ガキィっと重たく高い音に目が反応したのと、手元から離れたクナイが己の相手である敵の喉に深く突き刺さるのは同時だった。
転じた視線の先には黒を自らの一部のように従えている男。
しなやかで美しくさえある流れで、明瞭な殺意を乗せて降りてくる鋭利な刃を鉄の板で受け止めていた。
同時に片方の腕に繋がった刀身が近づきすぎた敵の首に掛かる。
筋肉の連動さえも憶えこんだ腕は速く、立ち筋は逃れる場所を許さない。
無駄と言うものを一切排除した動きは極められている。
刹那の応酬で全ては終わっていた。
我が身の使い方を心得、それこそが一つの生ける武器になるその姿に衝動が息を吹いたまま。









Stimulant








時刻はもう丑三つ時に近かったが火影邸では多分の騒めきと人を残していた。
常日頃からこの火影邸や任務の受付所、あるいは忍の待機所などには緊急事態に備え必ず人がいるようにしているが、そういった通常のものよりも明らかに違っているが、当然だ。
六代目火影が外交から帰還したばかりなのだから。
「あー疲れたってば〜」
こきこきと、軽い音のする肩を回しながら火影の文字が入った笠を執務机に置いたナルトは、机に備えられている椅子ではなく、ほぼ中央にあるソファへに身体を預けた。
「おー、お疲れさんっと」
付き添って執務室に入ってきていたシカマルがナルトの後を追ってソファへと座る。
火影筆頭補佐官という部下の立場のシカマルは本来背後に控えるべきなのだろうが、公式な場など必要で無い時はナルトもシカマルも話すのに面倒、の結論から言うまでもなく向かいあって座った。
「お疲れさんどころじゃねーっての。ただでさえ雨隠れのじーちゃんと話すのは疲れんのに帰りにアレだもんなぁ。シカマルも来れば良かったんだってば」
適度な弾力が効いたソファの座り心地の良さにふうっと浮きそうになる気持ちを引きとめながらナルトはぼやいた。
「勘弁してくれ。俺としちゃ予想通りの反応で助かったぐらいだけどな」
ナルトの疲れの大部分の原因は襲撃ではなく、その前の会談にあった事は容易に察しが付き、シカマルは苦笑する。
木の葉隠れの里を内包する大国である火の国の国土は広い。
故にいくつもの国や里と隣接しているのだが、その内の一つ草隠れの里との同盟に向けての協議が今回の六代目火影であるナルトの訪問の目的だった。
土の国、風の国、そして火の国と忍五大国の内三つの国に囲まれる形となっている草隠れの里としても砂隠れの里と深い友好関係にある木の葉との同盟は決して悪いものではないはずで、可能性は高いと言えるが矢張りそれなりの条件や利害が絡み、すんなりとこちらの提示を呑むなどという事はない。こちらが草隠れの提示を丸呑みする事がないように。
何度も行われる次官レベルでの協議に加え、密書でのやり取り、そしてトップ、火影と草隠れの忍頭との直接の会談。
それら全てに腹の探り合いと駆け引きがある。どちらも少しでも己が預かる里に有利なように、と。それは上に立ち、里を預かる立場としては当然の事でナルトも理解しているし、ただ闇雲に嫌だとは言わない。
だが出来るならどれほど甘いと、馬鹿げていると言われてもそんな冷たい腹の探り合いや駆け引きをせずに信じる事から始められるような世界にいつかはしたいと思っている。
取りあえず現状ではそれが無理で、探り合いも駆け引きも必要ですべき事だと分かっているが、矢張り苦手なものは苦手で。 肉体的には何の問題もない軍行だったが精神的疲労にぐったりとしていた所に来た敵襲。
雨隠れの里に立つ前に恐らくあるだろうとシカマルが言っており、元よりこれから結ぼうとしているとはいえ同盟相手でもない他里への訪問という事もあり火影と精鋭のみという形で組まれた外交のメンバーには動揺する者も重症者も死者も出なかった。
襲撃してきたのは――雨隠れの忍が得意とする術などが一つ二つ出たりもしたが――恐らく草隠れの忍だと調べもついている。
木の葉を内包した火の国、砂を擁した風の国、そして雨隠れの里、三つに正に囲まれるような位置にある小さな国が、木の葉と雨隠れの同盟により自国の安全が脅かされるのではないかと危惧しての同盟を壊す事が目的としたものだと見ていて、それに間違いはないだろう。
仮にも忍の頂点たる影の一人、火影を襲撃するにしてはたった4人とは数が少なすぎるし、相応の手練れではあったが引こうとするのも早すぎた。
本気で火影暗殺を狙ったわけではなく、火影暗殺を雨隠れが行ったと見せかけたいだけ、としか思えない。
もし雨隠れの忍による襲撃ならばその結果にあるのは同盟の白紙だろう。そしてそれを現状で最も望んでいるとすれば彼の国しかあらず。
事実雨隠れとの同盟の話が具体的になってきた辺りから、周辺を嗅ぎまわる気配が騒がしく、それが主に草隠れの忍である事も、その依頼主がどうやら彼の国である事も凡その調べはついていた。
ただ流石に決定的な証拠も、また直接的な行動も無いので様子を見るしかなかったのだが、動くなら今回の同盟協議だろうと言ったシカマルが予想の範囲内の襲撃で、その対応は十分すぎるほどに出来、問題らしい問題は今の所ない。
些か単純にも思えるが、事実これがもし成功していれば非常に効率よく、効果的な事には違いないのだ。
無論、絶対などというものが無いのは分かっているし、最後の気は抜いてはいないが。
それこそ草隠れ、ひいては間の小国の仕業と見せかけて、あわよくば火影暗殺を、と雨隠れが企んだという可能性が決して無いわけではない。
だが同盟から得られるメリットと、火影暗殺を成功させて得られるメリットを考えた場合、あの策略と智謀で名高い雨隠れの忍頭がそんな選択を選ぶとは到底思えないというのがナルトとシカマルら事態の事情を知る全員の心象ではある。
「ま、あちらさんも本気で火影様を暗殺ってつもりじゃなかったようだし、同盟に関しても白紙に出来たら儲けもん、動揺一つさせれりゃいいって程度だろ。このやり方を見ると」
上がってきた敵襲に関する詳細な報告書に目を通したシカマルは軽く肩を竦めた。
たった4人での襲撃。それも最初と二次の攻撃を仕掛けてすぐ引き上げようとし、無理と分かれば死を覚悟しての対峙。本来ならば生かして捕らえられるのが一番なのだが向こうとてそう馬鹿ではないといった所か。
せめて亡くなった忍の身体を調べられれば何か分かったか、あるいは証拠になったのかもしれないが、生命活動を停止してすぐ身体が溶けて腐り落ちるという特殊な術が掛かっていた敵の死体は何一つ残らず、調べようも無く消えてしまった。そもそもそれ自体に多くの情報を秘めている忍の身体が無事残る方が珍しい。
「そうだと思う。つまりまだ他に何か仕掛けてくる可能性があるってことだよな〜。あーもう疲れるってば!やるならドーンと正面から来いっての!」
それなりに慣れ、対処出来るようになって来たとはいえ元々の性格が策略や謀略といったものとは真逆なナルトはむうっと口を一文字に結んだ。
実にナルトらしい言い分にシカマルはまた苦笑を浮かべる。その顔にはそんな風に言ってのけるのが嫌ではないと書かれてあった。
「馬鹿、それが出来りゃ向こうさんも苦労はねーだろうよ。めんどくせーけども暗部の報告もくるだろうし、上手くいきゃ向こうさんが仕掛ける前に潰せる」
一人だけ自害される前に撤退させ、わざと取り逃がした。それを暗部二名に追わせそのまま情報収集を命じてある。
場合によっては今までの裏付けと証拠、それから先の推察に足る情報が得られるかもしれない。
「うん、ネジとシノだからそう時間は掛かんねーと思う」
彼らならその期待が十分出来る。
今回のような事態を想定し、情報収集能力に長けたネジとシノを同行させていたのは正解だったと思いながら、ナルトは頷いた。
「ともかく草との会談の成果も悪く無かったようだし。本日はもうお帰りになって結構ですよ、火影様。明日も午後からの出勤で構いませんので」
「休みにはしてくんねぇの?シカマルのケチー」
後半はややからかいを含んではいるが漸く貰えた帰宅の許可にナルトは文句を言いつつも笑みが出てしまう。
だがその文句は思わぬ蛇をつついたようだった。
「文句があるなら自分でサクラに言えよ。俺も休みにしてやりてぇって言ったんだがな」
「い、いいってばよ」
どこか面白がるように言ったシカマルにナルトが頬を引き攣らせた時、等間隔で繰り返される軽音が響く。
「火影様、失礼します」
まるで話の終わりを見計らっていたのかのように扉を叩いてきたのは、同じ副補佐官でも今話していたサクラではなくもう一人の方だった。
「入れ」
短い許可の後、長身を音無く入らせてきた黒い男はどこか面白くなさそうにしている上司の顔に気付き、軽く眉根を寄せる。
「どうかしたのか?」
開口一番そう言っては、あまり心臓によろしくない視線を投げかけてくる副補佐官にシカマルは笑いを堪えられない。
本当に昔からこの男、サスケはナルトに関しては獣並みの勘を働かせる。ほんの少し引き攣らせていた頬の様子などもうとっくに消えているのに。きっと日常的な変化など一目で分かるのだろう。
「なんでもねーって。こんな遅くまで頑張ってる火影様は明日も出勤ですよーってだけの話」
「それでも午後からだろ。だから嫌ならサクラに」
「だからそれが無理なんだろー」
はぁっとついたナルトの溜め息の理由は、先に出た名前で即座に理解した。そしてサスケが呆れを含んだ視線を送ろうとするがその前に、火影の声が掛かる。
「それよりサスケ、何?」
火影室に火影を訪ねた理由を聞く、即ち副補佐官としての仕事を要求され意識を切り替える。そういった切り替えの早さはここに居る誰よりも上だろう。
「先の襲撃による負傷者のリストをお持ちしました。怪我をした者の全員が軽症だったため入院をするものは無く、療養目的の休暇が必要と思われる者もおりません」
一枚の書類を渡され、ナルトはさっと怪我をしていた者だと記憶していた名前と羅列されている文字を照らし合わせていく。
違いない事を確認すると、サスケの方を振り返り頷いた。
「そっか。なら通常休暇とあんま変わらないようにしておいてくれ。しっかり休ませてやりてーけど今忙しいかんな〜」
「承知」
「頼む。他には?」
「ありません」
「そっか。ならオレもう上がるってば」
短い返礼をしたサスケに同じく短く付け加えてナルトの顔は子供っぽい笑みを浮かべる。
ナルトがわざわざそう言ったのには今日は家に帰れるという意味を含んでいて、自然とサスケの表情が柔らかくなった。
ここ最近、草隠れの里への訪問の為にスケジュールの調整が続いていて忙しい、それこそ連日連夜火影邸に泊まりこむという日々が続いていたのだからそれも無理はない。
火影と副補佐官、同期で親友でライバル。それと恋人という位置をお互いに持っている事を知っているシカマルはいつもながらたった一人に対してだけ反応を見せるサスケに笑いが出そうになり、それを誤魔化すように話を振る。
「サスケも今日はもう帰ったらどうだ?草にも同行してたんだし。大方の処理も終わって問題ねーだろ」
「ああ…そうする」
シカマルの言う通り、取り急ぎしなければいけない雑務は片付いているし、サスケ自身この報告が終われば帰る予定でいた。
ナルトが帰れるようなら待つつもりでいたがそうならずに済み、裡で浮き足立つものがある。
「あ、お前も明日は午後出勤でいいそうだ。遅刻しねーよう火影様を連れてきてくれや」
「シカマル、それどういう意味だってばよ?」
「あー、そのまんまの意味で。そんじゃ失礼しますよ、火影様」
まるで子供のような扱いの物言いに不服そうなナルトをさらりと流し、シカマルはだるそうに立ち上がると執務室をさっさと出て行ってしまった。
「オレ、火影なのに…」
残されたナルトは不貞腐れたように呟くがこんな下らない物言いに慰める言葉をサスケが用意するはずもなく代わりに建設的な行動を示す。
「帰らねぇのか?」
「帰るってば」
返事をしながら今夜は久しぶりに四肢をゆっくりと伸ばして眠れると思い、ナルトはしらず顔を緩めた。
本当にころころと変わるその表情は下忍の頃から変わらずサスケの目を引く。それが火影としての顔が日常の大半を彩るようになった中、惜しげもなく晒されていると思えば尚の事だ。
不意に今すぐここで抱き締めたくなる。
だがそんな事をすれば半月程触れ合っていなかった自分が我慢出来るはずもなく、理性を総動員させ、まずはさっさと家に帰ってしまおうとソファに腰掛けたままのナルトに手を差し出そうとした。
が、伸ばそうとした手に嵌めていた手甲の微妙なずれを不快に思い、ぴったりと掌に合うようにきゅっと嵌めなおす。
任務の時に支障のないようにと考えられ指を出している金属のプレートが付いた手甲は今日の戦闘で少々傷が付いていた。
新調した方がいいのかもな、と考えていたサスケは不意に視線を感じ顔を上げる。
下から真っ直ぐ見上げる青い目とかちあった。まるで潤んでいるようにも見えるほど濃くなった青とその周りの白い肌に散った赤がひどく鮮やかで、サスケはついさっき燻りだした熱を煽られるのを感じる。
「どうした?」
常らしからぬ熱心さでサスケを見つめるナルトに聞いた声は、平静を出来るだけ装った甲斐があり低く落ち着いていた。
「べ、別に、何でもねー」
あからさまに動揺し、ぷいっと顔を背けたそれは何でもなくないというのを白状しているようなものだが。
「なら帰るぞ」
取り敢えずの追求は避け、一つの確信を持って手を差し出す。
何も言わずその手を取ったナルトの動きは酷くぎこちなかった。



長い指が濃紺の布を引き下げ、ぴちりと手に合うように整えられるのを見て、ぞくりと身体に走った。
何気ない仕草が絵になる男だというのは知っている。
だがそれだけではなく、思い出してしまったのだ。
甲に付けられているプレートで刃身を弾く様を、それが自然の理であるかのように敵を屠る流れ。生死を共にある興奮。
忍のして戦う姿が何よりも合っているのだ、隣を走っているサスケには。
夜闇を疾走しながら、ナルトはそれに強く惹かれている自分を自覚した。
ほんの少し思い返しただけでどくどくと高鳴る心臓に頬が血を送られ熱くなる。
今握られている手に伝わる布の感触が気になってしょうがない。戦闘時のサスケを彷彿させてきて、ナルトは密やかに熱を孕ませた息を吐いた。その熱がどんなものかが分からぬほどナルトとて幼くない。
故に意一層気恥ずかしさが込み上げてくる。当然ながらサスケの様子は至って普通で、こんな物に熱を憶えた身体を持て余し始めているなど想像もしていないだろう。
絶対に気取られたく無い。
さっさと風呂にでも入って散らせてしまおうと、ナルトの足は自然と速くなり、それに遅れる事などしないサスケとともに里の端にある二人が住むうちはの家に着くまでに時間というものは殆ど掛からなかった。
「風呂沸かしてくる」
居間として使っている部屋に入り、火影の名を背負った外套だけを脱いですぐに風呂場へと向かうとするナルトの手をサスケの手が掴んで止めた。
そのまま引き寄せ、そのまますっぽりと腕の中に納めてしまう。
「ナルト」
低く滑らかな声に呼ばれ、上を向くと口を塞がれた。
すぐに舌が唇を擽ってきたので薄く口を開くと、ぬるりと侵入してきて、ナルトの舌を絡め取ってくる。
それに応えれば、ざらりとした感触が腰から背を駆けぬけて奥底でぽつりと灯っていた熱を煽った。
「んっ…はぁ……だめ、だって。シャワーぐらい浴びさせろってば」
「待てねぇ」
少し離れて言うがすぐに離した距離を追ってきて口腔内の敏感な部分を蹂躙しはじめる。
元より嫌ではなく、むしろ本当は待ち望んでいたと言っていい状態に密かになっていたナルトはそれ以上の形だけの抵抗を止めた。
サスケの手が額当てを取り、髪を撫でながらゆっくりと背後にあったソファにナルトを倒す。
ぽすんとクッションの上に落ちたナルトの外套の下に着込んでいるジャケットを開き、上着の下から手を潜り込ませた。
素肌を滑るのはしっかりとした指の腹の感触と、手甲の布の感触だった。
柔らかくはあるが人肌に比べて粗いそれが押し当てられた掌の形にナルトの腹から胸へと這い上がってくるのが嫌に鮮明に感じてしまう。
目を下にやれば、圧し掛かってきているサスケのもう一方の手が下肢を寛げていた。
勿論、その手も手甲を嵌めたまま。
ざわりとした布の感触がナルト自身と薄い金色の茂みをこそばして身を捩る。
「サスケ、それっ……」
耳朶まで赤くしたナルトの視線が訴えるものがサスケは分かり、ニヤリと口の両端を引き上げた。
「コレか?」
手甲を嵌めた手をナルトの目の前に持ってくると鉄板の部分を指でコツンと弾き、確信に満ちて言う。
「付けたままのがクるんだろ?」
「ちがっ」
瞬時に否定されるがサスケは全く動じない。
「嘘つけ。そんな物欲しそうな顔して俺が分からねぇはずがないだろ。ずっと気にしてたクセに」
ククッと喉を震わせて笑われ、ナルトは唇を噛み締め、白い肌はより赤みを帯びる。
「もう濡れ始めてる。随分と早ぇな」
「やっ、あっ…言うなっ」
乾いた生地が敏感なそこを擦るのは痛みを感じたが、既に勃ちあがってきている先から零す液を纏えば濡れた音とともに快楽の方が強くなっていく。
「あ、あっ…っん」
誘われるように下に向けられた青い目に、冷たい金属のプレートを付けた、本来任務でこそ使われるべき手甲を着けた手が白濁の蜜で汚していくのが覗いた。
こんなのに使う物じゃないのに。
羞恥と呵責がどくりと下肢に血を巡らせる。
「これじゃ見えにくいか」
「えっ…」
卑猥な動きから逸らすこともできない蒼眼に気付いたサスケはさっと身体を離すと自身がソファにどっしりと座ると、ナルトを脚の間に引き寄せ、後ろからすっぽりと抱え込んだ。
熱と羞恥が支配し、快感に篭絡されていたナルトは気付けば下に履いていた服を全て脱がされ、足を折り曲げて広げされられていた。
足を閉じようとするが、サスケの足が絡んでそれを許さない。
すっかりと露わになった下肢へと手が伸ばされるが、柔らかで無駄のない腹を下がっていくがそそり立った陰部や熟して膨らんだ双果は避けられる。
「…っあ」
先走りが手甲に染みて張りついた掌と触感や肌が直に触れてくる指が土手や会陰――陰部と蕾の合間――だけを這い、もどかしさに堪らずナルトは腰を揺らしてしまった。
「どうして欲しいんだ?」
それを待っていたサスケが毒のような甘い声を耳へと流し込んでくる。
察しの良いサスケの事だ。
恐らくナルトが何故、どんな風に興奮してしまっているのかもう気付いているのだろう。
目の前で動く手甲が脳裏にあの時の、強くしなやかで美しい立ち振る舞いが浮かばせ、昂揚を呼び戻してくる。
「言わねぇと分からねぇだろ」
荒々しく無駄のない、大型の肉食獣のような姿の両面を同居させる黒い眼が注ぐ視線を感じて、それだけで身を焦がされるようになった。
「それとも…このままでいいのか?」
唆すように胸の突起を擽る指と、やんわりとナルト自身に掌を絡めただけで動かしはせずにそれを煽るサスケの低い、少しだけ掠れた声。
僅かな刺激にさえ頭が蕩けさせられる。
皮膚のように馴染んでいる忍具を嵌めた大きな手。
目を逸らす事も、瞬き一つも出来ずにそれが齎すものを期待していくのを止められない。
もうずっと肌を重ねていなかったせいもあるのだろうが、今のナルトにはそんな事は分からなく、重要でもなくなっている。 ただ身の内を巡る恥ずかしさとそれを押し流してしまうほどの熱の暴虐さに唇を開いた。
「よく、ねぇ…ってばっ」
「ならどうして欲しいのか言えよ」
笑みを含みながら明確な言葉を要求してくる意地悪い男の黒い目を振り向き見上げて睨むが、サスケからすれば上目遣いに潤んだ目で凄まれてもナルトが期待した効果を返してやるのは難しい。
違った効果――甘く強請ってサスケの我慢の限界を促すというものならばかなり成功しているが。
だがサスケの我慢の限界よりも自身の限界を先に迎えたナルトはもう一度唇を噛み締め、そして熱の一端とともに吐き出した。
「さわって、ほしっ…!」
苦しげな声に微かに交じった甘さに気をよくしながら裏の筋に沿って激しく扱きだす。
「ああっ!あ…んんっ…っ・・・あっ、あっ」
待ち侘びた快感は雷にすら似ていてナルトの脳に火花を散らせる。
強弱をつけながら過敏な皮膚にごわごわとした感触を与えられ、弱いと知っている括れの部分を指の腹で擦り上げられて内側では吸い取りきれなくなるほど白液が溢れだした。
指と掌の横が受け止めきれず甲にまでつうっと落ちて流れる。
銀色の鉄に乳白色が彩られるのを濃くなった蒼に映った。
「あ、あっ……ふっ…あっ…あっ…ッ!」
水気を吸った音と嬌声が交じり合ってサスケの耳を愉しませてくる。
色づいた胸の突起を押しつぶすようにきつく捏ねてやればサスケよりもずっと薄い胸が揺れ、手の中の脈がまた速くなり、膨らんだ。
サスケの胸にぴたりと預けられていたナルトの背が浮いて、覗かせた白い項が赤くそまり誘われるままに口を寄せ、舌で舐めあげてから吸いつく。
「やぁっ、もっ……!」
首筋にもある性感帯を刺激されてナルトはサスケの二の腕に爪を立てるように服を掴んだ。
「イケよ」
昇り詰めるのが近いと訴えてくる白い指に応えるように根元から嬲り、開け続けている鈴口に指を捩じ込ませる。胸の飾りを弄っていた手を上へと逸らして喘ぐ顎に手を掛けると首を伸ばして唇を塞ぎ、中の上顎を舌で撫で上げた。
「んんっ…んっ、んんーーッ!」
ぎゅっと青い目を瞑ったと同時にそこは真っ白になる。
びくんっと腰が大きく跳ねてサスケの手をさらに白蜜が汚した。
上唇を食むように味わって離れたサスケに、ナルトは荒い息を繰り返してぐったりと凭れ掛かった。
「そんなに悦かったか?」
「…はぁ…はぁ…うるせーっ…て……」
後ろを振り向き、咎める青眼に楽しげな黒眼が返される。
「事実だろうが」
感じてたクセに、と触れるほど近さで耳に流し込まれた声はからかいを多分に含んでいるのに頭よりも腰に届いてしまった。
本当にこの声は狡いと僅かに膨らませたナルトの頬に近付いていた口はそのまま落ち、触れるだけのキスを繰り返す。
少しだけ顔をあげればすぐに唇へと移動し、角度を変えて舌で優しく蹂躙しながら何度も啄ばむ。
「んっ……ふっ…っ」
口腔を擦ってくすぐっていく舌をナルトから吸って返せば、息一つ漏らさせないように深く口付けながら、眺め良く広がった下腹部に手が伸ばされた。
放たれ、外気に晒されて冷たくなった精液が染みた布の感覚が鳩尾から腹へと伸ばされ、しっとりと汗をかいた白い肌の上で粘着質の液体がぬらぬらとてかる。
「はっ…ぁ…」
身体が揺れ、離れたナルトの唇から零れた息はもう色を滲ませていた。
下げていった手の長い指が臍のまわりを円を描くようになぞると一度離れ、曲げて立たせている足の首を後ろから、膝裏、太腿までやわやわと揉みながら上がっていく。
もう片方の手は脇腹から細い腰、臀部を撫で擦り、どちらも前と後ろの付け根へと辿りついた。
柔らかく熱く、熟した実に続く太腿を布越しと指ので堪能しながら一度放ったのに、また擡げる様子を見せてきている陰茎を包み、もう一方で張りのある尻の肉を揉みしだいて割ると奥の後庭への潜らせた。
「ッつ…!あっ、あ、ああっ!!」
つぷりと中に侵入してくる違和感に押し戻そうとしながらも、過去の記憶から先にあるものを待ち望んで蠕動を初めた襞の熱さを楽しみながら指を折り曲げて知り尽くした箇所で動かす。
首をすこし上げだした性に添えられた手が根元へと向かって指で揉まれ、その奥にある前立腺を刺激され、一気に血がナルトの身体を回った。
ぴくん、と勃ちあがったそこをばらばらに動かす指で悪戯をしながら、一度放ったものを馴染ませて入れるように後孔への指の数を増やしていく。窄まって指を挟んでは纏わりつく赤い肉を押し広げ、解す度にナルトの艶やかな鳴き声が溢れた。
三本の指の全身まで埋められ、直接的な刺激が波のように押し寄せ、自然と腰が揺らしてしまうがそれに気付ける余裕がない。
うっすらと開けた涙が盛り上がった深い青を湛えた眼に濃紺と銀、そして肌色のコントラストが入ってくる。
ぞくぞくと神経を震わせてくるそれに手を伸ばしてなぞった。
「あっ、あっ…サ、サス、ケ……ッ」
サスケの手の甲から手首の上を白く、忍であるのに柔軟な皮膚を持った男にしては丸みのある指が移動する。
傷の付いた手甲を何度も愛おし気に触れる指と甘い声の誘惑に陥落したサスケは指を引き抜いた。
「やっ…まだっ……」
急な喪失感を補うように中で蠢き、じんじんと響く疼きに堪らずナルトは声をあげてしまう。
サスケはそれを心地よく聞きながら少しナルトから離れ、服の下で貼り詰めている自身を取り出した。
血管が浮き出るほどに怒張しそそり勃ったそれに、身体ごと振り向いたナルトの視線が注がれる。染めていた頬がさらに赤さを増して、けれど熱を満たして潤んだ青も強くなった。
前だけを開け、己の手を添えていたがサスケはニヤリとやらしく、男の色気を纏った笑みを浮かべた。
「ナルト…」
渇望して乾いた喉から濃厚な欲情を滲ませた声が紡がれる。
すっと手を差し出された意味を漆黒の眼で爛れた熱を込めて告げられ、ナルトは少ない唾液を嚥下した。
腰に添えられた手に逆らわずサスケの上に跨り、サスケの手の上に自分も手を重ねて十分な硬度と角度を持っているそれを蕾へと宛がう。
「うっ…あ、っ……ああ、」
くちゅっといやらしい音を奏でながら狭い下の口が開き、呑み込んで行く。
「あ、あ、…はっ…んああっ!」
左右に割り開かれ、猛ったものが敏感な箇所を擦りながらもナルトの中を圧迫するが自身の重みがそれを止める事も許さず一気に根元まで収まった。
だが向かい合い跨った両足を更にぐいっと大きく広げさせられて、更に深くサスケが沈み込んでくる。
「すげ…いい」
ねっとりと絡みついて締め上げてくる眉肉と頭の奥まで眩むような熱さに、サスケは堪らないと息を吐いた。いつもよりも深い所でどくどくと脈打ち繋がっている今はそれだけでも刺激になってナルトを甘く苛む。
自然と蠢動する襞が弱い箇所を中の楔に擦られ、それだけで疼きが増していくが、だからこそ苦しい。
サスケの両側に手を着き、ゆるゆると自ら腰を上げて落とせば、収縮する肉襞の浅い所の弱い箇所を掠めながら奥へとまた貫かれる。
ぐちゅぐちゅと滴る音に耳を犯されながら、それにすらぞくりと感じいる身体を動かした。
「ふっ…ぁっ…サスケ…動けっ、てっ…」
腹の上で健全な明るさや時に厳しさを見せるようになった普段とはかけ離れた淫蕩さにのめり込んでいたサスケは甘やかな声音に強請られ、きつく締め付ける襞を突き上げる。
「ああっ!…あっ、あっ、あっ……ん」
電流のような快楽が腰から背筋を這って頭の先まで一気に駆け抜け、ナルトは背を撓らせた。
その細い腰に指が食い込むくらいに強く両手で掴み、下からの動きに合わせてサスケはナルトの身体を揺すれば、ナルトはびくびくと肩を震わせ、込み上げる快楽を受けとめる。
ぼやけた頭で何度も浅く深く挿抽してくる目の前の男の顔を見れば、今にも喉元を咬みつきそうな荒々しく鋭い眼線でナルトを捕らえる。
ナルトの腰を掴んでいた片手が放置されていた前へと掛かり、弱い括れを扱くのは手甲をつけた手。
どくんと心臓が大きく高鳴り、蕾が浅ましくひくついた。
「や…あ……っ!」
きゅうっと喰いつかれたサスケが大きくなる。
「ナル、ト」
快楽を強く滲ませた低い声で名前を呼ばれ、ナルトは絶え間なく襲ってくる甘く強すぎる痺れと激しい熱に流されてしまいそうでサスケの首に腕を回し、逞しい肩に歯を立てた。
「ひっ、ああっ!あ、っふ…あっ……っんん!」
ぞくりと煽られたサスケがより激しく貪り、ナルトの嬌声が悲鳴じみたものになるが我慢が出来ない。
揺さぶりがどんどん速くなり、ナルトの身体が大きく震える。
「あ!ああっ…サスケ!」
「ナルトッ!」
片手で膝の裏を持ち上げ、ぎりぎりまで引き抜かれると一気に最奥を穿たれたナルトは快感と熱の衝撃に昇り詰め、サスケもまたナルトの中に駆け上った熱を迸らせた。



「これはもう使えねぇな」
ぐっしょりと濡れた手甲を外し、言ったサスケの声は楽しげだ。
濃紺であるそれを白っぽくなるほど汚したのが自分だと嫌でも分かっているナルトは、ベッドの上で大判のタオルに頭までくるまったまま返事をしない。
無視を決め込まれるが、それでもサスケの顔から笑みが消える事は無く。
「それにしても」
風呂から上がったばかりで濡れた髪を掻き揚げながらぎしり、と隣に座る。
「こんな小道具が好きだったとは意外だな」
「違うってば!」
愉しげに笑われ、思わずナルトは顔を出して反論してしまう。
「そのっ、それがどーのってんじゃなくて、だから、それを使う時って今日みたくサスケが戦ってる時で、つまり、」
「へぇ…俺が戦ってんのが一番クるのか。それでコレに感じたのかよ。今日のを思いだして」
見も蓋も無い、あまりに有り体に核心を突いてくる言葉で言い訳を浚われ、ナルトはまた顔を真っ赤にした。
「だから違うっつーの!…その、やっぱサスケは忍だなーって思ったっていうか……そーゆーサスケはちょっとだけすげーカッコいいかも、ってか…つまりっ……」
どんどん言葉尻が小さくなっていくナルトの言葉にサスケの気分はますます良くなる。
己のどんな姿でもそれにナルトの心を動かす事が出来るのなら嬉しくないわけがない。
そして。
「なら今度、鍛錬の後か演習の後ででもシてみるか?」
利用しない手もないだろうと北叟笑んだ。





















(終)


最後のサスケの台詞には当然の如く「誰がするか、このバカサスケ!」と枕攻撃付きで返されます(笑)
ナルトはサスケが戦う姿が一番カッコイイと思っているんだろうなーっと妄想で突っ走ってしまいました(汗)任務中とかだと不謹慎、とか思いながらもやはり戦闘とかの興奮も手伝い、先に自分の戦闘が終わった時とかに余裕を持って見てしまうとどきどきしちゃったりとかね!
修行や任務の終わった直後なんかにして、凄く乱れてくれるナルトさんとかい、いいとおもいませんか?(滝汗)
忍服着たままってのでまた萌え。(制服マニア)今回は火影外套とか脱いでますが(着たままだと別のプレイネタが出張ってきたんで;←殴)てか、手甲をつけたまま手淫が書きたかっただけなんです…腐れですみません;
はっきりとは書いてはおりませんが補佐官は三人で筆頭がシカマル、副がサスケとサクラです。里抜けした過去が影響し、ナルトが火影に就任した時はサスケはまだ上忍で、少しづつ績を上げて行き、側近となり、就任2年目くらいに補佐官になったりしてます。書ききれず申し訳ありませんでした;
因みにタイトルの意味は【刺激性の、激励する、興奮させる。又は刺激、刺激物、興奮剤】等です。一応興奮剤、といった意味でつけました。こんなんですが読んで下さってありがとうございました!


'05/10/22