もらった袋の中には舟の形に折った紙。
見事な筆遣いで何か書いてあるのかさっぱりわからなかったけど、サスケに意味を教わったから枕の下に入れておいた。
長き夜の…
鐘を聞いて、片付け終わってからずいぶんと早く家を出た。
すっぽりと耳までニットの帽子を被って、マフラーと手袋もして。
いつも人のいない時間にかなりの人数が出歩いて出店などを覗いている。
ナルトは持ち前の好奇心から、目を離すとすぐに駆け出そうとするので、サスケはしっかりとナルトの手を握った。
傍らを通り過ぎる人々は二人に気づかない。
人ごみの中に二人して溶け込んで、普段の人の目が嘘のよう。
押されて揉みくちゃにされて手が離れそうになって、ナルトからもしっかりと握った。
いつもなら周囲の目を気にして握り返してくれないのに。
握り返してくれた手を離さないように、サスケはよりしっかりと自分よりやや小さい手を握った。
人がすごくてなかなか進まなかったので、思った以上に時間がかかってしまった。
ついでにおみくじを引くと、サスケは吉。ナルトは大吉だ。
「お前、本当に運がいいよな」
「うん。俺ってば今年も強運みたい」
ナルトの運の強さにサスケは初めびっくりしてしまった。一枚しか買わなかった富くじが大当たりするし、商店街で一緒にやったくじも欲しいと言っていた一楽のラーメン一年分を器用に当てる。ちなみにその時にサスケもやったのだが、ティッシュしかもらえなかった。
「でも、そういう運よりもっと別なもんを持ってたかったなぁ」
枝におみくじを結び付けながらナルトが言った。
「別の物?」
「家族とか、兄弟とか」
その言葉に、サスケは結んでいたおみくじを破ってしまった。
「…何破ってるんだってばよ。破っちゃっていいの?」
「別に大丈夫だろ…」
破ってしまったおみくじをコートのポケットに突っ込んでまた手をつなぐ。
「寒くないか?」
「平気だってばよ」
普段より素直に手をつなぐナルトは笑って答えた。
「まだ時間いっぱいあるけど、どうする?」
「店で何か買うか」
「あ。じゃあ、俺甘酒飲んでみたい!」
「ああ、あっちで配ってたな」
「行こうってば」
二人で焚き火の近くで客に振舞われている甘酒をもらう。手袋越しなので、熱めの甘酒はちょうどいい温かさに思える。
湯気は出ているが、普通に持てたので油断したのかナルトはろくに吹き冷まさぬ内に一口含んだ。
「あつっ!」
「大丈夫か?」
「う〜…平気」
舌を外気にさらしながらナルトは言ったが、熱々の甘酒を含んでしまったのだから火傷に近い状態になっているのだろう。
「冷ましながら飲まないとだめだろうが」
「持っても平気だったから、つい…」
「ちゃんと吹きながら飲めよ」
「わかったってば」
そう言って、ちょっと吹いた後に恐る恐るすする。
「…甘い」
「甘酒だからな」
「結構おいしいってば」
ナルトは気に入ったのかチョコチョコと飲んでいく。
サスケはまだ口にする決心がつかない。やっぱり遠慮しておけばよかったかもしれない。
「サスケは飲まないってば?」
口をつけないサスケにナルトは首を傾げて、その理由に思い当たったようだ。
「…サスケって甘酒も駄目なの?」
「さあ」
名前が名前だけに今まで手に取ろうともしなかったから、大丈夫なのかどうかわからない。
「一口試してみたら?」
「…甘いんだろ?」
「でも、砂糖の甘さじゃないってばよ」
ナルトに見つめられてちょっと口に含んでみるが、口内に広がる甘さに思わず眉間に皺が寄る。
「…駄目?」
「…我慢できないほどではない」
「じゃあ、もう飲まないほうがいいんじゃねぇ?」
「お前、飲むか?」
ほんの僅かに口をつけただけなので言ってみるとナルトは頷いた。
「でも、俺がこっちのみ終わるまでは持ってて」
「ああ」
ナルトはまたちびちびと飲み始める。
サスケはナルトの寒さで赤く染まっている頬や甘酒で濡れている唇を見ていた。
「…あんま見んなってば」
飲みにくいとナルトは目を吊り上げたが、それも可愛い。
いっそ茂みにでも連れ込んでしまいたいが、今は冬で、そんな事をしたら風邪どころではすまないだろう。
「別にいいだろ。可愛いんだから」
「…!」
その言葉に、ナルトの頬に赤みが増した。
魚のように口を開閉させていたが、さすがにこんなに人がいる中で怒鳴るわけにもいかない。
「俺のも飲むんだろ? とっととしないと冷めちまうぞ」
ニヤリと意地悪く笑うと、ナルトは頬を膨らませて残りを一気に飲み干した。そしてサスケの持っていた紙コップを奪い取るとそれも一息で飲み干したのだ。
「お、おい…」
「…ふぅっ」
飲み干したはいいが、何だが様子がおかしい。
「ん〜? 何か、熱くなってきたぁ…」
そう言ってマフラーを緩めて他の物も脱ごうとするナルトにサスケは止めに入る。
「熱いからって脱ぎ始めるな! 風邪引くぞ」
「だってぇ〜熱いんだってばぁ…」
潤んだ瞳で上目遣いに見られ、サスケは思わずのどを鳴らす。だがすぐに邪念を振り払い、ナルトのマフラーだけは許して後はつけたままにさせる。
「全く…まさか甘酒二杯で酔うとはな…」
「酔ってなんかねぇって、ば…」
ナルトは怒鳴ろうとしたが、すぐに瞼が落ちてくる。
とろんとした目を見て、サスケはため息をついた。どうやらナルトはアルコールが入ると眠くなるタイプのようだ。
「眠いんだな?」
「眠くなんか…ないってば」
眉間に皺を寄せて言っても、身体は正直なようでどんどん瞼が落ちていってしまう。
「一旦家に帰るぞ。そんなんじゃ初日の出は無理かもしんねぇな」
その言葉に、ナルトは俯きかけていた顔を上げた。
「だ、大丈夫だってば!」
「やせ我慢すんな」
「してねぇ!」
ナルトは必死にそう言いつのるが、サスケは宥めるように頭をなでる。
「ちょっと家で寝てからでも間に合うだろ? 肝心の時に寝ちまうよりいいだろうが」
もっともな事を言われてナルトは渋々頷いた。
「もっといっぱい見て回りたかったってば…」
残念そうに言ったナルトに、サスケは自分の甘酒をあげた事に軽い罪悪感を感じた。
家に着くとナルトはコートを脱ぎもせずに横になってしまった。よほど眠かったのだろう。
サスケはポケットにあったおみくじの残骸を捨てようと手を入れた時に、何かがあるのに気がついた。
出してみると、それは宝船がプリントされた紙袋で中には小さな舟の折り紙が入っている。
「初夢の時のか…」
流れるような筆遣いで書かれた歌を見てサスケはそう呟いた。
捨ててしまおうかとも思ったが、ナルトが好きそうなので取りあえずテーブルに置いておく。
サスケは時間を確かめると、丸くなっているナルトを担ぎ上げて部屋に向かった。
「…ん」
「起きたか」
ナルトは何故自分が布団で横になっているのかわからなかったが、段々頭が覚醒してくるとようやく思い出したようだ。
「あ、俺…」
「甘酒で酔ったんだよ。眠そうだったから一旦帰ってきたんだ」
覚えているかと言われて頷いた。
「初日の出は…?」
「大丈夫だ。今からゆっくり歩いて行けばちょうどいいぐらいの時間だ」
「そっか、よかった」
起き上がって、またコートや手袋をつける。
「そういえば、サスケが連れてきてくれたってば?」
「何が」
「俺ここまで自分で歩いた記憶ないし、コートとかは確か着たまま寝ちゃったような気がするんだけど」
「ああ、寝ちまったからここまで担いできた」
お前軽いしというと、ナルトはちょっと眉をしかめる。
サスケに比べて肉付きがよくないし小さいのを常々気にしているのだ。サスケとしては、あまり大きくならないで欲しいと密かに思っているのだが。
「…なんか、むかつく」
おまけに脱がせってもらってるし。
ぶつぶつ言いながらも身支度を整えたのを見て再び家を出た。
森の方へ行く人はいない。
二人で手をつないで歩いていくのは誰も居ない道での方が恥ずかしい気がするのはどうしてだろう。
ナルトは指を絡めるのをためらいながら黙って歩いていた。
サスケも普段とは雰囲気が違うせいか黙って手を引いている。
「――どの木に登るんだってば?」
森をぐるっと見渡しながら、ナルトは言う。
サスケもナルトと同じようにぐるっと見渡した。
「登ってみて、一番高い木に移っていけばいいじゃねぇか」
「そっか」
そういうのが早いか、ナルトは一番近くの木にチャクラを足に集めて登っていく。
サスケもその後を追って登っていく。
近くには似たような高さの木ばかりで、二人が座っても大丈夫そうな枝がある木に決めて座った。
空は赤く染まり始めている。
ナルトはピッタリとサスケにくっついてきた。
「寒いのか?」
「あんまり寒くないってば」
ナルトはそう言いながらサスケの腕に自分の腕を絡めた。
「そういえばさ、これって何だか知ってるってば?」
そういって取り出したのはコートの中に入っていた宝船のプリントされた紙袋。
「なんだ。お前ももらってたのか」
「うん。おみくじの所に『ご自由にどうぞ』ってあったから」
「開けてみろよ」
言われるままに開けてみると、サスケのとは色違いの舟が入っている。
「折り紙?」
「それを枕の下に入れるといい夢が見れるって言う物だ」
「へ? これを?」
「歌が書いてあるだろ」
言われて見ると、確かに筆で何か書いてある。
「何て書いてあるんだってば?」
「” 長き夜の遠の眠りの皆目覚め波乗り舟の音の良きかな”」
「…どーいう意味?」
「意味は特になかったと思うぞ。それは後ろから呼んでも同じように読める回文という物で、回文ということが重要なんだからな」
「何で?」
「終わりがないってことがいいんだって聞いたな。俺もあんまり知らねぇ」
うろ覚えの知識にナルトは尊敬の眼差しで答えてくれるので、サスケは言葉につまる。
「サスケってホント物知りだってば」
後で枕の下に入れようと楽しそうに言われてサスケは自分の記憶違いでないことを祈っていた。
そんな事を二人で話している間に、空はますます明るくなっていく。
「ほら、日の出だ」
「わぁ…」
サスケが指差す先を、ナルトはじっと見ている。段々顔を出す太陽にナルトの顔も段々変化していく。
サスケも見てはいるが、別段感動などはしない。こういう時感受性が高いナルトの反応は見ていて微笑ましい。
「スッゲー綺麗!」
少し雲が出ていたが、ちょうどいいぐらいに光は弱められている。
「なあ、ナルト」
「何?」
「来年も、見れるといいな」
「うん!」
来年も、新年の朝日に照らされた君を。
「サスケ」
腕を引かれて、すぐ近くにナルトの顔が近づいてきた。
「今年初めてのキス、だってば」
照れたように言って、すぐにそらされた顔を向かせて。
今年二度目のキスをした――。
終
フリー書くと毎回精気奪われたよ〜になるの〜♪
それは甘めが多いから…。(死)
初夢ネタと初日の出ネタ混ぜたから大変な事に…。
まとめんの大変だった〜…。
あの和歌は民俗学の授業で聞いた物。終わりがないからという理由だったような…。私の方がうろ覚えです。スマン、サスケ。
いつものごとく今月いっぱいフリーです。
お持ちかえりどうぞ。
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