三日ぶりの木の葉隠れの里。
それでも、本当は五日掛かるはずだった任務を二日早く終わらせたのだ。
早く、ナルトに会いたいがために。









乙女の悪戯









多少汚れている体が気になったが、そのまま報告書を出しにいく。
すると前から見知った顔が歩いて来た。
シカマルはサスケの顔を見て、些か驚いたような顔を見せた。
なんなんだ一体と横を通り過ぎようとすると、呼び止められた。

「なんだよ」
「…お前、今帰って来たのか?」
「あぁ?これでも二日早く終わらせたんだぞ」
「そりゃあメンバーが可哀想なこって。…ってそうじゃなくてだな…。じゃあさっき ……あれ?」

珍しく考え込むような顔を見せるシカマルに、眉を寄せた。

「どうしたんだ?」
「いや、さっき……つっても一時間ぐらい前か?あいつが黒髪の男と歩いてたからさぁ…」
「……なんだと?」
「オレを睨むなよ…」

怖い顔すんなって、とシカマルはめんどくさそうに欠伸を見せた。
そろそろ昼寝の時間かー…。
呟きその場から消えようとするシカマルの肩をがっと掴み、睨みつける。

「どこでだ…?」
「一時間前に…演習場だったな。今はいねえと思うぜ?まあ後をつけるなら着替えてから行けよ」

血生臭いぞ、お前。
鼻を抓んで言ったせいか、シカマルの声は少し変だった。
シカマルを解放し、サスケは姿を消した。
あー…とシカマルの気の抜けた様な声で呟き、首を傾げた。

「…もしかして余計なこと言ったか?オレ………つかあの男…どっかで見たことある気がするんだよなー…」

まあいいかー。
欠伸を漏らし、いつもの昼寝場所に足を向けた。






そのまますぐに捜し回りたかったが、シカマルの言う通り、血がこびり付いている服 を着て里を歩くのもどうだろうと辛うじて考えたサスケはまず家に帰りシャワーを浴 びた。
自分の知り得る限り最短の時間で風呂場から上がり、簡単な服に着替える。
そして家を飛び出した。

始めに演習場に向かった。
まあシカマルが見たというのは一時間も前なのだからいないだろうとは思っていたが、ただ修行をしていただけならまだいるかもしれない。
しかし、演習場にそれらしき姿は見えなかった。
変わりに、数人の下忍が修行をしている。

「チッ………」

舌を打ち、サスケは新たな場所へと移動した。






同時刻。
今日公開の映画を見終わったナルトは、映画館から出てきた。
「結構面白かったなー」
「ナルト君はああいう格闘系の映画がいいの?」
「うん。まぁ…っと。その場合はいいんだ、だってばよ」
「あ、そうか。ごめん」

謝る相手に、大丈夫だってば、とナルトは笑みを見せた。
相手は頬をほんのり染める。

「大分板についてきたってばね」
「そうか?」
「うん。次、どこ行く?」
「喉渇いたかな。どっかでお茶しよう」

どこ行くんだってば?
ナルトの言葉に少し眉を寄せ、男二人でも平気な場所…。
そう呟き、首を傾げた。

「サクラちゃんが男同士でカフェに入るのは寒いって言ってたってば」
「イノ…ちゃんも言ってたな」
「うーん……」
悩みながら道を歩く。
道行き交う人々がそんな二人を振り返る。
美形の―――と言っても可愛らしいタイプなのだが―――男が二人もいたらそれはもう振り返るだろう。

「…そこら辺の喫茶店でいいってばよ」
「そうだね。そこにあるお店でいい?」
「大丈夫だってば」

二人でわいわい話しながら喫茶店に入った。






数分後。
サスケが勢い良く喫茶店の前を通り過ぎた。
映画館の前でナルトと見たことのない男を見かけたと言う情報をキバから得たのだ。

キバは今頃家に篭って震えていることだろう。

「クソッ…一体どこにいるんだよ……!」

苛立たしげに吐き捨て、サスケは映画館の壁を力任せに叩きつけた。
壁はばきりと可哀想な音が鳴り、見事にそこは凹んだ。
周りにいた人々はその光景をみた瞬間にスーッといなくなる。
邪魔な前髪をかき上げ、サスケは舌打ちを漏らした。
額には薄っすら汗が浮かんでいる。
サスケがこれほど必死になるのはナルトのことだけだ。
同じ里にいるというのに合えないというのはなんと歯痒いものだろう。

「…うちはサスケ。何やってるんだ?」
「……シノ」
「周りを見てみろ。誰もお前に近寄って来ない。取り乱しすぎだ」

冷静に今の状況をサスケに言うシノの読めない表情を見た。
自分の顔がシノの掛けたサングラスに映る。
必死な顔をした自分の顔を見ると、スッと冷静になれた。

「おい。ナルト見なかったか?」
「…ナルト?だったらさっきそこの喫茶店から出てあっちに歩いていったが?」
「………なんだって?」

そこにいた、と歩いて三十秒も掛からない場所にある喫茶店を指差し、シノは言う。

先ほどまでそこにナルトがいたと。
下がった筈の血がまた頭に上がるのが分かった。
シノはさて帰るかと体の向きを変えた。

「テメェなんでさっさと言わなかった!」
「お前が何を捜しているかなどオレに判断できるわけないだろう。捜しているなら さっさと行け」

あ。と呟き、シノはサスケを振り返った。
サスケを見て、言う。

「…あんまりキバを怯えさせるな」
「いつオレが怯えさせた?」
「キバにはいつもオレの奇怪虫がいる。誰が何をしたかお見通しだ」
「趣味わりぃな」
「お前に言われたくない」

それじゃあな、とシノは今度こそ姿を消した。
サスケはシノが何を言っていたか理解して、いつ見たんだと舌を打った。
シノが言っているのはナルトの後ろにピッタリくっついて歩いていたことだろう。

まさか見られていたとは………。

ついでに言ってしまうとサスケやナルトと同期の者は全員と言って良いほどその姿を 目撃している。
キバに至ってはそれを見たとき数日間家から出られなかったそうだ。
サスケはもう一度舌を打つと、シノが見たナルトの行った方へと走り出した。






「だからさ、やっぱりオレは納豆って良いと思うんだってばよ」
「そうだね。健康にもいいし」
「だろ?そう思うだろ?なのにサスケってば納豆は人の食い物じゃないとか言うんだってばよ!?」
「好みは人それぞれだし…。そこまで言うことないな」

嬉々として話すナルトに優しく微笑みながら男が答える。
黒髪の男にとって、今は至福の時間と言っても過言ではなかった。
隣には可愛らしい笑みでこちらに笑いかけてくれる少年。
今、自分は本当の姿ではないが、とても嬉しかった。
ナルトと対等に歩くことが。
まるでデートのようなこの行為が。
永遠に叶わないと思っていたこの恋が、叶ったような気になってしまう。

「ナルト!」
「あ、サクラちゃん」
「結構上手く行ってるみたいねー?」
「イノちゃんも」

後ろから名を呼ばれ、二人は振り返った。
そこにいたのは桃色の髪と薄いクリーム色の髪を持った同期のくの一。
サクラとイノだった。
二人も今日はオフで、買い物に出かけていたと言う。

「かっこいいじゃない」
「ね、私もビックリ」
「これなら結婚してもいいわー」
「相手にも選ぶ権利はあるけどね、イノブタちゃん」

挑発的なサクラの言葉にカチンと来たのか、イノは形の良い唇を上げて笑う。

「サスケ君は諦めたけど、あんたより先に結婚するってことは諦めてないんだけからね、あたしー」
「それはこっちの台詞よ」
「まあ可哀想なのはサスケ君に恋人がいるとも知らずにまだサスケ君を追いかけてる子たちよねー」

チラリとナルトに視線を向けるサクラとイノに、ナルトは頬を少し赤くした。
サスケと恋人同士という枠に入っているナルトは、照れたように視線を外した。
イノの言いたいことが分かったようだ。
男はそんなナルトを微笑ましく思うと同時に、胸が締め付けられるのを感じた。
叶わないのは始めからわかっていたじゃないかと思う。
ナルトと話しているイノを放り、サクラは男に小声で話しかけた。

「そんなにスキなら奪っちゃえばいいのに」
「…そんなこと、怖くて出来ないよ」
「ふふっ、確かにそうね」

分かっているのにそんなことを言っているのだ。
男は少しムッとした顔でサクラを見ると、怒らないでと笑われた。

「それより、あんたたちこれからどこ行くか決まってるのー?」
「ううん。まだだってば」
「じゃあさ、お願いしたいんだけど。このお店で紅茶買ってきてくれない?」

渡された店名と住所が書いてある紙を見て、ナルトは首を傾げた。
この場所からそうそう離れたわけでもないし、離れていたとしてもまだ時間は早い。

十分自分達で行けるはずだ。
ナルトの疑問を感じ取ったのか、イノは少し呆れた顔をして教えてくれた。

「そのお店、ホテル街を抜けたところにあるのよ。そんなところ、あんたの好きなサクラに通らせていいの?」
「だ、ダメだってばよ!」
「でしょ?だから行ってきて」
「でも…」

ナルトは言葉を濁し、男の方をチラリと見る。
男はオレは大丈夫、と柔らかな笑みを返した。
本当だってば?尋ねて頷かれ、暗くなる前に行ってしまおうと促された。
ナルトは頷き、サクラとイノに別れを告げて店の方へと向かって歩き出した。






大通りを歩きながら、サクラはぽつりとイノに言う。

「あんたねぇ。ホテル街はないでしょホテル街は。ナルトは兎も角…」
「あらー。だって私達だけじゃ行けないって言ったのあんたじゃない」

それはそうだけどとサクラは眉を寄せた。
イノは気にした様子もなく先ほど買ったクレープに齧り付いている。
サクラは溜め息を付き、一緒に買ったアイスティーを啜った。

「それにさ、何かあっちゃうかもよー?」
「何かって?」
「ナニか。」
「…まずないでしょ」
「まあねー」

あはは、と笑い、イノは口を動かした。
呆れたようにイノを見て、サクラはその後目に入った特徴的な黒髪にイノの腕を引っ張った。
イノも少し離れたところにいる人物に気が付いたのかサクラを見る。
お互いに目を合わせ、不思議そうな顔を見せた。
とりあえず、関わりたくない。
走ってくるうちはサスケと言う男の目は据わっている。

「サクラっ」

素知らぬ顔で歩いていたら案の定声を掛けられた。
随分焦っているらしい。
珍しいと二人顔を見合わせた。
同時に、頭のいいサクラは一つの仮説を立てる。
もしかして、目の前の男は知らないんじゃないか、と。

「サスケ君、私も今会いに行こうと思ってたのっ」

「ちょ、サク……いたっ」

イノの言葉を足を踏むことで遮り、サクラは心配そうな顔をサスケに向けた。

「何か、あったのか…?」
「ナルトのことなんだけど…」
「見たのかっ!?」

肩で息をしていたサスケがばっと顔を上げた。
うん、とサクラは頷き視線を泳がせた。
嫌な予感がしたのかサスケはサクラの肩を掴んだ。
サクラは視線をナルトが行った方へと向けた。

「その…知らない男の人と、ホテル街に行ったの。…思い詰めた顔で……」
「ホテル…街………」
「そ、そうなのよー。サスケ君、何か心当たりないの?」

サクラの意図を察したのかイノも話を合わせる。
心当たり…?
呟き、サスケは顎に手を置いた。
ぶつぶつと小声で聞こえてくるのは最近ナルトの機嫌を損ねたものらしい。

「冷蔵庫にあった納豆を勝手に捨てたことか?それともラーメンに無理やり野菜を入れたことか…。…まさかこの間任務明けにしつこくヤったからか?」
「……全然心当たりがないわけじゃないのね」
「寧ろありすぎるぐらいなのねー…」
「………悩んでても仕方ねぇ。サクラ、礼を言う」
「早く行かないと盗られちゃうかもよー?」
「…そんなことさせるわけねぇだろ。あいつはオレのものだ」

言い捨て、スッと姿を消したサスケに、イノとサクラは再び目を合わせた。
イノはんー、と考えた後、

「とりあえずばれる前に家に帰らない?」
「賛成」

サスケ君で遊ぶのって怖いけど止められないのよね、とサクラが笑うと。
イノも笑ってそれに同意した。






ラブホテルの並ぶ道を一人でずんずんと歩く。
前方と両脇をきょろきょろと見回しながら歩くサスケの姿を見たものは男女問わず逃げていく。
通りの中心を過ぎた頃だろうか?
目の前から楽しそうに笑う金髪の頭が見えた。
もちろんナルトだ。
隣には、確かに全員の証言通り見たことの無い男がいる。
恋焦がれるような目でナルトを見つめている。
ここで、サスケは自分の怒りが頂点に達したのを感じた。

「…、ナルト!」
「………サスケェ?」

怒鳴るようにナルトの名を呼ぶと、ナルトは驚いたような目をサスケに向けた。
焦りのないその表情に更に怒りが募る。
真横にあったホテルに一瞬視線を向け、ナルトに近づき腕を掴むと有無を言わさずそこに入ろうとした。
しかし、それはナルトの隣にいた男によって遮られた。
男がサスケの腕を掴んだのだ。

「…邪魔するな」
「ちょ、ちょっと待って。サスケ君、絶対誤解してるから…」
「あァ?誤解?ナルトがテメェと浮気してた。事実だろ?」
「う、浮気なんてしてないってばよ!」

慌てたようにサスケを見るナルトに、じゃあこの男は誰なんだと睨みつける。
ナルトもサスケを睨みつけ、誤解すんなってばと怒鳴った。

「……解っ」

ぼふん、と煙が男を包んだ。
次第に見えてくるのは先ほどの男とは全く違う人物。
見覚えがありすぎる人物。

「日向…?」
「ご、ごめんね、サスケ君…」

申し訳なさそうに眉を寄せサスケに名前を呼ばれた人物は俯いた。
見覚えがありすぎる人物。
それは当然だ。
先ほどの男は同期のくの一である、日向ヒナタの変化だったのだ。
サスケは先ほどと表情は変わらないものの、溜まっていた怒りは消え去ったようだ。

ナルトは全くと溜め息を吐き、サスケの腕をやんわりと払った。

「日向、だったのか?」
「う、うん」
「ヒナタの今度の任務が男に変化してある令嬢のパートナーを務めることなんだってばよ」

だからオレと一緒に行動して男っぽい仕草とかを見に付けてたの、と怒ったようにナルトが言った。
ネジ兄さんだと私に気を使っちゃうから、とヒナタも続ける。
いや、でもとサスケは反論。

「シカマルもキバも…サクラたちもそんなこと言ってなかった」
「…?何言ってんだってば?シカマルたちは知らないけど…サクラちゃんたちは知ってるってばよ。だってサクラちゃんだもん。これ提案したの。なあヒナタ?」
「う、うん。それに…こっちにあるお店で買い物して来てって言ったのはイノちゃんだし…少なくとも二人は知ってるはずだよ?」
「………………騙された。」

ぼそりと呟くと、騙された?とナルトは復唱した。
離れたナルトの腕をがしりと掴み直すと再びホテルに入ろうと足を勧めた。

「ちょ、サスケ!?」
「まあいい。サクラとイノは後で処置するとして……ナルト」
「何…?」

嫌な予感がするんですけど。
内心汗をだらだらと流し、ナルトは頬を引きつらせた。
サスケはヒナタにチラリと視線を動かした。
ヒナタは何かを悟ったように、少し名残惜しそうにしながらナルトに礼と別れを告げてパタパタと走って行った。
にやりと口に弧を描き、サスケはいやらしく笑った。

「お前がオレ以外のやつとデートしたことには変わりないだろ?」
「それはそうだけど………」
「だから」
「だから?」

にこりと微笑んでサスケは爽やかに言い放った。

「このホテルでオレの満足するまでヤらせろ」
「……はい?」
「料金はオレが持ってやるから。まず風呂でな。その後ベットで朝まで」
「ちょ、今何時だと思ってんだってばよー!?」

ナルトの悲痛の叫びがホテル街に木魂したとかしないとか。






お後がよろしいようで。




















(終)


「砂漠のオアシス」の紅葉さんから誕生日祝いに頂いてしまいました素敵小説…!
「ナルトの浮気疑惑に慌てるサスケ」さんというリクをさせて頂いたのですがもう激 ツ ボ !!!
里中を駆けずりまわってるサスケさんがもう目に浮かびます(笑)一時たりとも目を離したくないほどベタ惚れっぷりが最高ですー!理想のサスケ氏と浮気する相手には決して困りそうにないくらい可愛いナルトさんをありがとうございました!
サスケさんの強い独占欲を受け止め(させられ)るナルトさんに合掌ですvvvごち!



'05/10/10