轟音と共に現れたのは名高い伝説の三忍から引き継がれた強大な力を持った存在だった。
それぞれに強い力があり、強い意志がある。
故にこそこの戦いは長く続いていたのだが。
この日、それは大きく変化した。









和解の日










口寄せ、という術は里や血族に関わらず広く使われる忍術であり、使いこなす忍は多い。
だが天に届かんとするような大きさを、それに比例した力を持つものを使役出来るのは極一部、限られてくると言って過言では無い。
名実ともに伝説の三忍とともにその名と姿を各国に広く知られた存在であり、また続いて契約を交わした主たちも今や各国に名が知れ渡っている蝦蟇の大親分であるガマブン太と小さなものなら山でも抱えられそうなほどの大蛇、マンダ。
この両者はその極一部、それも口寄せの代名詞になるほどの者たちだった。
その二匹が丸い月夜の下で睨みあっている。
正しくは契約を交わした者、主たる者に喚び出されその力を貸す為に対峙していた。
巨大な体躯を持つ二匹の口寄せられた者達が居る場所は民家や商店が並ぶ人里ではなく市街から離れた山奥であり、その身を現しても人には危害が及ぶ可能性は低い。
一軒だけ近くに宿屋があるが忍の脚を使っても1、2時間ほどは掛かる場所にあり、狙わぬ限りは多少雨のような水やら遠くからの熱風が時折届けられるだけで済むはずだ。
無論、この場で生活をしていた木々や森の動物達には多大な迷惑を掛けているがそれに気付ける余裕など、この二匹を喚び出した二人、互いの頭上に乗った男達には無かった。
二人の間には一歩も譲る様子はなく、ぶつけ合った視線はちりりと合間で燃え上がっている。
蒼青と漆黒の眼は毅く、譲らぬその意志を主張していた。
「テメーってばいい加減にしろよ……」
普段の彼らしからぬ低い声を静かな怒気を滲ませて発したうずまきナルトはキッと、自分と同じ地上よりはるかに高い位置にいる男、うちはサスケを睨みつける。
だが睨みつけられたサスケもナルトと同じく、否、それ以上に座った眼で相手を見返した。
「それはこっちの台詞だ。このウスラトンカチのウスラドベ」
元より低い声を持っている男の言葉はより重く響き、ナルトに届くがこれしきで怯むような性格でも間柄でもないナルトはむしろ今ある感情を深める。
こうして対峙し、互いの口寄せした忠実な相棒とともに今すぐにでも攻撃を仕掛けそうな状況になった原因は今から少し前に遡る。



毎年、生まれた日でもあるのに慰霊祭が行われる里を留守にする事を止めぬナルトに、彼を非常に可愛がり愛している一人である現火影の綱手が、里外の任務を望むナルトに渡したのは水質調査とは名ばかりの温泉宿付きの休暇だった。
彼女なりの、上忍になったばかりで忙しく休日一つ満足に取れないナルトへのプレゼントの意味も込めたこの任務にナルトはこんなに甘やかされていいものかと躊躇いつつも、ペアに配属された男に引っ張られるようにここまで来たのだが、それは別に良い。
多少強引でも引いてくれる掌は温かく、何より素直にこんな優しく甘い好意を受け取る事に慣れていない自分を気遣ってくれているものだから、嬉しかった。
そして日付けが変わると同時にくれたただ一言の、ストレートな祝いの言葉に嬉しさと強く込み上げてきた気持ちを、普段ならば恥ずかしくて死んでも言えないが、今日だけはとナルトも素直に口にしたのだ。
ありがとう、大好きだ、と。
ナルトにとっては感謝と好意を伝えるだけだったのだが、夜目にも分かるほど頬と目元を赤くし、気恥ずかしい火照りから潤んで逸らされた青い目と開いたばかりの唇を一文字に結んだその顔で、きゅ、と繋いでいた掌を握り返されたサスケにとってはそれだけでは済まなかった。
自らが作った原因が大きいが、紆余曲折あって漸く想いを通わせ合えたのが半年前。
それから何度か我慢出来ずに組み敷こうとしては、嫌ではないが恥ずかしくて堪らないからもう少し待って欲しい、と処女のような―――というか事実その通りの筈で、そうでなければ相手の男を殺す―――お願いにずっと耐えてきたサスケの理性は滅多に無いナルトからの素直な告白に脆くも崩れ去った。
繋いでいた手を引き、そのまま腕に閉じ込め、唇を奪い足の力が抜けた頃にそのまま傾れ込もうと一番近い木に身体を押し付けるサスケにナルトは性急さと何より人はいないとはいえ外という非常識な場所で止めてくれと必死に頼んだのだが、肌を弄る男は全く耳を貸さず。
ついに羞恥と怒りが相俟って爆発したナルトによって決まったボディーブローがこの派手な痴話喧嘩の始まりだ。
ただなりたてとはいえ上忍、実力は里のトップクラスに入る二人の喧嘩は派手の一言では済まされない。持てる体術、忍術を駆使したものが現時点の状況を作りだした。



「誰がっ!ウスラトンカチもドベも全部サスケだろ!?テメーは一体ナニ考えてんだ!」
言われる覚えはないと雄弁に語った青い眼にサスケの寄せられていた眉間に山脈が出来、次いで出た声は夜の沈んだ大気を大きく振るわせた。
「決まってんだろうが!テメェこそいい加減にしやがれ!付き合いだしてからもう半年だぞ!?なのに一度も抱かせねぇばかりか風呂は一緒に入らせねぇ、一緒のベッドで眠らせもしねぇ、他の男と断りも無く出掛かるわいい加減にしろ!」
阿呆くさい。
本人にとっては事実、非常に重要で真剣なのだが傍から聞けば何とも力の抜ける内容だ。
「わぁあああああ!寝ぼけてんじゃねぇ!大声でナニ言ってんだ!テメーにはシュウチシンってもんがねーのかよ!?」
真剣に、それも整った美形と言われる顔についた口から吐き出された言葉はあまりに有り体で、さっと朱に頬を染めたナルトは精一杯、常識を問う。
確かにサスケの言う通り、所謂恋人としての付き合いをスタートさせてから半年は経っているし、一度も最後まで、サスケを受け入るという形で身体を重ねた事がないのも事実だ。
それが遅いか早いかはナルトには分からないが、いくら山奥とはいえ近くには温泉宿もありいつ誰が来るとも限らない場所でするものでもないというのだけは分かる。そしてサスケのその他の主張が怒りを湛えて責められなければいけないものでもないというのも。
だが目の前の男はそれで到底納得するような人物ではなかった。
「寝ぼけてるのはテメェだろ。こうなったら許そうと思ったがやっぱり許せねぇな…」
すっと細まった切れ長の黒目が剣呑な、殺気すら湛える。
「お前浮気しただろう」
「…………はぁ?」
が、出されたあまりに突拍子の無い断罪にナルトは怒りよりもまずその意味の飲み込みに頭の回転を要求された。
「…お前今の部隊に配属されてから随分と帰りが遅い日が増えたじゃねぇか。付き合いだなんだっつってるがいつもお前を呑みに誘う奴は決まってるよな。1ヶ月前、俺が長期任務で里を空けてた時なんざほぼ週4回か5回のペースで誘われてた上に一度朝帰りした時があったが、相手の男はそいつかよ。それともまた一昨日もお前の部屋に来やがったあの野郎か?どっちにしろ俺というものがありながら浮気をするなんざそれなりに覚悟はいいな、ナルト」
訳の分からなさに点になった青目が、問いかけられた声に逃避したい現実へと戻ってくる。
「何が『覚悟はいいな』だ!何でそれが浮気になるんだよっ、てか何でそんな事知ってんだ!?」
サスケの勝手な推測の部分は取り敢えず措いておいて、ナルトはどうにも気付いたおかしな点に幾分赤くしていた顔を青ざめさせた。
任務で居ない間の里の、それも詳しい自分の帰宅や家の様子をどうしてこいつが知っているのだ。
嫌な予感を憶えつつも聞いたナルトにサスケは平然と答えた。
「当たり前だろうが。余計な虫がいるかコイツに家を見張らせてたからな」
しゅるりと白い蛇がサスケの意志に連動するようにナルトの腕に巻きつくようにしてその身を現すと、胸を這い上がりちろちろと細い舌で顎を擽った。
この白蛇を通じでナルトの家を外から見張っていただけでなく、邪魔をするように命じておかなったのが今となっては悔やまれると、言った通りに悔しそうに唇を噛んだ男にナルトは開いていた手を握り締める。
「こ……こンのストーカー!」
ぎゅっと閉じられ、そして開かれた拳には青い風の性質を持ったチャクラが強烈な渦を作り巻いていた。
離れた手の先から漏れるかまいたちのような鋭いチャクラがサスケに向けられ、白蛇が消えるが、涼しい顔をした男は僅かに眼を細めるだけだ。
「誰がストーカーだ。恋人としての当然の義務と権利だろうが」
「ぜってーチガウ!」
力いっぱいのナルトの否定はサスケの耳に都合良く届かないらしい。
「何度言ったら分かる。俺意外の男と二人きりになるな飯も食いにいくな飲みに行くなんて持っての外だと言ってるのに無視しやがって。他の男と二人で出掛けるなんざ立派な浮気だ。これを笑って許せるほど俺は心の広い男じゃねぇぜ?」
何で友達や先生と飯食いに行ったり飲みに行くのをコイツに怒られなきゃなんねーんだ、浮気って意味分かんねぇ、その前にお前がいつ心の広い男の時があったんだ。
いくつかの言葉がナルトの心で華麗に突っ込まれるが、取り敢えず総合的な一言に集約させた。
「なんでそーなんだよ…!」
(コイツ、頭ゼッタイにオカシイ)
今更ながらに痛感する目の前の男の阿呆さ加減にナルトは強い眩暈を感じる。
「今すぐその痛すぎるモウソウを止めろってば」
「分からねぇならテメェの身体が誰のモンかしっかり教え込んでやる」
いつの間にかパチパチと帯電するように弾けたサスケのチャクラは触れられればきっと痺れを起こさせるのだろう。
何でこんなアホな事で怒っている男に無駄な実力があるんだろう、そしてこいつがライバルでもあるんだと考えたナルトは思わず遠くを見たくなる。
だが取り敢えずは勝手な妄想でアホな事を言って勝手な事を実行しようとしている男を黙らせるのが先決、と気を取り直した青い目が挑むように見上げた黒い目を捉えて飛び立った。
取り敢えず一発殴ってやる、と拳を握りながら。
そんなナルトが先にしたのと同じく、それ以上に遠い目をしたい者がいた。
接近戦のクナイを交わす音を響かせているナルトとサスケ以外の者。
静かな森を震わせた存在は今ここにはもう彼らしか居らず、その内の片方。
サスケの腕を振り払う為にナルトが喚び出したガマ分太に対抗し、喚び出されたマンダだ。
つい今しがたまで頭上に乗っていた現契約者の発する言葉は否応無しにマンダの耳にも届く。
口寄せされる生き物と契約するならば喚び出された者に釣り合う、もしくはそれ以上の実力を持った者ではならない。
対立しているガマ分太のように気に入れば時に未だ未熟であろうと契約を交わすような気質をマンダは持ってはいなかった。
故にサスケとの契約は自分が従うだけの力があったからこそ半ば強制にさせられた物で、前の契約者であった大蛇丸に言われたからでもなんでもない。
それを認めたからこそマンダは従っているのだが。
時折思わずには居れない。
どうしてこいつが契約主なのだろうか、と。
つい先ほどのどう聞いても阿呆だとしか思えぬ、しかも少し変態の入っている発言にこれが己の契約主、主とは思いたくない。
元よりとりたてて忠誠心なんぞを持ち合わせてなどいないし、自らが外道と呼ばれていた大蛇丸とともに色々とやってきた過去もあり、今更どうこうと言える身ではないと思うが。
「大蛇丸も大蛇丸でかなりあれだったがな……コイツは………」
思わず出てしまった深い溜め息は、人とは違う時間を生きる自分達でもそれなりの年を取ったという事だろうか。
つい、漏らしてしまったそんな呟きを聞いていたのは、彼の主たるサスケではなく、対峙していた同じく口寄せで喚びだされたガマ分太だ。
主達に喚びだされ、その頭上同士で会話をされていたのだから当然ガマ分太も近くに居り、先の会話の全てを聞いている。
じっと沈黙していた大蝦蟇の親分は何も言わず盃を差し出し、マンダの前へと置いた。
恐ろしく大きい盃には酒が注がれている。
何も言わぬが最大の情け、として差し出された酒の味は長年そりが合わず対立していた両者の間を少し解きほぐした。
秋の月夜の下、主達の和解は今しばらく掛かりそうである。





















(終)


ナルトさんハピバーーー!ってどこが…!
ぜ、ぜんぜん祝えてなくて本当にすみませんごめんなさい!(土下座)
いつも原作設定のお話は暗いというかシリアスなので思いっきりはっちゃけて明るく楽しくナルトさんを祝おう!なんて思っていたのですが、そしたらなんかこんなんに;;
すみませんすみませんすみません;;
あいも変わらずの駄文で本当にごめんなさい;;
しかも一言もおめでとうがない…!orz
きっとこの後宿屋でたっぷりしっぽりバカップルでサスケにおめでとうを言われまくると思われます。てか言え。(こら)
とにもかくにもナルトさんおめでとうー!(愛だけはいつもいっぱい)
こんなんですが読んでくださって本当にありがとうございましたー!
もしよろしければ今月いっぱいフリーですので連れて帰ってやって下さい><


'06/10/11