痛心、癒えることなく……








 「ふん……」

 「ごめんなさい。ちょっと面白いものを見つけてしまってね」

 相変わらずの胡散臭さに、オレは呆れていた。
 怒りを覚えてしまっても仕方ねえ……

 「で、修行は?」

 と、棘を含みながら言ってみると、それを怯むことなく更に笑みを浮かべた。

 「そうねぇ。でも、今この場にいると邪魔者が来そうなのよね」

 「……ふん。どうせ、そこにいるヤツの連れ……なんだろうが」

 「……」

 そして、なんと言っても隣にいるヤツ……
 木の葉の里からやってきたと言っていたか。

 「お前、名前は?」

 「……」

 名前を聞いても何も言わずか……
 寧ろ、沸々と感じさせるのは、殺気。
 面白え……オレに喧嘩を売っているつもりだな。
 そうだな、大蛇丸に連れてこられるぐらいだ、それなりの実力を持っているんだろう。
 チャクラコントロールの修行の成果によって、常に写輪眼を表に出せている分、そう言う事は手に取るように分かる。

 「サスケ君! 出過ぎた真似は……」

 「うるせえ。こちとら待たせっ放しでストレスが溜まってるんだ。少しぐらいは発散させやがれ」

 「あらあら。相変わらず血の気が多いこと……でもね、サスケ君。今は控えてもらおうかしら」

 「黙れ」

 「……大蛇丸様。彼は聴く耳を持たないようです。この場は僕に……」

 「……いいえ。この場は僕に任せてくれませんか」

 「サイ君に? ……いいわ。やってごらんなさい。まあ、私が手塩をかけて育てたサスケ君に勝てるとは思わないけど」

 誰が手塩をかけただって!?
 冗談じゃねえ。
 といいたいところだが、実際そうなのだ。
 言い返すことは避けた。
 目下、今はコイツだ。

 「サイ……って言うんだな」

 「……行きます」

 と、懐から筆と紙。
 ほう……筆のインクに特殊なチャクラを練りこんでいるのか……
 それとも……
 サラサラッと滑らせるように、手馴れた手つきで紙に筆を走らせる。
 書き終えたのか、印を組んでチャクラを練りこむ。

 「面白え術だな」

 「……楽観的に見ないほうが身のためですよ」

 「くく……余程の自身があるようだ。いいだろう」

 下ろしていた腰をゆっくりと持ち上げ、サイとやらを見据えた。
 次の瞬間、狼なのだろうか、四足歩行をする動物を呼び寄せた。
 この世に存在するような生物でなく、無機物的な生物。
 命を吹き込まれたかのように見えるが、所詮作り物。
 チャクラが隅々まで流れているのが良く分かる。
 そして、それがオレの方へと駆ける。
 相当素早いが、今のオレなら見える……

 「遅えよ!!!」

 ほんの少しだけチャクラを手の平に乗せ、狼を模ったものを掻き消した。
 念のために、インクをつけないように。
 案の定、インクにチャクラが練りこまれており、触れていれば何かが起こっていたに違いない。

 「くくく……お前、ウスラトンカチと戦ってねえのか?」

 「……誰のことです?」

 「うずまき ナルト……だ」

 「ああ。やりましたよ、一度だけ」

 「その様子だと、アイツは“弱い”と思っているようだな」

 笑みを浮かべている。
 ……どう見ても作り笑いなのだろうが。
 だがどう見ても余裕を見せた笑みだ。

 「そうですね。まあ、先ほど大蛇丸さんとの戦いを見せられて随分と評価を変えましたけどね」

 「フン。どうせ、九尾の力の一角を見たに過ぎねえんだろ?」

 と、カマをかけて見たが図星だったようだ。
 驚きに目を見開くコイツの顔。

 「おい、大蛇丸」

 「何かしら?」

 一応、念のために聞いておこう。

 「アイツ、本気を出していたか?」

 「いいえ。アレだけでは到底本気とは思えないわねぇ……強いて言うなら、九尾の力を使ってもほんの末端の力だけ……て所かしら」

 「そうか。アイツも相当強くなっているようだな」

 「そうかしら? 私はアナタの方が強いと思えるけど……」

 そうだと良いんだがな。
 あれからもう2年半……
 オレはコイツの元に来て我武者羅に修行をしてきたが、アイツもあの得体の知れないヤツの元で修行していたに違いない。
 それも、血の滲むような……

 「君はいたくナルト君の事を気に入っているようですね」

 「……フン。それがどうした」

 「でも、君はそのナルト君を捨てた……」

 その言葉、もう聞き飽きた。
 大蛇丸からも、カブトからも散々言い聞かされた。
 当たり前だろう、オレは今でもナルトの事を……
 今はそれを押し殺しさえするが……

 「くくくく! お前の言うとおりだ。オレは、オレの道のためにナルトを殺そうとした。結果として殺せなかったがアイツを捨てた」

 「……」

 押し殺しても、やはり胸が痛む……
 心が、金きり声を上げる……
 たとえ、直ぐそこにナルトがいるのだろうとしても……

 「甘えに縋りながらだと、オレはこのようにならなかったぜ。そうだ、オレは間違ってはいない。 オレは復讐者。それ以外のものは
 何もいらねえ」

 嘘だ。
 本当は、何もいらないなんて言えない。
 復讐なんて、アイツの前に居れば二の次……いや、霞んで遠くに見える。
 だからだ、オレはアイツの暖かい希望の手を振り払った。

 「そう、オレには光などいらねえ」

 唯一の光……
 オレのような闇には、似合わない。
 なのに……何故だ!!!

 「? 彼、何処か様子がおかしいですね」

 「ええ…… やはりサイ君を連れてきたのが間違いだったのかしらね」

 そうだ、オレはあの時誓った筈だ。
 オレは復讐者だと。
 ただ、アイツを殺すことだけを……その為に自らこの道を選んだ。
 大切だと思ったアイツを切り捨てることを、誓った筈だ。
 なのに……どうして。

 「……やはり君は」

 「うるせえ!!! それ以上は言うなっ!」

 二年以上も、流したことのなかった涙。
 涙を流すことを、再び思い出された。

 二年以上も、痛むことのなかった胸。
 胸を痛ませることを、再び思い出された。

 「くくく……大蛇丸。テメエ、いらねえ手土産を持ってきてくれたな……くくく」

 「……そのようね」

 そう、コイツに接したことで……
 光を求めていた自分を、思い出された。

 こうも思える。

 何故オレでなく、コイツが今までアイツの傍に居たのだ……と。

 「どうしてくれる、大蛇丸」

 「そうねぇ。でも、それはアナタが決めることよ」

 コイツを、サイを殺すのはオレの意志と言う事か……

 「面白えことを言う。だが、殺さねえ……」

 殺すのは容易い。
 だが、もう無理だ。
 アイツを……思い返してしまったから。
 きっと、ナルトのことだ。
 コイツのことを、仲間だと思っていたに違いねえ……

 (そうだろ…… ナルト?)






 今は、頭の中のナルトにしか出会えない。
 今のナルトはどのように成長したのだろう。

 オレは……きっともう、お前に触れる資格はねえだろうな……



 そう、もうこの手はお前に相応しい、綺麗なものではないから……







終わり

☆あとがき☆

 サスケ君が出現したことで、突発的に思いついたネタです。
 妄想大大大な小説ではありますけどね。
 うん。私としてはサスケ君のイメージがこうなっています。
 もう、きっとサスケ君は手を赤く染めてしまっているでしょう。
 無論、大蛇丸の傍に居たことによって……とも思うのですが、忍としては当然でしょうね。
 でも、それでも私はそうなっていてもきっと心の中ではナルトのことを想っていたに違いないと思いたい。
 このような小説ではありますが、貰っていただけると嬉しいです。

 追伸……
 これ、終わるになっていますが、多分続くかな?
 短編としてフリーに出していきます。










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