一言主が何故かふらりとかなり早く帰ってきた。

 お土産に大きな南瓜の形をした被り物が二つ。

 三角の目にギザギザの大きな口。

「ジャックオランタンだよ」

 そう言って憎らしいほどの笑顔でずいっと押し付けてきた時に何故そいつの顔面に一発入れなかったのか。

 サスケは渡された南瓜をにらみながら深く後悔した。

  

あの闇夜に浮かぶオレンジは…!

 

 そもそもハロウィンなんてどこぞの国の風習として面白おかしく取り上げられていたのをテレビでちらりと見たことがあるだけのサスケはいったいどんな行事だかまったくと言っていいほど知らない。

 同じく南瓜を押し付けられてしまったナルトを振り向くと南瓜をまじまじと観察している。

 ポコポコ叩いてぐるぐる回して気がすむとようやく顔を上げたナルトはいつの間にか二人から見られているのに気がついて首をわずかに傾ける。

「…何?」

「…いや、そんなに興味を持つとは思わなかった」

「前に本で読んだことあるからちょっと興味があった」

「本当は提灯なんだけど、コレは仮装用に被るのだから火を入れちゃだめだよ」

「仮装?」

 サスケは気になる一言に思わず声を上げた。そういえば様々な格好をしていた子供がたくさん映っていたのを思い出して、嫌な予感がしたからである。

「そう、ちょうどいいだろ?」

 何に、と聞く前に二人は身を翻して猛ダッシュした。最近はサスケもナルトとほとんど変わらない速度で移動できるようになったがそれでも、一歩二歩程度の差は出る。

 まずはナルトがいつも置いている定位置を見るが、ない。

 そしてサスケがいつも入れている引き出しを引くが、見事に空っぽである。

「…一言主〜!」

 サスケの怒声が響き渡り、二人の術によって屋敷の一部が吹っ飛びそうになったのは何とか一言主によって阻止された。

「…そこまで怒ると思わなかったなぁ」

 とりあえず二人を宥めるようにお茶を渡すが、二人は南瓜を部屋の隅に放り捨てて目を怒らせている。

「別にいいじゃん。面白いし」

「面白くねぇ!

「早く面を返してよ、ひーさん」

 ナルトは声にこそ出てはいないが、しかしその目は怒りの炎を燃やしている。

 一言主は一見異なるようで同じ反応を示す二人を楽しそうに見ている。

「いいじゃないか。二人とも子供なんだし三代目火影からお菓子でももらってくれば?」

「コレをかぶってか?」

「仮装するのが決まりみたいだしいいじゃないか」

「普段の面でもいいだろうが! 何だって隠しやがった!」

 サスケが怒鳴っても一言主は至極楽しそうで、ますますサスケは言葉を荒げるがもう怒りを通り越して諦めに入ってしまったナルトに腕を引っ張られた。

「…もういい。変化の術で面を出せばいいから」

「あれ? 変化の術が使えないようにするぐらい僕がしないとでも?」

 にーっこりと素晴らしい笑みを浮かべた一言主に、ブチリと何かが切れた音がした。

「こんのクソジジイー!」

 居間が黒焦げになった程度で済んだのは奇跡だろう。

 ナルトはまだ暴れるサスケを引きずりながら支度をしに離れへと向かって行った。

 

 その後を南瓜達に追わせた後、一言主は一つため息を漏らす。

「やれやれ…別にいいじゃないか。猿飛ぐらいしか見ないんだから」

 ぽつりと言った一言主は南瓜をふんだんに使ったお菓子を持ってきたなつめに笑われてしまった。

「そもそも、あんたが代々火影と会ってることなんて二人は知らないだろうに」

「…あ」

 固まった一言主を見てやれやれと肩を竦めたなつめはパンプキンクッキーをひょいとつまんで口に放りこんだ。

 

 サスケはまだ怒り狂っていたが、てきぱきと身支度を整えていく。

 そんな様子を横目にナルトも身支度を整えていつも通りに面を取ろうとして固まる。

 自分自身に苦笑してさてどうしようかと思っているとサスケも引き出しに手をかけかけて動きを止めた。

 サスケはさっきから自分達にまとわりつく南瓜を一発腹いせに叩き落した。

「物に当たるなよ。これには罪はない」

「だからってこれをかぶって行けるか!」

 ビシッと勢いよく指差された南瓜はフラフラしながら再び浮上したが、サスケには近寄らずになぜかナルトの方に漂っていく。

 するとナルトの傍を漂っていた南瓜に体当たりされてサスケの手に落とされた。

「どうやら、一応どっちがどっちのだって決められてるみたいだな」

 呆れたように言ったナルトにうなずく様に南瓜が動いた。

「…被りたくねぇ」

「だからと言って素顔のまま行くわけにも行かないってばよ」

 そう言うとナルトはガシッと浮遊していた南瓜を捕まえるとすっぽりと被った。

「…ナルトが被るなら、しょうがねぇか」

 サスケも南瓜を被ると、二人して大きく息を吐いた。

「…じっちゃんになんて言われんだろ」

「……さあな」

 実は事前に連絡が入っていた三代目が嬉々としてお菓子を用意しているとは夢にも思わない二人はそう言って夜の闇へと消えていった。

 

 この年から、恐怖の南瓜伝説が語られるようになったのはある意味当然だろう。

 

 暗部が憧れの四神隊の二人の南瓜姿に卒倒しかけたのは言うまでもない。

 

 

 

 

スレでハロウィンを書くとどうなるかなぁと思ってやってみました。
怖いは怖いですよね〜、二人で南瓜被って暗殺…。