始めは色々贈る物はあった。

 忍具やまだ読んでいないであろう書物や、サスケ曰く『恋人』と言う関係になってからあまり目立たないお揃いの装飾品など。

 だが回数を重ねているうちに、ナルトはネタ切れになってしまったのだ。

 そもそもナルトは物を贈るのはサスケが初めてで、しかも同じ男なのが問題なのだ。異性なら花とかあるのだろうが、サスケはナルトより植物とかに関心がないし貴金属を喜ぶような性質ではない。まあ、ペアだと喜んで受け取るのだが。

「…困った」

 そうぼやいていると珍しくいた一言主が、旅先で買ってきた薬草茶を味見しながら提案した。

「いっそ本人に聞いてみたら?」

「…誕生日プレゼントって本人に内緒で用意するんじゃなかったっけ?」

 サスケの行動を見てプレゼントとは本人には内緒で用意するものだと思い込んでいたナルトは一言主に問い返した。

「いや? だって、よく親子とかが何欲しいか聞き出したりしてるじゃないか。いいんじゃない?」

 最後に多分と付け加えて一言主は湯飲みを置いた。

 プレゼントを贈るなんてことをし始めたサスケはそういうことを知っているだろうけど、一般家庭から程遠い環境で育った二人はお互いに首を捻る。

 サスケや他の仲間がこの場にいたら呆れたように何かを言ってくれるのだろうけど、生憎今は二人しかいなかった。

 

 

時を贈る

 

 

「欲しい物?」

 サスケは濡れた髪を乾かしながら鸚鵡返しに言った。

「何だよ、突然」

「…今月、キバの誕生日もすんで後はサスケだけ。何贈ったらいいのかわかんなくなった」

 サスケは自分の誕生日を思い出して顎を触りながら考えていた。

 ナルトはこの関係が新しく入ってきた仲間にばれるのを嫌がっていたから、プレゼントもあまり目立たない普通の物だった。よくよく見ると密かにナルトも似たようなものを持っているが、見えないところにしかつけないのでお揃いとは気付かれない。

 そもそもお互い物欲に乏しいので、必要最低限の物以外は強いて買おうとしないしそういう日頃からの意思表示もない。

 特にサスケはナルトの園芸のような趣味がない。これでは困るだろう。おまけに忍具をついこの間一新してしまったばかりだし。

「そうだな…物で欲しい物は特にない」

 言いながら考えている間に、サスケはふとあることに思い当たった。そういえば、任務以外で二人で外泊したことがない。

「ああ、そうだ。ナルトと二人で旅行にでも行くっていうのはどうだ?」

「…旅行?」

「二人っきりで、邪魔が入らないところで過ごす。そんな時間が欲しいな」

 この屋敷に泊まるのは少ないがシカマル達は大抵ここに入り浸る。まあ、里の連中に知られずに修行するには適している所なので当然と言えば当然だが。

「ナルトも俺も最近単独任務が多いし…だめか?」

 考え始めているナルトの耳元に低い声で囁くと、体を震わせて耳まで赤くなると言う可愛らしい反応を見せた。

「…か、考えてみるってば」

 それだけ言うとナルトは火照る顔を隠すべく布団にもぐりこんでしまった。

 そんなナルトにサスケは満足そうに笑ってまた髪を乾かし始めた。

 

「任務ご苦労じゃったな」

 三代目にそう言われて、青龍は頭を垂れる。

「青龍…いや、ナルト。そろそろ休暇を入れんか?」

 唐突に告げられた三代目の言葉に青龍は首を傾げた。

 あまりにもタイミングがよすぎる発言に一言主が絡んでいるのではないだろうかと。

「…一体どうしたんですか? いつも人手がないと言っているのに」

「うむ、実はお主が何人も有能な者を育て上げたおかげで大分楽になってきた。それに、下忍の任務もあるから大変じゃろうしな」

 つまり普段働きすぎてるから休めと言うことだろうか。ナルト自身はあまりそれを苦に思っていないのだが、普通に考えればいつ過労死してもおかしくない生活なのだ。

「…それなら」

 青龍は朱雀と一緒の休暇を申請すると、三代目は青龍の次に任務をこなしている朱雀の休暇申請にも拍子抜けするほど快く応じたのだった。

 

 誕生日二日前の夜。

「サスケ。明日旅行に行かない?」

 突然言われてサスケは持っているグラスを置いた。

「どこに?」

「…内緒」

 ナルトはそう言いながら荷物をまとめている。

 サスケはそういえば自分の誕生日が明日だということに気付いたらしい。

「ガキの姿で行くわけにはいかねぇよな」

 こくりと頷いたナルトが用意しているのは青年の時に着る服だ。

 変化の術とは別に、体を一時的に成長させることが出来る術を一言主から教えてもらったので暗部の時はこちらの術を使うことが多い。こちらの方が消費が少ないのだ。軽く髪形を変えて肌の色をいじれば気付くものはそういないだろう。

「じゃあそっちのサイズので用意か。何泊だ?」

「一泊…みんなには任務ということで、じっちゃんにも頼んでおいた」

 用意周到というか、そこまでばれるのが嫌かと色々言いたいことはあったがサスケはそれよりも二人きりで旅行にいけるということに内心舞い上がっていた。

 暗部という裏を見てきててもやはりこういうところはまだ子供のように単純だ。

 早速グラスに残った水を飲み干してサスケもいそいそ旅支度を始めるのだった。

 

 誕生日前日に二人はこっそりと変装して、出かける時に鉢合わせた一言主にからかわれながら里を出た。下忍の方の任務にはもちろんなつめや精巧な傀儡を送ってあるので心配ない。

 行き先はナルトしか知らないのでサスケは半歩ぐらい後ろを歩いている。

「なぁ、他の連中がよく何も言わなかったな」

 みんな誕生日はきちんと祝うことになっている。任務があるがなるべく早く帰ってきて、日付が変わったばかりとか日付が変わるギリギリには祝えるように。

「…だから、帰りは急いで」

 ナルトは振り返ってもうしわけなさそうに言った。それはちょっと顔を変えているとはいえ、非常に庇護欲をそそられる表情で。

 気がついたら唇を重ねていた。

「…っ!」

 飛び退いて真っ赤に染まったナルトを見て口角を吊り上げる。

「さっさと行ってゆっくりしようぜ?」

 反論しようと口を開きかけたナルトは言葉が出てこなかったようでしばらく口を音もなく開閉させていたが、きゅっと結ぶとそのままスタスタと置いていくように早足で歩き出してしまった。

「おい、置いていく気か」

 楽しげに言うサスケをにらみ上げるナルトはまだ頬が赤かった。

 

 ナルトの案内した旅館はそのあたりでは一番の老舗らしい。

 応対も満足いくもので、よく知っていたなと問えば一言主に紹介されたと返された。

「旅をしているとそういう情報が入ってくるから、ひーさん詳しいんだってばよ」

 用意されているお茶の質もなかなかいいようだ。それを飲みながらナルトは説明する。

 サスケの要望を聞いて一言主からのプレゼントとしてここを予約してくれたらしい。代金も一言主が払っている。

「ちなみに、他の人に上手く言っておいてくれるって」

「珍しく気が利いたプレゼントだな」

 初めはどこぞの高級な酒を買ってきて、あまりの度の強さに今も封印されている物や神鳥とか言って鳥かごにはいった炎の塊を寄越したり。

「むちゃくちゃな物が多かったからな…」

「ひーさんなりに考えてたんだろうけどね」

 ちなみに鳥かごから出してみるとその炎の塊は美しい鳥の姿になったので、口寄せで呼び出せるように契約を結んだのだ。炎の鳥だが、目立たないようにすることも出来るので夜間の任務でも重宝している。

 ちなみにこの間呼び出したら一輪の花を渡された。誕生日に呼び出されるかわからないからと見たこともない花をプレゼントしてくれたのだ。それを見せたらナルトが興味津々といった感じでいじくりまわしたので大分しおれてしまったが、まだ部屋の一輪挿しに生けてある。

「そういえば、一言主の誕生日っていつだろうな」

「知らない。本人に聞いたけど、年数えるの億劫だから忘れたって」

「…あてつけに『勤労感謝の日』にでも何かするか?」

「いや、それはちょっと…イメージが」

 合わないとナルトが言うので思わず笑ってしまった。

「そうだな。まあ、あとでみんなで何か考えるか?」

「うん」

 ナルトはいつものように頷く。それが今の格好から見ると少々幼いので、非常に可愛らしい。

「…理性が持つかな」

「え?」

 ぼそっと呟いた言葉はナルトは聞いていなかったようだ。唇も見えないように覆っていたのでわからないだろう。

「外に行かないか? 一言主に何か買っておかないとうるさそうだしな」

「そうだ。ひーさんにメモもらってたんだってば」

「…メモ?」

 ナルトはシンプルな財布を出すとその中から折りたたんだ紙を出した。

「なんかこの界隈の店に頼んでた品だって。みんなを誤魔化すのにいい口実になりそうだからって」

 紙を開くと簡単な地図と注文票が入っている。

「薬…か?」

「何でも、去年から予約してたみたいで色々用途があるからって」

 ここを予約したのはそういう意図もあったらしい。

 一言主らしいと呟くと確かにとナルトは笑った。

 

 皆に買って帰る土産を買うついでにそこによることにして二人はぶらつくことにした。任務がてらに土産を買うのはいつものことなので怪しまれることはない。

「何買って行こうか」

「そうだな…甘味とかでいいんじゃねぇか?」

 並んで歩く二人はなにせ見た目がいいので道行く人の目を引く。二人とも見られているのには気付いているものの、危険性がないので無視しているがうっとおしいのには変わりない。

『屋根の上でもいけたら楽なのに…』

 ナルトが他愛のないことをしゃべりながら直接思念で伝えてくるのにサスケは頷いた。

「あそこをのぞいてみるか?」

『そうだな…けど瞬身使うと目立つしな』

 適当な店を指差して入りながら、普段必要最低限しか里に出てこない二人は人の多さに内心うんざりしていた。

 もちろんターゲットを尾行したりすることもあるので人ごみを歩くが、はっきりいってこんな風に見られない。まあ顔を隠しているし、影分身とかに任せてしまうこともあるのでその回数は片手で足りてしまうが。

 人ごみに免疫のない二人には有名な温泉地は人が多すぎた。

 

 へとへとになって一言主の地図にあった店に入ると、薄暗い店内は外の喧騒が嘘のようにシンとしてまるで厳格な図書館のような雰囲気に二人は顔を見合わせた。

『何か、落ち着く…』

『そうだな』

 外に比べるとここにずっといてもいいぐらいだ。

「誰だ」

 奥からしゃがれた声がしてそちらに目をやると、手元のランプで本を読んでいる老人がいた。

 目だけを動かしてこちらを窺っているようだ。

 とりあえずその老人に来店した理由を伝えて注文票を見せると、二人の顔を訝しげに見上げて鼻を鳴らす。

「ちょいと待ってな」

 そう言ってゆっくりと椅子から立ち上がって杖を突いて奥へと引っ込んだ老人は飾り気のない瓶を脇に抱えて戻ってきた。中には琥珀色の液体が揺れている。

「これが注文の品だよ」

「これは?」

 サスケが尋ねると店主は片眉を上げて二人を品定めするようにじろじろ見た後大儀そうに椅子に腰掛けた。

「一種の麻薬だよ」

 背もたれに体を預けて大きく息を吐く老人はそう言ってまた本を手に取る。

「まぁ、少量なら薬になるものだ。苦労したよ。こんな量は滅多に手に入らない」

 ああ、料金は前払いでもらってるよと言ってパラパラとページを捲る老人を見て瓶を手に取ったナルトは、興味深げにそれを見ていた。サスケもチャプチャプと瓶の中で揺れる液体を見て、店内を見回した。一見ただの廃れた雑貨屋といったところだが一言主が訪れているのだから裏家業もそこそこ有名なのだろう。

「そうだ。あんたらタツハの息子かなんかかい?」

 タツハと言われて二人は一瞬誰のことを言われたのか理解できなかった。そして一拍置いてそれが一言主の偽名だと気がつくとサスケは露骨に嫌そうな表情で否定した。

「あんな奴と血なんて繋がってない」

「同じ家に住んでるだけです」

 そんなサスケの様子にくすくす笑いながらナルトは付け足した。

「なんだ。こんな物の引き取りに代理で来させるから、そういうものだと思ったんだけどね」

 老人は心底驚いたと言った表情でまた二人を見て、本を静かに置いた。

「まぁ、人には色々事情があるから別に構いやしないけどね」

 かけていた丸眼鏡を外すと老人はゆっくりと目に手をやる。

「用件が済んだらとっとと出て行ってくれ。今日は日時を指定した別の客が来る予定だからね」

 眼鏡をかけ直してそう言った老人は再び本を手にとって適当なページに目を落としてしまった。

 一切の干渉を拒絶するようなその空気に小さく別れの言葉を言って店を出ると、あまりの明るさに目が眩みそうになった。

 

 帰りに日持ちのしそうな干菓子を買って部屋に戻ると二人して大きく息を吐いた。そのタイミングがあまりにもピッタリで、思わず笑ってしまった。

「あの店、なかなか雰囲気よかったな」

「うん、後でひーさんに詳しく聞いてみようか」

 この液体の活用法についても是非聞きたいしとナルトは楽しそうだ。植物に興味があるせいか薬や毒物にも興味があるナルトには魅力的なのだろう。

「…開けちゃ駄目かな?」

 瓶を眺めながら呟くナルトに思わず表情が緩む。

 あまり表情を出さないナルトがこうまでもまるでお菓子を目の前に葛藤している子供のような表情をするとは思わなかった。本を読んでいる時のナルトは済んだ綺麗な目だが、何だか今はキラキラ輝いている。

「…可愛いな」

 思わずそう言ってナルトを抱きしめると、みるみる赤く染まっていってしまった。

 唐突なスキンシップにはいまだに慣れないようだ。気配を消していないから嫌なら避ければいい。それをしないで甘んじてこの状況を受け入れてくれるのが嬉しい。

「何だってばよ〜。いきなり…」

 体を預けながら唇を尖らせたナルトの赤く染まった耳朶にかぶりついた。

 慌てふためくナルトの細い体を抱きしめてサスケは普段よりも楽しそうだった。

 

 楽しい時間なんてあっという間に過ぎてしまう物で、一泊の旅行なんて本当に短い。

 帰路につきながらサスケは小さくため息を吐いた。

 それを聞いたナルトは首を傾げた。いつもより眠そうな様子に少々後ろめたいものを感じてしまう。

「…どうした?」

「もう終わっちまったなぁって」

 湯上りのナルトも色っぽかったと言うとまた赤くなって俯いてしまった。

「だって…しょうがないじゃん。休みだってそんなにまとめてはもらえないだろうし。みんなに言い訳しづらくなるし」

 みんなも祝いたがってるしとナルトは前を向いた。

「俺としてはナルトに祝ってもらえればそれで十分なんだけどな」

「そう?」

「ま、しょうがねぇか。ナルトが頑張ってくれたから満足だしな」

 屋敷に戻れば一言主達が興味津々で色々聞いてくるのは間違いない。

 さてどうやって切り抜けようかとサスケは空を仰ぎながら頭を動かし始めた。

 

 

 

 

入浴シーンは無理でした。本当は部屋に内風呂あったのに…!(泣)
裏を書く余裕ないよ。
このサスケは一緒に入浴したらそのままなだれ込むから…。
甘く出来たかな? そして薬のことあんまし出せなかった…実は催淫効果つけちゃおうとも思ったんですけどね…エロは書けません。
この二人もう下忍なんですけど、わかる記述があんまりない…。orz
 

と後悔しまくりですが、一応今月一杯はフリーです。
報告は任意で。



      BACK