X'masの贈り物……





 白銀を髣髴とさせる、雪に包まれた街並み。
 まだ降り続く雪は、周りの景色を白く化粧をするよう。
 電飾や星やらを飾り付けられたもみの木が、家々の前に置かれて……
 里の中が、寒い日にもかかわらず暖かい雰囲気に包まれていた。

 そんな中、一人嬉しそうに歩いていた少年。
 手に袋を持ち、それを振りながら何処かへと向かおうとしていた。
 ある日が近付いてくるとよく耳にすることが出来る歌を口ずさみながら。

 「〜〜♪ ……ん?」

 鼻歌を止め、ある一点へと視線を向けた。
 その先には……

 「あれ? サスケだってば」

 少年……もとい、うずまき ナルトの唯一無二の恋人である青年が店の前で物思いをしながら何かを見詰めていた。
 本当に、真剣に……

 「サスケってば、ああやって真面目な顔して買い物することがあるんだ……」

 初めてな光景に、ナルトは不思議そうにそれを眺めた。
 そんな中、その青年……うちは サスケはナルトの視線に気付かずただ黙々と探し物をしていた。

 普段気配や視線には敏感な筈な彼……
 今回ばかりは、そうではなかった。

 ナルトは、そういったことに好奇心を抱く性質なのだが、あえてこの場はサスケの傍に寄らず、ただ今立つ位置からサスケへ
 と視線を配ったままにしておいた。

 (面白いから?)

 普段見ることのない場面であるからこそ、今のうちにそれを焼き付けておき、後でネタにしてやろうとでも言うことなのだろう
 か。

 そして、数分後……

 (あ、動いたってば)

 顔以外、微動だにすることのなかったサスケが何か意を決したかのようにその店の中へと足を踏み入れた。
 ナルトも後に続いてその店へと足を伸ばそうとしたが……

 「!!!???」

 店の内部を見て絶句する。
 ガラス越しから見えるのは、サスケともう一人の姿。
 どう見ても二人は仲のよさそうな雰囲気を醸し出していた。

 「な、何だってばよ……」

 どう見ても、サスケが微笑んでいる。
 そして、隣に立つ女性も頬を薄らと染めて微笑んでいるのが良く見えた。
 沸々と湧き上がる怒り。
 ナルトはただ、その場にいれなくて……
 瞳に薄らと涙を張り巡らせながら、通りを疾走した。







 一方……
 サスケは意を決して入った店で引きつった笑みを浮かべていた。
 まさか、このような店だったとは……
 選択自身がまず、間違っていたのだと思わせるばかりで。

 「こちらはどうでしょう?」

 と女性の店員が差し出したのは、シンプルで可愛らしいシルバーの首飾りと指輪。
 だが、サスケにしてみればこのような装飾品店、初めてのことだったので大いに動揺していた。
 無論、引き攣った笑みを崩さぬまま。
 相手の女性店員は、サスケの容姿に見惚れて頬を紅く染め上げていた。
 それもその筈だ、美しい容貌を持つサスケ。
 見惚れぬ女性がいれば見てみたいものだ。
 程よい身長に、綺麗に整った体躯。
 甘いマスクをつけているような顔。
 女性の憧れの的となるような男性が目の前に居るのだ。
 ごく自然な流れであろう。
 サスケにしてみれば、それは至極迷惑な話ではあるが……

 「恋人への贈り物でしたら、シンプルではありますがこのネックレスと指輪でしたら喜んでくださると思いますよ」

 「あ……ああ。だが、オレはショーケースに飾られていた、それよりももっと質素なものがいいのだが……」

 何とか気を取り直して、サスケは先ほど店先のショーケースに納められていた装飾品を頼んだ。
 目の前に差し出された首飾りと指輪でも彼なら似合いそうなのだが、如何せん女性がつけるような、そんな色合いの強い
 ものだった。
 女性店員はこれは失礼と言わんばかりに差し出したそれらを元の位置に戻し、ショーケースのものであろう銀色の鍵を
 手にした。

 (これもアイツの為……我慢しろ、オレ!)

 早くこの場から立ち去りたい。
 そして、ナルトの傍に行ってやりたいと、焦れていた。
 そんな中紛れもなく業とらしい店員のゆっくりとした動作に腹を煮やしていた。
 それでも叫びたてるわけに行かず、ただじっとその場に立ち尽くすままだった。

 「お待たせしました」

 待たせすぎだと言わんばかりに待ち侘びたサスケは、女性が手に持つ物を確認した。
 先ほど差し出された首飾りと同類のシルバーのチェーン。
 そして、その先に付けられていたのは何も描かれていないシルバープレート。
 まさしくサスケが望んでいた物がそこにあった。

 「これで宜しいのですか?」

 「ああ」

 「では、このプレートに文字を刻ませていただきますので、此方にてメッセージをお願いできますか?」

 「ああ」

 必要以上の言葉を発することなく、サスケは店員に促されるままにカウンターの椅子へと座った。
 目の前に置かれた一枚の用紙。
 それにサスケはペンを走らせた。
 早く、この場から立ち去りたいが為に……
 書き終え、店員にその紙を手渡して、また待てと言われて再び引き攣った笑みを浮かべるのだった。







 「……サスケの馬鹿っ!!!」

 家に帰り(家と言ってもサスケと同じマンションの部屋)、寝室のベッドの上に伏し、湧き上がる怒りを枕にぶつけていた。

 「サスケの馬鹿! 馬鹿! バカァ!!!」

 薄暗くなり始めた外につられるかのように薄暗くなっていく室内。
 電気もつけず、ただナルトは叫んだ。
 泣きそうに、表情を歪ませて……

 「今日は仕事が終わったら二人で一緒に過ごそうって、あんだけ言ったのに……っ」

 溢れそうになる涙を必死に堪えて、サスケの匂いが仄かに漂う布団に包まった。
 身が寒い。
 冬と言う季節柄な所為だ。
 だが、今のナルトは身が寒いから布団に包まったわけでなく……

 (寒いってば……)

 堰き止めていた涙が、まるで氾濫した川の堤防が決壊したかの如く溢れ出た。

 (サスケぇ……寒いってばよぉ……)

 心が寒くて、ピリッと小さな氷の棘で刺されたかのように疼く。
 怒っている筈なのに……
 泣きたくないのに……
 ぽろぽろと大粒の涙が流れ、布団に一つ、また一つと染みを生み出していく。

 「ふっ……っぅあっ!……っく……」

 静まる部屋の中に響く嗚咽。
 一人だと思えば思うほど……
 どうすることも出来なくなる。



 ばたん……



 扉が開き、そして閉じる音がこだました。



 それにナルトは気付くことなく……



 嗚咽を零し続けた。










 暖を取っていない室内。
 直接肌に触れる空気がとても冷たい。
 あれから漸く解放されて無事自宅へと帰って来れたことにホッと安堵の溜め息を吐いた。

 「アイツ……暖房もつけずに」

 テーブルの上に置かれたエアコンのリモコンを手に、電源のボタンを押した。
 響く機械音。
 温風が吹くまでまだ時間がかかる。
 だが、家の中で厚着をするのもどうかと考え、ダウンジャケットを脱ぎ、部屋にしまおうと寝室の扉に手をかけた。

 その時、耳に届いてしまったのだ。

 ナルトの泣き声が……

 力強く扉を開け、部屋に駆け込んだ。

 「どうした、ナルト!?」

 ベッドの上で、布団に包まりながら必死に嗚咽を止めようとしているナルトの姿。
 そして、サスケが帰ってきたことに漸く気付き体を強張らせるナルト。
 ナルトは驚きに涙を止めた。
 が、隠していなかった頭を布団で隠す。

 「ナルト!」

 「……」

 名を呼んでもそれを気付かない振りをするナルト。
 サスケはそんなナルトの傍に寄る。

 「ナルト……」

 「………か」

 「?」

 小さく聞こえるナルトの言葉。
 それを拾うことは出来なく、サスケは首を傾げた。
 ナルトは急に体を起こして、サスケの胸に飛びつき、それなりに強い力で胸を叩いた。

 「バカ、バカ、バカぁ―――――っっっ!!!」

 「っ!?」

 「今日は、ひくっ! 夜は二人きりだって言っててこんなに遅くまで帰ってこないで、っく!」

 叩きつけられるナルトの罵声に、サスケはナルトの体を抱き締めて耳元に口を寄せた。

 「悪かった……」

 「女の人の方がっ、いいんだろ!」

 あの時のことを思い出して、ナルトは認めたくない事実をサスケにぶつけてしまった。
 出してしまった言葉は戻すことは出来ない。
 言ってしまったことを早くも後悔し、表情を一気に凍らせてしまったが、サスケはフッと小さく笑みを浮かべた。

 「……見たのか?」

 「!」

 「悪い……変な誤解を招いてしまったな」

 未だしゃくり上げるナルトの背を撫で、落ち着かせようと務めるサスケ。

 「……誤解?」

 「お前、オレがアクセサリーの店に入って、店員とのやり取りを見たんだろ?」

 「……」

 サスケの言葉に小さく頷くナルト。
 そこで見た光景。
 また思い出して、業が煮える思いを込み上げた。

 「これ、お前に」

 「?」

 差し出されたのは、白い紙袋。
 ナルトはそれを手に取った。

 「ナルト……メリークリスマス」

 「さ……サスケ」

 「中、見てくれ。気に入ってもらえるかは分からねえが……」

 何処か恥ずかしそうに照れているサスケの顔を見て、ナルトは不思議そうにしながらもサスケの言われたとおりに紙袋の中身を
 覗きこんだ。

 中に一つの小さな箱。
 黒い線を二本引かれた赤いリボンで結わえられているその箱を手に取り、リボンを解いて箱を開けた。

 「これ……」

 「ああ」

 「サスケ!」

 そして、中身を見て嬉しくなったのか、ナルトはサスケに再びしがみついた。
 胸を叩くことなく、今度はぎゅうっと抱き締めて……

 「これを買うためにあの店に……?」

 「そうだ」

 ナルトの為に、あのような不慣れな店に入ったのだ。
 だが、結果としてナルトを傷付けたのかもしれない。
 それでも嫉妬してくれて、更に自分が贈ったもので喜んでくれるナルトが愛おしくて……

 「ありがとう……サスケ」

 涙で腫らした目が痛々しくも、小さく微笑むナルトが……
 自分にとっての宝物。

 「あ、おれってばプレゼント……」

 自分だけと思ったのか、でも準備できなくて……
 財力的な問題も、大学生であるサスケと中学生のナルトである、差が大きいに決まっている。
 サスケは自分の為にプレゼントを贈ろうと、必死に何かを考えるナルトを見て小さく微笑みを浮かべた。

 「物はいい。オレはお前がいてくれるだけでいい」

 「/// は、恥ずかしいってば……」

 何時の間にか先ほどまでの怒り、悲しみが吹き飛んでいたナルト。
 今度はサスケの率直な言葉に照れを隠せずにいた。

 「物よりも、お前が欲しい」

 何よりも掛替えのない恋人。
 物とは比べ物にならないほどの嬉しい贈り物。

 「ん……」

 交わされたキスが……
 とても甘く感じた……

 「メリークリスマスだってば。サスケ」

 自分から送ったキスだったためか、顔を紅潮させながらも祝いの言葉をサスケに投げかける。

 プレートを添えた首飾りを胸元に携えながら……





 
『永遠に傍に to NARUTO from SASUKE』





END

☆あとがき☆

 あ、甘すぎた……
 そして、サスケが犯罪を(おい)
 中学生を襲う大学生!?
 現実にあれば、サスケは確実に豚箱行きだ(豚箱って/苦笑)
 と言う事で、クリスマスフリー小説でした。
 メリークリスマス……



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