鎮魂の日は憎悪をかき立てる日でもある。

 だから、上忍になった今もなるべく人気のないところで一人で過ごすようにしている。

 

 鐘が鳴る。

 普段は奥底に沈めている悲しみと憎しみを暴くように。

 

キライなモノ

 

 わざわざ休暇申請を出してまでもぎ取った休み。

 その申請を受理した綱手は何ともいえないといった感じで苦笑していたけれど、結局はこうして許してくれる。誕生日プレゼントとしてというのも効いているのだろう。

「ここならいいか…あ〜、今年はいい天気だな」

 大きな木の下からは余り見えない枝に座って、ナルトは背筋を思いっきり伸ばして幹にもたれかかった。

 さすがに上忍になったのであからさまな嫌がらせはなくなったが、やっぱり段々この日が近付くにつれて里の人の目が嫌な物になってくる。

 昔から悪意を向けられてきたからそういうのに敏感だ。

「まあ、役に立ってることもあるけどさ」

 ナルトは独りごちて寄って来た野鳥に目を向ける。

 朝食用に持ってきたパンの存在を思い出してそれを取り出して小さくちぎった。

 元々里の重苦しい空気にあてられて食欲なんてない。

 掌にのせて差し出すとちょっと警戒されたがすぐに小鳥はパンをついばみ始めた。よく森に逃げ込んだりしていたから、森に溶け込むのも動物とすぐに馴染むのも体が自然と覚えていた。おかげで森での任務はサスケより上手い。

 食べ終わってすぐに飛び立ってしまった小鳥を眺めながらまだかなり、いやほとんど残っているパンを見てそのまま捨てようかと思ったがそんな事を知ったら烈火のごとく怒りそうなサスケの顔がよぎったのでとりあえずしまっておく。サスケが食べ物を粗末にすると怒るのはきちんとしつけられたからだろうか。前散々怒られたのでそれ以来ナルトは気をつけているのだが、こうも食欲がなくてはまた怒られそうだ。

 ちなみにサスケには黙って出てきたので今頃探しているだろう。

 いつも一人っきりでどこかに隠れていてもサスケは意地でナルトを見つけ出してそれからずっと日付が変わるまで一緒にいてくれる。

 ナルトは探さなくていいと口では言ってしまうが、サスケに見つけてもらうと気が紛れるしなにより何だかホッとするのだ。

「でも、ちょっとは独りになりたいってばよ」

 だからみんなから見つけにくいといわれた森にやってきて見えにくいところに潜んでいるのだ。

 ちなみにそう言ったのはナルトと同期の者達で、合同演習のかくれんぼもどきの時に最後まで一人だけ見つからなかったのだ。隠れるのは班ごとの下忍達三人で残りの班が見つけるのだが、カカシ班が隠れた時だけナルトが時間内

に見つからずそう評されたのだ。

 森に溶け込むのは酷く心地いい。

 うとうととまどろみながら、ナルトは風の起こす葉音を聞いていた。

 

 毎年毎年、ナルトはこの日になるとどこかにいなくなってしまう。

 里に任務で出ることもあるし、とにかく里の人間の目に触れないようなところに隠れてしまうのだ。

 サスケにはそれが腹立たしいが、ナルトを見つけた時に向けられる顔を見るとどうしても強く言えなくなってしまうのでこのかくれんぼはずっと続いている。

 今年もまた家から消えていたのでとりあえず去年と一昨年あたりに隠れていた所は除外して探し出す。

 同じところには続けて隠れないナルトを探すのは結構骨が折れるが、これがいい修行にもなる。

「昼前には見つけ出してやる…!」

 自分自身に言い聞かせるようにサスケは呟いて家を後にした。

 

 太陽が高くなって、ナルトは目を開けた。

 ずっと完全に寝ないようにしていたが、一時間ぐらい熟睡してしまったようだ。

 眠いなぁとナルトは思いながら下を見る。そしてそのまま周囲をぐるっと見渡して誰もいないことを視覚でも確認する。

「…サスケはまだか。今年はちょっと遅いかな?」

「誰がだ?」

 唐突に声が降ってきて、見上げると上の枝からサスケが顔を出した。

「…いつからいたんだってばよ」

「ついさっきだ。見つけたらお前はぐっすり眠り込んでたから起きるのを待ってた」

「ふうん、起こしてくれてもよかったのに」

 まだちょっと霞がかっていた頭が段々晴れていく。

「お前、メシは?」

「食ってないってばよ。パンは持ってるけど」

「…じゃあ、いつも通りうちに来いよ」

 好きなもの作ってやるというと、ナルトはふんわりと笑った。

 サスケはこのナルトの顔に弱い。安堵感や疲労がごちゃ混ぜになった複雑な笑顔。

 いつものようにただ喜びからの表情を浮かべて欲しくてサスケはいなくなるナルトを一生懸命に探すのだ。

 

 鐘が再び一年の眠りにつくころにはナルトはいつものように笑って騒ぐ。

 

 ナルトの誕生日は来て欲しいが、サスケはあの鐘の音が嫌いだ。

 鐘の音が鳴るとナルトの表情が陰るから。

 日付が変わると、ようやくサスケはこう言えるのだ。

「誕生日おめでとう、ナルト」

 その時の笑顔はやっぱり複雑な物だった。

 

 

 

 

ははは、どこが祝ってるんだよ。(殴)
でも本人としてはめいいっぱい祝ってるつもりなんです…。
あ、鐘自体は別の時にも使われるんですが、鎮魂の意味では年に一度です。(補足)
去年考えてたのはこうならないはずだったのに…。