春日和
長い冬が遠のき、温もりの春が訪れた。
色とりどりの花々が咲き乱れ、まるで絨毯のよう。
そこに一人の少年、ナルトが姿を現した。
暖かい日差しに包まれ、気持ち良く散歩していたのだが、偶々この絨毯のような花畑に辿り着いたのだ。
「うわぁ……すっげえってば」
主に薄桃色の花が多く、光の加減が丁度いいのか温もりが伝わってくるその花畑に駆け寄り、一輪の小さな花を摘んだ。
仄かに伝わるその香りがナルトの鼻腔を潤していく。
蜜を求めて、蝶が花畑の上を飛び交う。
それがナルトの手に持つその小さな花に誘われるように止まる。
「サスケも一緒に連れてきたかったなぁ……」
生憎、年上であると言う事もあり何かと多忙を期しているサスケはバイトの休みを取れずに朝から不在。
朝起きたとき、サスケが居なかったことに少し残念に思いながらも、穏やかな陽気に誘われ、こうやって散歩に出歩いたわけだが……
自宅から然程遠く離れていない場所に小さな森があった。
ナルトはそこをお気に入りの場所としていた。
今回は、何時もの散歩コースを少し外れて歩いていた。
普段は小さな小川に沿って走る小道を往復するのだが、脇にはツツジと石楠花が植えられている。
時期的にまだ早いそれらで、花を咲かすことはないため、春の色と言うのが感じられなかったのだ。
桜の木は、また別の場所にスポットとして存在しているから、そちらは満開になった時にサスケと一緒に行く予定である。
だが、やはり春の訪れを感じたくて、今回はそれを捜し求めた。
その時に、今では珍しい自然の花畑に出会うことが出来たのだ。
「小さい森なのに、こんな場所があったなんて知らなかったってばよ」
偶然であっても、このような場所に辿り着けたことに幸せを感じ、春の色をその身に受けた。
花を見るだけで伝わる温もりが、日々の疲れを癒していく。
「今度、サスケと散歩した時に一緒に来るってばよ! 絶対にサスケも喜ぶってば!」
そう思いつつ、暫しこの場所を楽しんだ。
「今日さ、今日さ!!! とっても良い場所を見つけたんだってばよ!!!」
朝、あの花畑の話題に盛り上がるナルト。
夕食を準備中のサスケはそれを微笑ましく聞いていた。
本当に、ナルトが嬉しそうだったから。
「桜も見に行きたいけどさ、あっちもサスケと一緒に見に行きたいってばよ」
「そうだな。オレもお前の言う場所に行ってみたいものだ」
今度、バイトが休みかもしくは遅番である日を頭に思い浮かべながらサスケは手際よく調理を続けていく。
バイトで培った腕を駆使して。
器用にフライパンを翻して、皿の上に炒め物を盛り付けていく。
それを見るだけで、とても美味しそうに感じ取れる。
ナルトもそう感じたのか、その料理を見た途端に腹の虫が鳴いた。
「えへへ〜」
「ほら、御飯を茶碗に盛るのはお前の役目だろ?」
「そうだってば! オレに任せとけってば」
小さく笑みを浮かべながら茶碗をナルトに手渡し、受け取ったナルトは炊飯器へ。
炊き立てで、ふわりと綺麗な御飯を丁寧に二人分よそう。
「でもさ、オレが見つけたお花畑の花は朝しか咲かないんだって」
「そうなのか? それなら、明日の朝にでも行くとするか」
「え!? 本当に!? やりぃ!!!」
サスケと一緒に行けることは、これ以上にない嬉しさで思わず飛び跳ねるナルト。
手に茶碗を持っているため落としてしまわないかと心配になるサスケだが、ナルトはちゃんと茶碗を持っていたことがそれを回避した。
そして、零れるのは苦笑。
「ったく、茶碗を持ちながらはしゃぐな」
「ごめんってばよ。つい嬉しかったからさ」
それでも本当に嬉しそうで……
今度はと、なるべくはしゃがないように、そして口に物を入れているときは喋らないようにした。
「ご馳走様ってば」
何時もながらではあるが、ナルトの食事ペースは速い。
あっという間に自分の分を平らげて、そして、再び話しに花を咲かせる。
就寝する、その時まで……
よく晴れた朝。
外で小鳥が歌声を上げる。
待ちに待った、朝がやってきた。
約束どおりに、ナルトとサスケは先日見つけた花畑へと急いだ。
「早く、早く!!!」
「おいおい、そんなに急がなくても良いだろう」
「早く行きたいんだってばよ!」
急かすナルトに、サスケは歩くペースを上げる。
そして……
「凄いな……」
「だろだろ!? オレってば、本当にいい場所を見つけたってばよ!」
昨日と変わらない、満開の花畑に感嘆するサスケ。
広さもそこそこある。
そして、何と言っても周りに建っている筈の軒並みが木々によって上手く隠れていて、本当に自然の森の奥に足を踏み入れたように
感じる。
「よくこんな場所を見つけるな……」
「へへへ〜、オレもさこんな場所があるだなんて思いもよらなかったってばよ」
朝露に潤った花々……
まるで、自分たちの心が洗われるよう……
朝だけに咲く花が、自分たちを歓迎してくれるかのように儚げながらも優雅に咲き誇る。
「サスケ、はい」
「? 何だ、これ」
「花冠だってば」
上手に編まれた、花冠。
ナルトはそれをサスケの頭の上に乗せる。
「おい、これはお前の方が似合うだろうが」
柄でもない、とサスケはやや不満げな表情を浮かべる。
だが、ナルトはそんな花冠を被ったサスケを見て、満面の笑みを浮かべた。
「オレの分も作ったってばよ! お揃いだってば」
隠していた、サスケのものよりも一回り小さな花冠を自分の頭に乗せる。
「でも、男二人がこんなことをしてたら他の人に笑われるってば」
と、苦笑い混じりに言うと、サスケもそれに頷く。
「そうだな。でも……」
たまには、こんなことがあっても良いだろう?
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