりも酒量が多く、珍しく…いや、初めて酔いつぶれてしまった。 男二人と女一人の面子なら、自然男のナルトがサスケを送っていく事になる。ナルトは翌日任務があるのでたしなむ程度にしか飲んでいなかったせいもあった。 サスケの歩く足がおぼつかないため、そこから近いナルトの家に連れて行かれた。 いくら男といっても、ナルトはサスケよりも体格も身長も小さかったので、苦労したと思う。 サスケを自分のベッドに寝かせると、ナルトはう〜んと背伸びした。 「サスケ、大丈夫だってば?」 「ああ…」 「それにしても珍しいよな。サスケがこんなになるまで飲むなんてさ」 くんできた水をサスケに手渡して、ナルトがちょっと嬉しそうに言った。 もしかしたら、ナルトも久しぶりにサスケと会って、喜んでいるのかもしれない…そう思うとたまらなかった。 酔っていて身体も頭も熱い。 酒のせいで、普段は奥底に止めている理性保てない。 コップの水を飲み干し、それをナルトに返す。 ナルトはそれをシンクに戻しに行こうとするが、サスケはそれを許さなかった。 ナルトの細い腕を掴み、ぐいと自分に引き寄せる。 「サ、サスケ?!」 驚いて目をぱちぱちさせているナルトに、そのままくちびるを寄せた。 初めて…いや、下忍の頃の事故を合わせれば二度目になるが…合わせたくちびるは、とても柔らかく温かかった。 キスなんか初めてじゃないのに、胸が高鳴る。 ナルトじゃなきゃ駄目なんだ…。 そう確信して、その途端、ナルトが全て欲しくなった。 くちびるを更に深く重ねて、貪るようにする。 抵抗するかと思ったナルトは、そのまま大人しくサスケに従い、自らも舌を伸ばしてくる。 それにサスケのわずかな理性も全て吹っ飛んでしまった。 キスをしながらその身体をまさぐり、服を脱がせて素肌に触れる。 何度も想像したとおり、ナルトの肌はしっとりとサスケの手になじむ。すべらかな肌は、まるでサスケを誘うようで…。 「サスケ…」 潤んだ蒼い目も、自分を呼ぶその声も、全てがサスケを求めているように思えて…。 そのままサスケはナルトを抱いた。 何度も何度も抱いた。 「サスケ、明日、オレ、任務…」 疲れてきたのかそう言ってわずかにする抵抗も、ただサスケを煽るばかり。 そんな風に、サスケはナルトを初めて抱いた。 それから何度となく、少しでも休みが合うとどちらかの家で夜を共に過ごしていた。 「覚えているが、それがどうした」 その時の事を思い出してちょっと頬を赤らめて言うと、ナルトはむっとしてサスケをにらみつける。 「だったら、性欲処理だって思うの当たり前だってば」 ナルトはシーツをギュッと握り締めた。 その手が白くなっていて、凄く力が篭っているのがわかる。サスケは当時を思い出して赤くなったが、ナルトの方はそれで怒りがこみ上げてきたようだ。 「あんなふうに…酒の勢いで、オレの気持ちも確かめないで抱くだけ抱いて…!その後だって、何回も……」 俯いてしまったのでナルトがどんな表情をしているのかわからないが、声が震えている。 泣いているのだろうか…? 「オレ、サスケが何を考えてこんな事してるのか、知らないってば」 それでも、だったらどうしてナルトは黙って自分に抱かれていたのだろうか? ずっと震えて、俯いて、 「わかんないから、そうやって理由つけてたほうが、楽なんだってば」 小さい声で言った。 サスケは煙草を灰皿に押し消して、ナルトに手を伸ばす。 そんな風に思っていたなんて、知らなかった。 頬に手を添えて、ナルトの顔を上げる。 やはり予想通り、その蒼い目は涙を浮かべ、瞬きをすれば零れ落ちてしまいそうだった。 それを指でぬぐう。 「好きだからに決まってんだろ」 「…誰を」 その手を首を左右に振って払おうとするが、サスケはそれをもう片方の手でおさえて止めた。 「お前だウスラトンカチ」 「だからウスラトンカチ言うな!!…って…オレ?!」 本当に気づいてなかったのか、ナルトは目を大きく見開いてサスケを見る。 「サスケって、オレのこと好きなんだってば?!」 「そうじゃなかったら、抱かねー」 「初めて聞いたってばよ!!」 「言わなくてもわかれよ!!」 初めの時も、それからも、ナルトは何も拒む事はなかったし、だからサスケはナルトも自分を好いてくれて、自分の気持ちもわかってくれて…恋人という関係になったのだと疑いもしなかったのだ。 「わかんねーってば!!言わなきゃ、わかるわけねーだろ!!」 ナルトはサスケの両手首を掴んだ。 振り払うためではないらしく、そのままぎゅっと握っている。 強い視線がサスケを貫いた。 しかし、サスケもナルトの目から少しも視線を外さず、 「だったら何で黙って抱かれてたんだ!」 一番知りたい疑問を問いかけた。 嫌ならば…拒めばよかったのだ。そうすれば、早く自分も誤解が解けたのに。 サスケが強く言うと、ナルトの目ははっとしたように力を失い、そしてサスケからそらされる。 「そ、それは…」 眉が寄せられて、くちびるを噛み締めて、言うか言うまいか考えているようだ。 サスケはナルトの口が開くのを、じっと待つ。 頬を押さえられているので、逃げる事も叶わず、ナルトはやっと諦めたようにくちびるを開いた。 「…それは、…オレがサスケを好きだからだってば…」 それを聞いて、今度はサスケが目を見開く。 「性欲処理でもいいって、思ってたからだってば!!」 開き直ったように、またサスケを睨み、ナルトは叫んだ。 至近距離の大声に、耳が痛かったけれど、そんなのどうでもよかった。 結局、想いを伝えていなかっただけで、お互いでお互いを想いあっていたのだ。 ―馬鹿だな…俺も、お前も…。 サスケは苦笑を浮かべ、ナルトを抱き締める。 「ウスラトンカチ」 「…三回目!もうサスケなんかしらねーってばよ!!」 ナルトはそう言って、サスケをぐいぐい押して自分から離そうとする。 しかし、そんなので腕を緩めるサスケではない。 更に力を込めると、ナルトの耳にくちびるを寄せて、 「悪かった」 そう囁いた。 「へ?」 「お前が言わなきゃわかんねー馬鹿だって事、忘れてた」 「…謝ってんのか?それとも馬鹿にしてんの?」 ナルトは抵抗をやめて、不機嫌そうにそう言った。 その反応にサスケは笑って、更に言葉を続ける。 「好きだ。すげー好きだ。愛してる」 「お前、恥ずかしくないってば?」 聞いていたナルトが恥ずかしくなったのか、顔をサスケの肩に埋めるようにした。 サスケはナルトの首筋にキスをして、 「俺と付き合って下さい」 そう言う。 今まで言わなかった言葉。 言わなくても、伝わっていると思い込んでいた、その言葉をやっと音にした。 「今更言うか!こんなカッコして!!」 本当に今更だ。 サスケとナルトは今裸なのである。 ちょっと前には…まぁ、まだ想いを伝え合っていなかった形ではあったが…激しく愛し合っていたのだ。 ナルトはそれがおかしくて、サスケの肩に額を押し付けながら声を上げて笑い始める。 確かに滑稽だった。 「で?返事は?」 身体を離して顔を合わせて、サスケはナルトの返事を促す。 ナルトは頬を赤らめつつも笑顔で、 「オレも好きだってば!だから付き合ってやる!!」 そう言って、初めてナルトからサスケにちゅっとキスをした。 それに一瞬面食らったサスケだが、すぐに何時もの人を馬鹿にしたような笑みを浮かべて、 「付き合ってやる…か。言い方が気に食わないが、仕方ねーな」 と言った。 「むっ!!サスケってばナマイキ!!」 「うるせーよ」 そして、頬を膨らますナルトに、今度はサスケからキス。 「ん…っ」 それはナルトのような軽いものではなく、しっかりと合わせたキスだった。 貪って、味わって、そのままナルトを押し倒す。 「ちょっと待てってばサスケ!」 ナルトは急にあわて始め、サスケのキスから逃れると上にのしかかるサスケの身体を両手で押す。 「何だ?」 邪魔されてムッとして、サスケが言うと、 「オレ、明日任務なんだけど?」 ナルトはキッとサスケを睨む。 「だから?」 「さっき散々やったろ?」 「それがどうした」 「だから!!もうやだって言ってんの!」 ナルトはなおもサスケを押しのけようとするが、上からかかる自分よりも重い体重をそう簡単によける事は出来なかった。 「折角付き合うようになったんだ。俺はやるぞ」 サスケはナルトの両腕をベッドに縫いとめ、うるさい口を自分の口で塞ぐ。 先ほどまでいたしていた身体は、すぐに熱を持ち、容易にお互いを溶け合わせた。 「バ…カサスケ…っ!明日、任務でヘマしたら、サスケの、せいだってば…っあ!」 「スタミナ馬鹿が、これだけでそんなになるかよ…」 「ぁんっ!」 ゆるやかに動くサスケにナルトは悪態をつきつつも、両腕でサスケの背中を抱き締めるのだった。 終わり |