サクラちゃんに、バレンタインのことを教えてもらって花を買った。

 甘い物が苦手で、世間一般のバレンタインが苦手な恋人に贈る物を用意したが――。

「……俺、渡せるかな」

 一体どんな顔をして渡せばいいのか。

 ナルトは熱くなった顔をひんやりとした枕に押し付けた。

 

 

A flower says

 

 

 朝から里中が甘ったるい匂いが立ち込めているような気がする。

 サスケはそのことに眉間に皺を寄せながら、人気のない森に避難していた。

 今日は一日中ここにいようかと思っていると、ナルトの気配が近付いて来るのを感じて寄りかかっていた木から身体を起こした。

 木々の間に、金色の頭が見えて一瞬消していた気配を現した。

 ナルトも気付いたのだろう。それまでうろうろしていたが真っ直ぐサスケのいる木の下までやって来た。

 そして極力音を立てないようにと気を使いながらそっと上がってくるのを見ていた。

「サスケ、おはよう」

「どうしたんだよ、こんな所まで」

「その前に挨拶だってば」

「ああ、おはよう」

 俺も座ると言ってサスケにスペースを開けさせてナルトは腰を下ろした。

「で? わざわざどうしたんだよ」

「…やっぱり、一応あげた方がいいのかなぁって」

 首を埋めながらナルトは花を突き出した。

 パンジーに似ているが、それよりも小さい黄色い花。

「何の花だ?」

「ビオラだって」

 花と同じ黄色いリボンをつけられたそれを見て、サスケは口元に笑みを浮かべた。

「ありがとうな」

「…どーいたしまして」

「バレンタインだからチョコでも渡されるかと思ったぜ」

「本当のバレンタインは恋人同士が花とかカードをあげるんだってサクラちゃんに教えてもらったんだってばよ」

 カードも一応買ったけど、何を書いたらいいのかわかんなくて持ってこなかったとナルトはもうしわけなさそうに言う。

「俺もこういうのを渡した方がいいか?」

「いいってばよ」

 今日は買い物に言ったらあっという間に女の子達に取り囲まれてしまうだろう。

「そうだ。今日は俺んちに避難すれば?」

「いいのか?」

「うん。あ、でも部屋に入るとこ見られたら結局女の子が来ちゃうからちゃんと変化しないと」

「…変化ねぇ」

 サスケはちょっと考えて印を組む。

 ポンと軽い音を立ててサスケが変化したのは、毛並みのいい黒猫だ。

「わー…」

 ナルトは思わず声を上げて抱きかかえた。

「これならいいだろ」

「うん。じゃあ、行こ」

 ナルトは枝からサスケを抱えたまま飛び下りた。

 

 部屋の窓に結界を張って、容易に中が窺えないようにした後サスケは術を解いた。

「もうちょっとあのままでもよかったのに…」

 ナルトは残念そうに言ってサスケの横に座る。二人分の重みにベッドの軋んだ音がした。

「猫とか好きだもんな」

「動物は好きだってば」

 サスケの変化した猫の触り心地もよかったとナルトは結界を張っている間に暖めたミルクの入ったマグカップを渡しながら言う。

「猫の振りしてる時なら、サスケ変な事してこねーし」

「変な事をしてる覚えはねぇ」

 憮然として言い返すが、ナルトはミルクを吹き冷ましながらキッパリ否定する。

「変だってば。触り方が、やらしい」

 そう言われてしまえば、確かに否定は出来ない。

 二人でミルクを飲んでちょっとした沈黙があった。

 飲み終わったマグカップを持ってサスケが立ち上がると、ナルトも終わったのか立ち上がる。

「にしても、この部屋は相変わらず寒いな」

「サスケんちと一緒にするなってばよ」

 流しに置きに行く二人はマグカップに残る熱を残さず得ようと両手で包み込んでいる。

 流しに置き終わるとサスケはナルトに抱きついた。

 寒いから、と普段はあまり自分から寄り添ってこないナルトが抱きつくサスケを振り払わない。

「ナルト、キスしようぜ」

「…はっきり言うなってばよ」

 頬を赤く染めながらナルトは目を閉じた。

 

 ビオラにこめた願いが、いつまでも続くように。

 

 コップに生けられたビオラは、そんな二人をじっと見ていた。

 

 

 

 

よし! 裏に行かなかったぞ。
ホントは書こうとしてたんですが、私が耐えられない。
ちなみにビオラの花言葉は「私の事を想って下さい」だそうです。
素材をお借りしている空色地図さんで書いてありました。
サスケがあげてもよかったんですけどね。どこで情報仕入れたんだって私的にはなったので。

 

 

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