落下星の夜
里外れの小高い丘は、空が近い。
さすがに里の名所である、歴代火影の面影を刻んだ顔岩ほどの高度はないが、丘から頭上を仰げば、澄み渡った空を僅かだが身近に感じることができる。
暖かな光を投げかける太陽の下で、白い藻のような雲がうっすらとたなびく様子を、二つの大きな瞳が見つめていた。
先ほどから飽きることなく上空を振り仰いでいる。
あまりにも無心に見入っているので、双眸が碧空に染まってしまうのではないかと思うほどだ。
濁りのない透き通った青い瞳が瞬くと、降り注ぐ陽光に彩られた睫毛の目映さが目を引く。
空の色が移ったわけではないが、その双眸の持ち主は元来、瞳には明るい青が灯り、身には鮮やかな黄金を纏っているのだ。
瞳を空に向けたまま、顔の左右に生えている柔らかな三角形───耳が上下に小さく踊った。
細い首が覗く襟元から、反らされた背筋は蜜柑色の着物に包まれ、結ばれた緋色の帯の辺りからは、豊かな毛並みの尻尾が揺れている。
耳も尻尾も共に、甘い蜂蜜色。大振りの耳や太い形状の尾は狐のもの。
太陽と青空の色を持つ仔狐は、丘の上で両膝を抱えるようにして腰を下ろしてはいたが、なめらかな素脚から続く小さな十の指先を、漆塗りの下駄の上で時折浮かせてみたり、軽く折り曲げたりと落ち着きがない。
しかしそのなにげない仕草は見ていて飽きることがなく、ひとつひとつが印象的だった。
ナルトという名の、狐の子。
「サスケサスケっ」
ナルトが、変声前の高い声音を弾ませる。
呼んだのは、先ほどからすぐ隣に座り、柔らかな温かさを感じさせる仔狐を、見つめている一対の漆黒の持ち主だった。
深い漆色の瞳は、冷たそうな感じすら受ける切れ長の目元とは裏腹に、微かな熱を帯びている。
名を呼ばれたサスケが、ナルトのものよりも鋭角的な耳をさらに尖らせ、先の言葉を待つ。
「星ってどのくらいの大きさなんだろうな?」
ナルトはますます空を見上げ、楽しげに頬を上気させる。
嬉しそうなナルト、その気持ちが感染してしまったかのように、黒い着物の腰から生えている細長いサスケの尻尾がゆらりと宙を泳ぐ。
黒猫であるサスケの尾は、ナルトのそれ以上に、内心を如実に映す。
短い毛に覆われた尻尾の先が、揺れている金毛の尻尾へとそっと近づいていく。
「すげぇでかいって聞いた」
だが、答える声は普段通りあまり感情が表れておらず、ぶっきらぼうでさえあった。
不器用な感情表現しか出来ないサスケだったが、心を奪われるものがあるナルトは意にも介さない。
今は青しか見えない、澄んだ空の向こうに星の煌めきを見つけようと、大きな瞳を凝らしていた。
「でっかいってどんくらい? オレ達よりは小さいよな?」
「オレも詳しく知らないが、その程度じゃないらしいぜ」
「へ〜。なんか信じられないってばよ。───でもさでもさっ、星が降ってきたら、どのくらい大きいのかわかるな!」
ナルトは届くはずもない空に手を伸ばし、屈託のない笑みを満面に浮かべた。
「楽しみだよなー。星が降ってくることは滅多にないって、父ちゃんが言ってたってばよ」
慕っている父から教えてもらった事柄に、ナルトは無邪気な期待を膨らませているようだ。尻尾が歌うように揺れる。
けれど、ナルトがはしゃぐのも無理はない。
今夜は星が、降ってくる。
夜空を流れ星が席巻する───流星群、十数年周期でやってくる、珍しい現象だ。
里に住む人々の多くは、流星群の訪れを楽しみにしているに違いない。
それは、ナルトも同様だ。
まだ日も高いというのに、期待に胸を躍らせながら空を見上げ、流れる星に思いを馳せている。
「たくさん降るといいなー」
ナルトは青空に、朗らかな願いを浮かべる。
弾む口調に合わせて金毛の耳が小さく上下し、柔らかな尾が弧を描く。
明るい日差しの下でナルトの姿は、一際目を引く。サスケの漆黒の瞳には、ナルトの耳や尻尾が動くたび、細かな光が散っているようにも映った。
明るい空の下に居るというのに、あどけない様子はサスケの欲を煽って止まない。
「早く夜になんねーかなぁ」
「少し落ち着けよ」
太陽にかざしたナルトの手を横から奪い取り、サスケはその指を握りこんだ。
掴んだ手をそのまま引き寄せ、小柄な身体を腕の中に閉じ込める。暖かなぬくもりがサスケの胸に灯る。
不意に抱き締められたナルトはむずがるように身じろいだが、甘い色をした耳に軽く噛み付いてやると、丸まっていた尻尾を立てて、「ひゃあ」と声を裏返らせた。
「サ、サスケ……」
「黙ってろ」
「ふ…ぅ……、んッ」
耳を歯で挟んだまま声を出され、体内に直接響く震動に頬が染まった。情欲を含んだ吐息に触れて、鼓膜が熱に濡れる。
短い毛の揃った耳の裏側を舐められたナルトの肩が跳ねた。
さざ波が広がるように、指先や尻尾の先までもが小刻みに震え、ナルトの内側にもたらされたサスケの影響の大きさを物語る。
サスケは、まるで紅を包み込んだように色付く柔らかな頬に唇を這わせ、幾度もその感触を味わう。
微かに尖った牙を立ててみたい欲求が生まれるが、まろやかな皮膚は小さな刺激にも容易に裂けてしまいそうで、危うい衝動を己の奥に押さえ込んだサスケは、口付けることによって幼い狐を慈しんだ。
「んっ、んー」
太陽から隠してしまうように抱き込み、唇を塞ぐ。
ナルトは驚いたのか身体を萎縮させ、耳を伏せてしまった。ふわふわした尻尾も赤い帯の下で縮こまり、金色の毛先が所在なげに揺れている。
顎を捕まえて合わせた唇の隙間に舌を忍び込ませると、ナルトの戸惑いが次第に薄れていった。
サスケから伝わる体温にほだされたのか、自らの裡に芽吹いた心地よさを受け入れたのか、ナルトはサスケの背中にそっと両腕を回していた。
黒い尻尾が、着物を握る手を逃さないよう、絡みつく。
細かいが密度の高い黒毛の感触に揺らいだナルトの背を抱く腕に力が籠もり、口付けの角度が深さを増した。
ナルトは喉を反らせて受け止めながら、瞳をうっすらと開いた。
潤んだ青い瞳に、夜空のような漆黒が映り込む。流れる星の代わりに、その奥には熱が瞬いていた。
吸い込まれるように見つめて、ナルトはほんの僅かに離れた唇から、サスケの眼差しに燃える色と同じ熱に染まった吐息を零す。
「夜になったら……」
甘く痺れる舌で、呂律の緩い声音を紡ぐ。
「いっしょに星……見るってばよ……」
「ああ」
あどけなく願う唇をもう一度塞ぎ、サスケは閉じ込めたままのぬくもりに酔うようにして、瞼を深く閉じた。
窓から望める空の色を確認したサスケは、用意してあった提灯を手に取ると、部屋を出た。
空はすでに夜に染まっている。
澄んだ大気の中、灰色の影───雲のない空には細かな星が散らばっていた。
この様子ならば、流星群が綺麗に見えることだろう。
そろそろ、ナルトと待ち合わせの時間だ。
二階の自室から玄関へと向かおうとすると、居間から母親のミコトが顔を覗かせ、サスケを手招きで呼び止めた。
「サスケ、ちょっと待って」
ミコトはサスケが今夜、ナルトと流星群を見に行くことを知っている。
約束を知りながら、用事を言いつけられるとは思っていないが、サスケは怪訝そうな面持ちで母を振り返った。
戸口から見える居間では、座卓に着いたフガクが巻物を広げている。
何が書かれているのかは察しようもないけれど、普段から厳しい表情がさらに固くなり、サスケと同じ細長く黒い尻尾が先ほどから頻りに畳を打ち据えている。
父はあまり機嫌が良くないらしい。尖りきった耳や、刀の先のように切れ上がった眦を伺えば、それはより明らかだ。
ミコトは夫の険しい様子には頓着せず、小さな包みを見せながら、サスケに笑いかけた。
「はい、これ。持って行きなさい」
ミコトが差し出したのは、掌で包み込めるくらいの小袋だった。
細い紐で括られた口を開けてみると、中には小さく不揃いな形をした、色とりどりの金平糖が入っていた。
サスケは、甘い物が苦手だ。母が何を意図してサスケに金平糖を渡したのか測りかねる。
父親ほどではないにしろ、眉間に皴を寄せて難しい顔をしたサスケを、ミコトは涼やかな目元に悪戯っぽい光を瞬かせて見つめた。
「おやつよ。小さな星みたいでしょ? これから本物の星を見に行くんだから必要ないかもしれないけど、ナルトちゃんと一緒に食べなさい」
「───わかった」
おそらくサスケは一粒も食べず、全てナルトの口に入ることだろう。
そう思いながらもとりあえず頷いたサスケを、ミコトが柔らかい微笑みで玄関まで見送る。
「いってらっしゃい」
母の声に見守られながら外へ出ると、そこには漆黒の海原のような夜空が広がっていた。
まだ降ってはいなかったが、星の気配がいつもより近く感じられた。
待ち合わせ場所は、二人がよく行く丘へ続く小道の入り口だ。
小走りに駆けてきたサスケの下げる鬼灯のような提灯の、暗闇に滲む暖かな橙色の灯火に、ナルトの金髪が淡く照らし出される。
ナルトは先に来て、サスケを待っていたようだ。
サスケはナルトの姿がよく見えるように提灯を掲げる。光の中で、金毛の尻尾がふわりと舞う。
「ナルト」
「おそいってばよ、サスケー」
拗ねたように頬を膨らませながらも、ナルトの瞳は輝石のようにきらきらと光を弾いていた。
抑えきれない内心の高揚が、瞳を通して溢れているように見えた。
しかし、夜だというのにナルトは明かり一つ持っていない。ここまで無明のまま、来たのだろうか。
そしてナルトは明かりの代わりに、何故か竹で出来た籠を抱えていた。
「なんだその籠は?」
サスケが疑問を口にすると、ナルトは辺りの闇を払うほどに明るい笑みを浮かべながら、声を弾ませて答えた。
「これで、落ちてくる星を受け止めるんだってばよ!」
「……何だと?」
ナルトの声音は耳の中で朗らかに踊り、つられて表情を和ませそうになったサスケだったが、内容を言及せずにはいられなかった。
確かに今夜は流星群が見られる。
しかし流れ星を受け止めることなど、出来ようはずがない。
ナルトは本気で言っているのだろうか。怪訝な様子を通り越して不審げな色が眼差しを掠める。
だが、浮かれているナルトは物怖じせずに言うのだった。
「だから、星が降ってくるから、この籠に入れて持って帰んの」
「ナルト……、お前……」
それ以上、言うべき言葉が見つからず、サスケは仔狐の愛らしい笑顔を見つめて絶句した。
どうやらナルトは『星が降る』という言葉を額面通りに捉え、流れ星を籠で受け止めて、持ち帰ろうと思っているようだ。
「ふたつ取れたら、サスケにもいっこあげるってばよ」
そのために大きめの籠を持ってきた───と、得意げな面持ちで、ナルトは柔らかな毛に覆われた耳を揺らしている。
星を受け止めることは無理だ。分かっていながらも指摘できないのは、無邪気なナルトの笑顔を壊すのが忍びないからだ。
このウスラトンカチは仕方ねぇな……、と内心で嘆息しながらも、ナルトに向ける眼差しにはぬくもりの感じられる苦笑いが混じる。
「行くぞ」
「ん」
こくり、と金髪を上下させるナルトの手を握り、サスケは提灯で細い小道を照らした。
木ノ葉の里内で最も高い場所は、長の顔が彫刻された火影岩だろう。
夜空を仰ぐには絶好の場所だ。
しかしサスケは敢えて火影岩を避け、いつもナルトと遊びに来ている丘で流星群を見ることを選んだ。
今夜、流星群が見られることは里の人々も知っている。自宅ではなく、より鮮明に流星群を楽しもうと、高い場所へ向かう者も居るはずだ。
そうした者達が真っ先に思い浮かべる場所と言えば、火影岩に違いない。
今頃、火影岩は多くの人々がひしめき、空を見上げていることだろう。
ナルトと二人きりで流れ星を見たいと思っていたサスケは、そんな状況を見越して火影岩ではなく、穴場であるこの丘へやって来たのだった。
読み通り、丘には二人以外に誰の姿もない。
提灯の明かりを消し、肩を寄せ合って見上げた夜空は限りない闇色をしていたが、星が点々と光っている。
ひとつひとつは小さな光に過ぎないが、見えない糸によって繋がっているように、互いが互いの輝きを引き立たせ合っている。
幾多の星が、素っ気無い夜空を銀色で飾る。
草の上に座り込んだナルトは膝を抱えながら、昼間と同じように空を仰ぐ。
暗闇の中でもわかる眩しい色の耳や尻尾が緩やかに動くたび、すぐ隣に座っているサスケの耳や背に触れ、些かくすぐったい。
「いつ頃、降ってくんのかな」
「予測だと、もうそろそろのはずなんだがな」
「ん〜、遅いってばよー」
ナルトがもどかしげにぼやくと、まるでその願いを叶えるかのように、空の一角で目を引く瞬きが生まれた。
キラリと輝いた瞬間、一筋の光が斜めに尾を引いて流れた。
「あっ!」
流星に気付いたナルトが、跳ねるようにして立ち上がった。空を見上げたまま、サスケも腰を上げずにはいられなかった。
夜空を縦断した白い光は遠い稜線にぶつかる前に、潔く消えていく。
煌めく軌跡だけを、見る者の網膜に残して。
そしてそれが呼び水になったのか、漆黒の空から無数の細い光が降り始めた。
星は次々と光り、空を、そして見上げるナルトやサスケの視界を埋め尽くす。雨のようだ───。
ひとつとして同じ輝きはない。
どれも異なる瞬きを見せ、夜空に繊細な華やぎを束の間、与えていく。
ナルトだけでなくサスケも、初めて見る流星群に心を奪われていたが、不意に横から小さな唸り声が聞こえ、幻想的とも言える光景から、現実へ立ち返った。
「むー……っ。星、落ちてこないってばよ……」
目を向ければ横ではナルトが持ってきた竹籠を覗き込み、眉を寄せている。耳も尻尾も、くたりと項垂れていた。
当然ながら、竹籠の中にはなにも入っていない。
流星を見たばかりの歓喜は萎み、ナルトはいまだ光を流している空を悲しそうに見上げる。
「やっぱりもっと高いとこじゃねーとダメなのかな……」
二人が居るこの丘には、流れ星の欠片すら降ってこない。
星が地上に落ちることは稀なのだということも、もし落ちたとしても竹籠で受け止めるのは不可能なことも知らないナルトは、単純に高度の問題を疑ってみた。
もちろんここよりも高い火影岩へ行ったところで結果は変わらないのだが、丘で流星群を見ることを決めたのはサスケだ。
落胆を滲ませるナルトの表情を、なんとか晴らしてやりたいと思わずにはいられなかった。
責任感と、そしてなにより、気落ちしているナルトを見ていたくない。
サスケが心を奪われたのは、疑うことを知らない短絡思考の、日溜りのような仔狐なのだから。
慕情に急き立てられるように焦るサスケは、僅かに身じろいだ瞬間、懐に入っている小袋の存在を思い出した。
出掛けに母に持たされた、金平糖が入った小袋だ。───そうだ、これがある。
さりげなく懐へ手を差し入れたサスケは、力なく尻尾を左右させながら、ナルトが再び空を仰いだ隙を見計らい、仔狐が両手で抱えている竹籠にそれを放り込んだ。
竹籠の底で微かな音が鳴り、軽い重みが加わったことに、ナルトはハッと視線を下ろす。
「あれ?」
やっと星が捕まえられたのか───と期待に輝いた青い瞳は、しかし竹籠の中に入っている小袋を見つけて、不思議そうに瞬かれた。
ナルトは指先で抓み上げた、妙にいびつに膨らんだ小袋を多方面から眺めた。
サスケは別段なにも言わず、竹籠を地面へ置いて小袋の紐を解くナルトの様子を窺っていた。
「金平糖……」
袋の中には細かな星が詰まっていた。山になっていた金平糖がざらりと崩れ、ナルトは慌てて両手で包み込む。
落とさないよう注意しながら、ナルトは隣に立っている黒猫の少年へ顔を向ける。
青い瞳が問う。この金平糖はサスケがくれたものなのかと。
ナルトは大きな瞳で見つめただけだったが、眼差しは言葉よりも豊かに感情をサスケに伝えていた。
見つめられたサスケは、無愛想な表情を崩さないまま、そっぽを向いてしまった。
「……星、捕まえられたじゃねーか」
ぼそりと呟く。
しかし、じっと視線を注いでいたナルトは、黒髪の隙間から見える彼の頬に赤みが差していることを見逃さなかった。
不機嫌そうに聞こえる声音ではあるが、それは感情表現が下手なサスケの照れ隠しだ。
さすがにナルトでも、空から金平糖の入った小袋が落ちてくるとは思わない。
金平糖をくれたのはサスケだ。間違いない。
顔は他所を向いたままだったが、サスケの腰の辺りでは黒檀の尻尾が落ち着かなげに宙で半円を描いている。
ナルトは流れ星が手に入らなかった悲しさも忘れ、黒猫の優しさに思わずくすりと笑みを零していた。
溢れそうになっている小さな星の山───金平糖の中から、白い粒を選んで口に含む。
こりこり、と歯の間で転がすと、仄かな甘さが広がる。
ナルトは身体を傾け、照れた様子で佇んでいるサスケの肩に凭れ掛かった。
「流れ星はきれいだけど、オレってば、この星も好きだってばよ」
まるで内緒話のように囁く。
柔らかな金毛の耳を摺り寄せてくるナルトの背中に、サスケの腕が回る。互いの着物を通して、体温と鼓動が響く。
憂いの晴れた笑顔が、サスケを見つめていた。
空では今も、星が流れている。サスケの腕の中の、大きな澄んだ碧眼にも一条の光が走った。
「オレも、見つけたぜ……」
真昼の青空のような瞳に映った流れ星、サスケは自分以外に見ることは出来ないだろう、そのなによりも珍しく、綺麗な輝きを胸に深く閉じ込めた。
熱に浮かされたような睦言が唇を突いて出る。ナルトが恥ずかしそうに耳を震わせて、微笑んだ。
サスケは碧眼の星を見つめたまま、淡く染まった頬に顔を寄せた。
金色の睫毛が揺れ、青い球体に滑る星が隠された。───が、それで構わない。
星は今も落ちてくる。
重なった二人の頭上では一瞬の煌めきが絶えることなく生まれ、音のない雨のように流れていた。
END