陽が昇る。
何度も何度も。
それはただ一つの理として。
それは絶対の事実として。
この誓いと同じく。









Engagement Sunrise










春の吐息を滲ませた風は朝といえど微睡みを誘う熱を持ち、ナルトに泡沫の夢を更に呼び込んだ。
地上の全てにその身の片鱗を降らす太陽もまだゆっくりと中天の階段を昇り始めたばかりで、地平の床に身を横たえている。
土の上、身体の下に敷いた肌をくすぐる毛の長い獣の皮が齎す温もりと心地良い触りに乗り、ぐっすりと眠りの世界に浸っているナルトの家に侵入者が発生した。
侵入、と言っても葦と木を蔦で組んだこの棲家には入り口を遮るものなどない。
信頼出来る仲間とともにある里だからこそだ。
そう、つまりは勝手に人の家に上がり込む込まないは相手の気持ち次第で、そして自身は訪問者と思っている侵入者は家主の許可など取る気がさらさら無かった。
「……ん…」
唇を動かして幸せそうな笑みを浮かべ、ぎゅっと身体を丸めて一層深い眠りへと入ろうとした頭を盛大に叩くなんてことをしてのけるほどに。
ごつっと重い音が響く。
「…っ!!」
柔らかく優しく包まれていた意識が強烈に走った痛みに悲鳴を上げ、起抜けの喉からは声にならない空気だけが洩れた。 慌てて庇うように上げられた腕が被害を受けた頭を意識するより早く撫で、うっすらと涙を浮かばせた空を切り取ったような青い目が露わになり、ぼやけた視界の中で突然の異変の原因を捕らえる。
「…さ、すけぇ……?」
心地良く浸かっていた眠りと突然の痛みとで混乱に近い意識が見知った顔をきちんと認識した瞬間、凡その事態を悟った。
居ないはずの、少なくとも眠りに就く前には居なかった人物と頭に感じる痛みが繋がる。
「サスケっ、てめぇいきなり何すんだってば!?」
がばっと起き上がり、ナルトの横に膝を着いて見下ろしていた幼馴染の男を睨みつけたが、サスケの方はその非を僅かとも感じて居ないようだった。
それどころかむしろ不機嫌そうに眉がつり上がる。
「何、だと?分からねぇのかよこのウスラドベ。てめぇ今いつだか分かってんのか?そして今日何があるのか知らねぇはずねぇよな?」
不機嫌そう、ではなく間違いなく不機嫌な様子でサスケの口から提示された言葉を正当性ある――と思う――怒りで染めていた頭を捻って考えた。
そうして視界に入った昇ろうとしている太陽と、脳裏に甦った昨日念を押された会話が重なり心臓が跳ねる。
「あああっー!おおお遅れるー!」
「やっと思い出したかよ」
「サスケ、何やってんだよ!狩り!明日の祭の為の狩り行かねーと!」
「何やってるじゃねぇ。テメーを起こしに来たんだろうが。どうでもいいがそんな格好で行くのかのよ?」
立ち上がり今すぐにでも出ていこうとしたナルトにサスケが些か険しい表情となった。
今のナルトの姿は生まれたままの状態から葉、一枚で外陰部を隠したもので、それ自体は何ら問題のあるものではない。 この里だけでなく殆どの集落や里でも男子ならば見受けられるものだ。
だが問題は狩りに行くというこれからの予定にあり、その証拠にサスケとナルトの姿は大きく違っていた。
手は中指で結ばれ甲と二の腕まで包み、足は甲と踵から太腿までしっかりと布で包んである。途中途中を解けないように蔦を細かく咲き、結った紐で結んであり、腰元は長く縫い合わせた獣の皮を締めるように巻いて、その上からまた紐でしっかりと結んである。
普段の生活では着用しないそれらは狩りに行く時の装束だった。
森と川と泉、全ての神に対する正装であるとともに、木の枝や蔦の棘などから身を守るためでもあるその姿にならない事には狩りへはいけない。
ましてや今日の狩りは明日の祭の為のものだ。
きちんとして行かないとイルカ先生の怒った顔が嫌でも見れる。
下手をすれば明日の祭への参加を取り消されるかもしれない。
それだけは絶対に嫌だと、さっと頭の冷えたナルトはすぐに昨夜用意してあった狩り装束に着替えようとした。
が。
慣れた手つきで長い腰布を広げたナルトは突き刺さる視線を感じて振り返れば、案の定こちらから寸分も反らさず向けて来る黒い双眸がある。
「……あのさ」
「どうした?」
硬い声音を出したナルトにさっさとしろと訝しげな視線を投げてくる男はここだけ見れば普通なのだがそれは違うという事はナルトは良く知っていた。
「あっち向いてろってば」
「別にいいだろ」
ひくり、とナルトの頬が引き攣る。
じっと一瞬たりとも見逃す気がないというように眼が向けられる先には外そうとしていた葉があった。
当然その下には隠すべきものがある。
そこは里の掟で厳密に伴侶以外には見せてはならないと決められていて、それを知っているはずなのに即座に返された返事があまりにも無茶を越えており、ナルトの怒りも一気に駆け昇る。
「いいわけねぇだろ、このバカサスケー!」
結果、側に立て掛けていた槍を投げつけたナルトの家の壁の木に真新しい穴が開くことなった。



明日に控えた祭は木の葉の里の一部に者には特に重要な意味を持った。
春訪れと咲きある実りに大地と太陽の神に感謝を捧げる祭はそれ自体、勿論重要だが一部の子、子であることを最後とする者達には更に大事な事がある。
成人の儀が行われるのだ。
昨年13を向かえたナルトとサスケもその儀を向かえる面子の一人で、その為、明日の祭の祝いの席で振舞う獲物を同じ成人を向かえる連中と狩りに向かっているのだが、ナルトは幾度目かの溜め息をそっと零した。
ちら、と見遣った前にある背はサスケのものだ。
軽く速い動きを期待出来る槍を持つナルトに対し重いが威力の大きい大剣を軽々と操り、邪魔な草木を薙ぎ払っている姿はいつも通りで何ら変わりはない。
幼馴染で、初めて行った狩りも一緒に行って、ずっと一緒にいた親友と思っている存在なのだが近頃それがおかしい時がある。
(コイツってばナニ考えてんだ…)
今朝の事を思い出してまた溜め息がナルトの口から顔を出す。
例えば今朝のように。
チャリ、と12の時に祝いと責務を表すものとして里長の綱手から譲られた青い石が揺れ、里で決められた掟を共に12で狩りの許されたサスケが知らないはずがないのだと強く思う。
正式な成人は13だが、その前に狩りに出る事を許され、それがまずは一人の里人として認められる証でもあり、同時に完全な何も知らない子供扱いはされなくなる。
未熟ながらも里の者としての自覚を持つように言われ、絶対に守らなければならないとされる掟を叩き込まれるのだ。
サスケはナルトよりも先に生まれた分、より早くそれを教えられているし、僅かではあるが遅れて教えられたナルトとてしっかりと憶えている。
日頃ほぼ何も身に纏っていないに近い姿で生活しているが、隠すべき所は隠していて、他を見せるからこそそこは絶対に人前で晒すべきではないとされていた。
子供の時ならばそれでも許されるが狩りに出るようになってもそこを見せても大丈夫なのは親と伴侶のみ、という単純なけどしっかりと決められた掟を破ればどうなるか。
その時点で強制的に伴侶にさせられるという結末が待っている。
(ふざけんなっ…!)
心の中で雄叫びを上げたナルトは、その声を思わず口から先に出してしまいそうでぐっと唇を噛み締めた。
なんとか堪えた声を吐息に変え、そしてこんな気を使わなければならない原因の今朝のサスケの態度と言葉を思い出し、精一杯前を歩く男に胸の中で悪態を続ける。
まぁ実際はそれを黙っていればいいだけで、もし無理矢理に見られたという場合ならば強要した側には重い罰が与えられるというほど意外にもこの掟は厳しい。
そんな諸々を知っているはずなのに最近のサスケは今朝のような冗談を平気で言ってくる事に酷く腹が立つ。
(冗談でそんなことを言うなっての)
「ナルト、お前さっきからナニ面白い顔してんだよ」
突然ぐいっと首に腕を回し、引いてきたのは頬に朱を入れているキバだった。
「わっ、危ねーだろ!てか別に面白いカオなんてしてねーってば」
キバよりも低い身長のせいでちょうど肩に頭を預ける格好となったナルトは斜め上へと睨む。
「気付いてねーのかよ。らしくもなく溜め息吐いて暗らくなってたと思ったら今度は顔赤くして怒りだすわ…ホント面白れぇ」
ケケッと犬歯を見せて笑うキバと同意するように一鳴きした赤丸にナルトはむっと唇を尖らせながらも、そんなに顔に出てるのかと頬に手を当てた。
「お?どうした?ひょっとしてこれからの狩りが怖いのかよ?」
いつもならもっと食ってかかって来るはずなのに思ったよりも静かなナルトにキバは近い顔を覗き込んだ。素直に心配を受け取らないナルトへはこうしてからかいを織り交ぜるのが一番だと心得た笑みを浮かべながら。
「誰が」
「おい、狩り場まであと少しだ。巫山戯てんじゃねぇよ」
勇気が無く狩りを恐れると見做されることは恥ずべきものとどこの里、部族でも同じで、思った通り眦を吊り上げて否定してきたナルトの言を遮ったのは先を歩いていた年中不機嫌そうな男の声だった。
ここ数年、この本来持つ顔は無表情の一つだけというような男のこういった顔を見慣れているキバはもう一つ面白いからかいのネタが増えたと口を開きかけたが、今度はナルトにキバの言が遮られる。
「うるせー!フザケてねーし、言われなくても分かってる!」
キバの腕から抜けてサスケを追い越して行くナルトの背を見つめる、そうし向けたサスケの眼にキバはやはり面白いネタだと口の端を上げた。



風下で待ちうけていたナルトとサスケとシノの元へ風上からキバ、シカマル、チョウジらが追い込みを掛けてきた獲物が地を震わせて駆けてくる。
「行ったぞ!」
浅いが足に傷をつけたキバが声を張り上げた。
獲物の好物の葉が茂らせている樹木に塞がれた道はおのずとその逃げ道が決まり、シカマルが一番高いと予想した場所へと蹄を響かせてくる獲物にナルトは乾いた唇を舌で舐める。
軽くナルトの2、3倍はありそうな身体だ。
四本の足で支える短く黒い毛の綺麗な皮に包まれた、丸々と太く大きな身体には首のすぐ後ろに大きく隆起する瘤と、そして何より面長い顔の額には左右に伸びた太く大きな角がある。
真正面からの攻撃は急所へは刺しにくく危険な事この上無い。
ナルトは小さく息を飲むとサスケとシノをちらっと見遣る。
目の前に翳した手からはみ出て見えるほど近づいてきている獲物との距離、そして頷いたサスケの顔にナルトは飛び出した。
自分の手や腕に合わせ、美しい細長い葉のようにしっかりと鋭く磨がれた石を正面から迫ってきている獲物へと投げつけるように繰り出した。
長い柄からがつんっと重い手応えが肘にまで伝わる。
がくんと上へと跳ねるように巨体があがり、前足が高く掲げられ、落ちた。
どん、と地面が叩かれ空気が揮える。
「や、ったぁ…!」
あと5、6歩もすれば衝突されるであったろうナルトは肩から力を抜き、歓喜の息を口から吐き出す。
元々獲物が出していたスピードもあり、ナルトの槍の柄の部分まで刺さっていて、この一撃で終わったかのように見えた。だが、一度は沈んだ獲物はすぐに立ち上がり生存本能に従って足を動かし、ナルトの小さな身体めがけて巨体を躍らせた。
「ナルト、避けろ!」
シカマルの焦った声が少し遠くで聞こえる。
一度抜いてしまった緊張を漲らせるまでに僅かな、ほんの僅かな時間があった。
それが狩りに於いて命を落とすには十分なものであると知り尽くしていたのに。
首を傾げ正面へと向けられた角が迫り、開かれた青い目、中心の瞳孔がきゅっと閉まる。
槍を身に刺されようとも、傷を付けられた足を持ち上げる巨体が視界の全てを埋めようとした時。
突如それはゆらぎ、横へと流れた。
大剣が首の根から生えて、巨体からナルトの視界にとって変わって入ってくる。そしてそのままそれを操る人物の姿へと。
真横から首の急所を確実に捕らえた大剣へ体重を乗せ、跳躍した力とともにずぶりと刺され、ついに獲物は掲げた蹄を敵に一振りしてその本能の動きを止めた。
重い身を横に倒して眠りについた獲物のには左から足の急所へ幾つもの投げ武器が刺さり、右からは首に大剣が深々と刺さっている。
シノがまず獲物の足を潰し、サスケが留めを刺したのだと分かり、ナルトはまた息を吐いた。
今度は安堵に満ちたものだが。
「このっ、ウスラトンカチ!!」
握られた拳が欠片の躊躇いも遠慮もなく金色の旋毛へと振り下ろされる。
「いっ!!!」
濁音がついたような声が大きくあがり、両手で頭を抱えてしゃがみこんだナルトにサスケは眉間に寄せた皺を取り除くことなく続けた。
「何でさっさと避けなかった!?最初からテメーは突っ込んだらすぐ横に退くはずだっただろうが…!」
「うるせーっ!倒したと思ったんだよ!」
波打ち響くようなあまりの痛みにしゃがんだままうっすらと涙を浮かべた水色の目で見上げ睨むが、サスケの強張り青ざめた顔にそれ以上の反論をナルトは思わず飲み込む。
「何にせよ、無事で良かった」
「ったく、ビックリさせんじゃねーよ!」
さわりと鈍い痛みが残る頭を撫でたシノが差し出した手と背中に感じた衝撃とキバの声に気を取られたナルトはそれ以上サスケと言葉を交わすことなく帰路についた。



家へと戻ったサスケは狩り装束から着替えもせずに寝床へと転がり、柔らかな毛皮を重ねた上に預けたのに背がずきりと痛みを訴える。
不意の痛みに起き上がり腕を背に回せば酷い熱を持ってきていた。恐らく場所から言って今日の狩りでの最後、獲物が最後に蹄を振り下ろしたのが当たった時のものだろう。
血は出ていないが、早く薬草を塗らなければもっと腫れと熱、そして痛みが広がると経験上知っているがサスケは寝転がった。
綱手から明日の祭の準備を免除されている面子の中に入っている上にもう陽も沈みかけていて問題がないといえばなのだが、ただ何もする気が起きないのが一番の理由だ。
あの時から結局ナルトと一言も交わさずに帰ってきてしまった。
もっと突っかかると思ったが何も言わず黙ったナルトの困ったような顔が閉じた目の奥で浮かび、それが小さな痼りとなって胸の奥につっかえる。
特に事を行う日が明日と迫っているから余計に。
明日の事を考え、酷く落ち着かなくなる。
ずっと、心に決めていた。
明日。
13となり、認められるその日にと。
そればかりが頭の中を渦巻いた。
諦める気などさらさらないが今すぐに叶えれらると考えるには少し無理があるだろう事ぐらいは分かっているが、微かな期待を抱いてもいいだろうと思うぐらいには近くに在ると信じている。
吐くため息もなくごろりと横を向いたサスケの背に突如ひやりと冷たい感触と声が降りてきた。
「っ!おまっ、コレすげー腫れてるじゃんか!何でなんもしてねーんだよ!?」
同じ男にしては少し高い、ずっと聞きなれている声を間違えるはずもなく、振り返った先にあったのは今、と言わずいつも浮かべている顔だ。
「このバカサスケっ、人にウスラトンカチとか言う前にテメーのがよっぽどウスラトンカチだっての!これ早く薬草あてねーと酷くなんだろ」
急に目の前にいる幼馴染にサスケの黒い目が僅かに見開かれ、間抜けと言うに相応しい顔で眉根を寄せているナルトを見つめた。
何故いるんだ、と問う間もなくナルトは立ち上がり勝手知ったる家の中から薬草と布を手にして戻ってくると無言で腫れた箇所にすり潰した薬草を塗った布を当て、上から布を巻いていく。
多少不格好ではあるがきつ過ぎずしっかりと巻かれていく布とするりと回る腕からサスケは目を離せず、何も言えぬままに追った。
「これでよし、っと。出来たってばよ」
「ああ…」
捲いていった布の終わりと出していた先を結んだナルトは膝をついていた態勢から胡坐をかいてサスケの正面へと座りなおす。
緩く曲げた両足を前に出し、間に手をついて座っている姿は幼い時と変わりがないようでいて変わっている。
布で覆われる狩りの装束と違い、着替えを済ませたナルトは葉一枚で勢い良く目の前に座るものだから多少なりともサスケは眼のやり場に困り視線を少し流した。
「人のコト、ウスラトンカチだなんだって言ってっけどサスケのがよっぽどウスラトンカチだっての。放っておいたらもっと腫れてるってばよ」
尖った声にサスケが視線を戻すとナルトは途端、むぅっと突き出されていた唇を解かれる。 「サスケ…ごめん。アリガト」
「はぁ?」
たった今サスケの不精を怒っていたと思えばいきなり謝って、礼を言う。
突飛さと意外性を発揮するのは昔からこいつの得意技だったと思い出しながら、サスケの声が裏返ったものになった。
「だからさ、その怪我、あの時オレを庇って出来たんだろ?オレがちゃんと決めてた通りにさっさと退いてればこんな怪我しなかっただろーし。ごめんな。それとまだありがとって言ってなかったなーって。庇ってくれたことじゃねーぞ!?そうじゃなくて心配してくれてサンキュってかさ。でもオレ、サスケが怪我すんのはヤだってば…だからあんなこともうすんな」
しゅんと耳があれば項垂れているのだろうと思えるくらいらしくもなく沈んだ声が叫ぶようになり、また沈む。本当に良く変わる表情が不安と怪我をさせた後悔と己に対する悔しさを滲ませながらもしっかりと見上げてくる空色の青につい見惚れる。
「嫌だ」
「なんでっ」
見惚れつつもきっぱりと否定を返したサスケにナルトの眦がつり上がったが、サスケはさも当たり前の事を告げるようにナルトにすれば勝手な言い分を口にした。
「しょうがねぇだろ。身体が動ちまうもんは。俺はお前が、一番大事な奴が怪我すんのも死に目に遭うのも嫌なんだよ」
「それはオレだって同じだっての!」
一番大事な相手が傷つくところなど誰が見たいものか、と訴えれば自然に返されたナルトの言葉にサスケは微かに息を飲んだ。
期待してはいけないと思う。きっとナルトは意識して言ったのではないだろうから。けれどどうにも気持ちの一部が浮いてしまう。
「…なら分かるだろうが」
「分かんねぇ!ともかくもうすんな!オレってばサスケに庇われるほど弱くねーし、もうイチニンマエなんだってば」 「どこがだよ。今朝だってまだ寝坊してやがったくせに」
「うううるせーっ!それなら、今朝のコト言うならサスケだってそーだろ!」
ガキと馬鹿にされていると単純に物事を受け取ってしまったナルトはついいつもの口喧嘩のような反論を持ち出した。
「俺が何だよ」
「人の着替え見てんじゃねぇ!コレ外したのを見ていいのは伴侶だけっての忘れやがっていつまでもお子様気分でいてんじゃねーってばよ」
「別に忘れてるわけねぇだろ」
自然顔が少し赤くなるのを抑えながらの言い返しにどこか怒ったようなサスケに薄い疑問が浮かぶが大きくはならずナルトの中でするりと流されてしまう。
「フザケてやってんならもっとタチ悪いっての。見られたら強制的に伴侶になんだぞ。こーゆーのってフザケたりとか強制とかで決めるもんじゃねぇじゃん」
赤らめた頬を膨らませ、一瞬は自惚れたくなるようなことを言うどこまでも鈍い相手の尖らせた唇にサスケの中で何かが切れた。
「ふげけてもねぇ。誰がふざけてでなんかそんな事するかよ」
一段、低い声が言葉を紡ぎ終わる前にぐいっと二の腕を掴まれたナルトは、力を入れていなかった身体をあっさりと引き寄せられ、怪我人とは思えない力を出す腕の中に収められる。
そうして気付いた時には近い、近すぎる距離にサスケの顔があった。
「んっ…」
柔らかい感触が唇を覆い、ぬるりと入ってきた熱にきゅっと反射的に目を閉じたナルトの口内がゆるやかに撫であげた。
ナルトの身体に震えが生まれ、じわりと広がる感覚は酷く甘いものだ。
もう一度啄ばんで離れた唇が、そっと驚きを湛えて開けられた青瞳に黒い双眸だけを映させて、もどかしさを感じ続けていた誤解を訂正する。
「……なっ、なっなななっ…!」
突然の行動と告白に、過ぎた衝撃を受けたナルトの頭も口もまともに動けず意味の無い音を羅列させた。
開かれた目の真ん中できゅっと絞られた青が驚きとたった今自分の中で生まれていた感覚の名残に混乱を湛えている。
それでもどういう事態が起こったのかはかろうじて理解出来ているせいか自然、頬に血が昇り、混乱と同じくらいの気恥ずかしさが込み上げてきてより訳が分からなくなったナルトのうっすらと開いたままの唇に違いの唾液で濡れた唇が押し当てられた。
一度はなれたそれはほんの少し冷えていて、その冷たさに気がはっきりと戻ったナルトは慌ててぴたりとくっつきそうになっていたほど近付いていたサスケの胸を押しやる。
「いっ、いきなりっ、ナニすんだ!」
最初に抵抗が無かった事で力を抜いていたサスケの身体はあっさりと後方へ飛ばされ、慌てて後ろ手をついたサスケは名残惜しさと幾分の不満を表した。
「嫌かよ?」
「そんなんっ…」
嫌に決まっている、と当然のように口にしようとしてふと自分の中にそんな嫌な、悪感情など無い事にナルトは気付いてしまった。
どくり、と速くなっていた脈がもう一拍、足を速める。
困ったと珍しく顰めた顔を赤くしているナルトにサスケの口元がふ、と緩くなった。
サスケの顔をどうにも見て居れなくなりナルトは視線を伏せて逸らすが、それを許さないようにサスケの声が強く響く。
「ナルト」
声と同じぐらいの力がナルトの身体に掛かり、背に長く柔らかく滑らかな毛皮の感触を感じた時には、俯いてサスケをよく見れて居なかったナルトはいとも容易く組み敷かれていた。
「自覚する前にこうして身体が動くんだからどうしうようもないだろ」
真上から覗き込んでくる黒い眼が降らせる声ほど落ち着いてはおらず、苦しそうなほどの熱を篭らせていて、ナルトは抗いの声も力もするりと抜け落ちてしまう。
力が入らない。
声が出ない。
今すぐ突然、血迷ったとしか思えない事を真実訴えてくる男を止めなければいけないのに。
緩く捕まれた手首が熱くて動かせないのだ。
「俺のものになれよ」
傲慢な台詞が乞う様にかけられた頭にじわりと染みていき、侵入していくる。
あまりに予想の範疇を超えた事に対して思考と身体は一時的な停止で、それを受け止める時間を作ろうとした。
「ナルト…」
だが跳ね除けもせず、抵抗一つしないナルトの様子は組み敷いた相手にとっては少々都合の良いものに見える。
こんな甘い声を出せるのかと、どこか遠くでその低い声を聞いたナルトは次いで普段あまり感じない場所で他者の熱を感じた。
青々と先まで伸びたまだみずみずしい葉に、ナルトの身を唯一隠す場所に指が掛けられている。
先に繋がっている紐へと長い指が伸び、それを解くために細い腰を辿っていくのが下ろした視線ははっきりと捕らえた。
それは身体の大事な場所を見る事ですら許されるのはたった一人で、それを今すぐに、強制的に決めさせようとする行為だ。
一端白紙にされた頭に送られる状況、それだけはしっかりと認識したナルトはサスケとの身体にある隙間にすっと足を上げる。
「っの、だからイキナリなにすんだっバカサスケー!!」
「っぐ…!」
至近距離とはいえ固い膝が油断していたサスケの腹部へと埋め込むように繰り出された。
重い痛みに力が抜け、崩れそうになるサスケの身体の下から抜け出す。
そのままただこの場から、何からとは明確に分からず、それすら意識に無く逃げるようにただ足を全力で動かした。



息が苦しい。
走る事は好きだし、得意だ。
今までどれだけ全速力で走ってもこんなに息苦しい事なんて一度としてなかったのに、今ナルトの喉はぜぇぜぇと掠れ、乱れた空気が行きかい、喉に重苦しい痛みさえ感じる。
家についてがくがくと笑いだした膝に負けそうになりながらも何とか寝床まで辿りつくとそのまま倒れこむように横になった。
長い毛並みに顔を埋め、細かく息を吸っては吐き出す事を繰り返しているうちに、あれほど治まりつかなった息と心臓の音が緩やかに休み出す。
ふぅぅっと長めの息を吐き出した所でやっと静かな呼吸をナルトは取り戻した。
時間にすればほんの僅かな間の事だったはずなのに酷く心臓に悪い状態に恐ろしく長い時間いたような気分だ。
過去一度もこれほどはないくらいの全力疾走をしたせいではない。
勿論それもあるがそうなった原因をつくった原因の責任が大きいというか兎に角サスケが悪い。
何よりもの元凶、つい先ほど無理矢理に葉を取ろうとした幼馴染であり親友の顔が頭に浮かんではナルトに腹立たしさが込み上げる。
いきなり、何をするんだ。
同意もなしに葉を取ろうとするなんてそれではまるでナルトの気持ちなどどうでもいいと言われているようで。
それでいてあんな声で人の名前を呼んで、あんな事をして。
思い出してまたかっと頬が熱くなる。
『嫌かよ?』
ふっと耳の側で囁かれたよう浮かび上がってきた声にナルトはぎゅっと拳を作った。
少しは心の準備くらいさせろと、こちらの気持ちをお構いなしにやろうとしたのはやはり腹が立つ。けれど少しだけ落ち着いた息や、呼吸が回った頭が認めてしまうナルトの気持ちというものは決して悪い感情ではない。
嫌では、ないのだ。
驚きはしたけれどあの時も今も嫌だとは思えない。
触れて奪うような熱も、求めて来る眼も、ナルトの意識を絡める声も。
気付かされた心のそんな部分を僅かに意識するだけで、ナルトはどうしようもない気恥ずかしさに襲われ、呑み込まれそうになり、がばりと寝転んでいた上半身が起き上がった。
今すぐまた走り出し、どこかに逃げたくなる。
また休みだした筈の心臓がびくんと跳ねて身体に血を巡らせてきた。
ナルトの気持ちを聞きながらも無視するような身勝手さを見せたのはサスケなのにどうして自分がこんな苦しい想いをしなければいけないのか。
こんなに身体中が熱くてしょうがないのも、胸がむずむずとおかしな感じになるのも、下腹のあたりが痛みのような疼きを訴えるのも。
何もかも全部サスケが悪い。
もう一度胸の中で毒づくがナルトの心臓はまだ落ち着きを取り戻す様子は無かった。



雪が溶け清涼な水が川に満ち、長い眠りから目覚めた瑞々しい芽が麗しい花々を迎え、生き物が動き出す。
豊饒たる実りをつけるために。
それを求めて動きだす多くの生物もまた目覚め、恩恵を与えてくれる。
全ての始まりである春に感謝を捧げる祭りが始まった。
そして守られるべき子供ではなく自らが里と大切な人を守る里の者始まる日として認められる成人の儀も含めて。
里長に認められた者たちがこの成人を向かえると幾つか許されることがある。
許可があれば里外へ単独でも行けたり、里への意見も聞きいれられるかは別だが発言は出来るようになったり。
そして伴侶を選ぶ事が出来るのもこの日からだ。
互いの心で決めているのではなく、正式に里で認められつがいになるのは成人の儀を向かえた者だけだ。
故にこの日に前々から思いを寄せていた者へ伴侶になって欲しいと申し込む者は以外と多かったりする。
今日の祭りのメインの一つでもある成人の儀の参加者の一人であるサスケもそうだ。
正確にはその心算だった。
伴侶を決めてしまえるようになるその日、一番近い日にナルトを伴侶として求めると里の掟を知った日から決めていたのだが、急いた結果逃げ出されるという失態を昨日犯した。
自分でも気付かぬうちにほんの僅かな切欠ですら我慢の堰を壊すほどに抑え続けてきた感情は溢れていたのだろう。
ずっとあいつを自分のものにしたいと、ナルトに唯一と誓える存在になりたいと思ったのは一年や二年などの若い感情ではないのだから。
そんなサスケに僅かでも期待を抱かせるような事を言い、まるで促すような問い詰めがナルトからあれば、溜まりに溜まった欲求を出す等如何ほどに簡単な事か。
してしまった過去はどうしようもなく、仕方ないと頭では理解するが逃げられたと言う事実が重い。
里全体はどことはなしに高揚し、それぞれがきちんと正装を施している。
女達は長い布を肩からゆったりと流し、ふっくらとした胸を隠す葉を控えめに彩り、腰に巻いた蓑にも白い羽や色鮮やかな羽などをそれぞれが美しく見せている。
男達も成人し、身体の成長も伴った者は腰に見事な自然の文様の入った毛皮を巻き、そうでないものは葉を纏うがそれでも額や腕などに布と飾りを施す。
木や結って繋げた美しい石や羽で身を飾っている里人の顔はどれも明るい中、サスケも黒く艶やかな毛が湛えられた毛皮を腰に巻き、細長い管のように細工された石を連ね、中央で美しい大きな黒曜石をあしらった飾りを胸に掛けてはいるがその顔は暗いままだ。
最も普段から愛想というものから掛け離れた顔ばかりしているサスケのそんな異変は多少なりとも親しい者で無ければ分からないだろうが。
「げっ…」
もうすぐ始まる成人の儀の為に集まった面々、同期の連中にはそれが一目で分かるぐらいにはあからさまに落ちこんでいた。
踏み潰されたように呻いたキバの声が見たものの心情を代表している。
「ちょ、ちょっとサクラ!何よ、あれ?なんでサスケ君、あんなに機嫌がわるいのよ?」
明るい色の藤を見つけ、耳元で飾ったいのはその花に似合わしい強い笑みを湛えていたのに一瞬で固まり、隣にいたサクラを振り返った。
「私だって知らないわよ。ちょっとシカマル!昨日サスケ君と行動してたのアンタ達でしょ?何かあったの?」
昨日サクラ達はこの祭りの為の舞や果物を集める為にサスケ達とは一度も会っていない。
一昨日まではさして変わった様子もなかったのだから昨日に何かあったのだと思うのは当然だが、サクラに振り返られたシカマルは渋面を作り首を横に降る。
「知らねぇ。ったくメンドクセーな」
「そ、そういえば、ナルト君、まだ来てないね。何か、あったのかな…」
ヒナタの言葉にそれだ、とまさに全員一致で心の中で頷いた。
「そもそもサスケ君にあれだけダメージを与えられるのってナルトぐらいよね」
いのがさらりと言い放つと、決められた自分の場所へと腰を下ろした。
もう既に周りに里の殆どの住民が集まっており、ここで里長である綱手に成人として認めると宣言を貰うのだから、一人暗い男がいるので近付きたくない、では許されない。
「そうね、ナルトも来ないはずはないだろうし。そうすればあとは二人で仲直りしてもらわないと。割りに合わないわ」 サクラも同意しながらいのの前、サスケから一つ空いた場所へと向かった。
「でも取り合えず儀式も始まっちゃうし、行かないといけないよね」
「おう。そりゃそーだ。赤丸!嫌ならあんま近寄んなくていいかんな」
「間に合ったー!」
愛犬の頭を撫でたキバはシノとヒナタと足を出した時、派手な声と闊達な足音が聞こえ、背後に強い衝撃を憶える。
「ナ、ナルトくん!良かった、ま、間にあったね」
「おう!ちょっと寝坊しちまったけどギリギリセーフだってばよ!」
ほっと嬉しそうに胸に手をあてたヒナタに青い石だけでなく葉を結ぶ糸だけでなくちゃんと腿に飾りや細めの布を腰に巻き、きちんと正装も済ませたナルトはくしゃりと笑った。
「っの、ナルトてめー痛ぇだろうが!」
どんっとまるで体当たりで勢いを殺すように止まったナルトの頭をキバ振り返ってすぐ遠慮なく拳で殴る。
「ってぇー!殴る事はねーだろ!だって止まんなかったんだもん、しょーがねーだろー」
両手で頭を抑え、口を尖らせた子供っぽい顔にキバも悪戯をする子供のような顔で笑う。
そしてすぐにニヤリ、と人の悪い笑みに変えて後ろを指差した。
「ま、許してやるぜ?アレを何とかしてくれたらな」
ナルトが来てすぐに視線を送ってきていた男へ向けられた指にナルトはさっと顔を赤くする。
てっきり嫌だと怒るか、意地を張るかのどちらかだと思っていたキバはナルトの反応に軽く驚いた。
「何とかって、サスケが怒ってんのってオレは悪くねーもの」
どうやらナルトにはサスケが怒っているように見えるらしい。
ナルトが来る前はあんな落ち込んでます、と言っているような暗い面をしていたが、確かに今ならそうも見える。
険しく、まるで射殺すような視線をこちら、というよりキバとヒナタに向けているサスケは怒っていると思われても仕方ないだろう。
事実気に食わない事への不満が盛大に表されていた。
だがそれは正しくはナルトに向けられているものではないのだが、その差に気付ける程ナルトの鈍さは軽いものではない。
「まぁ、ともかくお前の座る所はサスケの隣だろーが。何とかしろよ」
見ていて面白いから、という先の言葉は心の中でのみ言うと、キバはナルトの首をがっちり掴む。
「ちょ、キバ苦しいって!」
言いながらもキバとのこういったやり取りを楽しいと思っているナルトはキバに同じように胴を掴み返して、サスケの顔をより凶悪なものにさせていてた。
一人気付いたキバに少しやりすぎたかと冷や汗と反省を促すほどのものに。



「んー!すっげぇいい天気だってば」
里で最も高い場所である、岩の高台に登ったナルトは背を思う存分撓らせ、腕を伸ばした。
つい先まで味わった緊張による凝りを解すように。
成人の儀は漸くつい先ほど終わりを告げた。
全員の名を呼ばれ、神へと捧げる酒と男達が狩った獲物、そして女達の舞が披露され、そして綱手の「認める」という一言。
たったそれだけだったが、それでも直前の悪友とのフザけたやり取りや浮ついた空気など綱手が現れ儀式の始まりを告げた瞬間に消え、緊張と里を担う者になれたという誇りがナルトの中を満たし、十分だと思う。
堅苦しい行事はこれだけであとは今日一日、日が暮れても夜を通してのお祭り騒ぎだけである。
「晴れて良かったよなぁ」
里を一望できるこの場所からは祭りを思い思いに楽しむ人々の声や様子も風に乗って届き、ナルトはそれだけで自分も嬉しそうにふにゃりと顔を崩して振り返った。
向けた笑顔とは正反対の顔をしている男を。
里では各所で振舞われる酒や料理や舞、そして他の里から木の葉の里の物と交換しようと来ている者が並べている美しい石や飾りなども見れる。
祭りの主役でもあるナルト達はそれを存分に楽しむ事が出来るだろうが、ナルトは儀式が終わればすぐにそこから離れた。
何も言わず抜け出そうとしていたサスケを連れて。
ちょっと来いと言ったナルトに一瞬躊躇ったもののすぐに頷いたサスケは今日見た時からずっと眉間に皺を寄せたままだ。
こうして話掛けてもうんともすんとも言わぬサスケにナルトの血が沸点を容易に越える。
「あーもういつまで怒ってんだよ!?」
きっと眦が上がり、青い目がサスケを見据えて逸らすのを許さなければ、漸く口を開いた。
「…別に怒ってねぇ」
「どこが!ずっと口きかねーし、目も合わせねーし、怖い顔してるしそれのドコが怒ってねーっての!?」
事実決して怒っているわけではなく、だがそれを説明するのはせめて最後の自尊心を守りたいサスケには無理な事でまたしても沈黙で返した。
それをどう思ったのかナルトの声が幾分弱まりを見せる。
「オレってばぜってー謝んねーかんな?そりゃちょっと力入れすぎたとは思うけど蹴られるようなコトしたサスケが悪ィんだし」
「…分かってる」
まるで昨日の拒絶を再確認させられるような言葉にサスケの顔が自然と下へと向いた。
「だったら偉そうにいつまでも怒ってんじゃねぇ!」
ぱん、と両頬に強かな痛みが走る。
俯いたサスケの頬を挟むように引っ叩いたナルトの手がすぐ側にあった。
慌てて顔を上げたサスケに、口を一文字に結んだ顔が至近距離にある。
こうして、前と変わらぬ距離でサスケに触れてくる手と、見つめる事の出来る青い瞳にサスケは安堵の息を吐いた。
嫌われてはいないのだろう。
もう前のように近付くなと言われるかもしれないと危惧していただけにそれは自覚している以上に大きい安堵だった。
「悪かった」
するりと零れた珍しく素直な謝罪にナルトはきょとん、と一度青い瞳を丸めて、緩ませる。
「いーってばよ」
いつもの快活な笑みではなく、ふうわりと花が広がるような優しい笑みにサスケはくらりとする。
この笑顔を誰にも渡したくはないし、出来るのならばすぐにでも無理矢理にでも自分のものにしてしまいたい。
そんな欲求がまた擡げるが今は抑えるしかないのだと必死に言い聞かせた。
そんなサスケの葛藤など露ほども知らぬナルトは両手を離すと、思い付いたように突然頬を赤くし、2、3歩後ずさる。
突然の変化に気付かぬはずもなく、訝しげに思うがサスケが疑問を口にする前にナルトの口が躊躇いを滲ませて開かれた。
「あ、あのさ、そんでいっこ聞きてーコトがあんだけどさ、その、昨日のコトなんだけど……その…」
常に自分の意志というものをしっかりと見極め、即決が多いナルトらしくない歯切れの悪さにサスケの疑問がより大きくなる。
「昨日の、その……ちゅー…だけど、何でしたんだってば?」
声も出ない状況というものをサスケは生まれて初めて強く実感した。
直前まで浮かんでいた疑問など瞬時に消え、代わりに何で分からないんだ、という最早鈍いなどというものを越えたナルトの思考回路への疑問に取って変わられる。
「だから、なんでいきなりあんな、ちゅ、ちゅーしたかって聞いてんだろ!」
口にするだけでも恥ずかしいのか、先よりももっと朱を散らせた目元で睨んでくるナルトに、したくなるような顔をしてるからだろ、という言葉と欲求が頭の隅で浮かんだ。
出す事は当然出来ないので頭の中だけに留めるが。
はぁっと盛大な溜め息が吐き出される。
どうすればあんなにはっきり行動し、言った事に気付かずにおれるのか。
というか今までの自分の苦労はなんだったのだろうか。
そして告白をしてフラれたと思い、受けたあの落ち込みは。
そんな事を思いつつも、最早感動に近い鈍さを披露してくれた相手にサスケは腹を括った。
「ナニ溜め息ついてんだよ、感じわりぃっ」
「好きだからだろ」
じっと凝視され、心底疲れたというように吐き出された溜め息にむっとしたナルトの言葉は途中で遮られた。
ナルトの息を止めるような言葉で。
じわじわと、まるで身体中の血が顔に集まってきたように顔をこれ以上ないくらいに真っ赤にさせたナルトは飲み込んだ息を暫くしてやっと吐き出す。
「で、でもオレ男だしっ」
「関係ないだろ、そんなの。俺はお前が好きで、欲しいんだよ。大体好きでもねぇやつに誰があんな事、自分のものにしたいなんて思うか」
じっと今度はサスケが瞳を逸らすことを許さないようにじっとナルトの瞳を見つめ、近付いてくる。
「俺の伴侶になってくれ、ナルト」
サスケの大きな手がナルトの頬を包み、触れる寸前まで寄せられた唇が今度は疑問など欠片も入れさせぬ言葉で求めた。
漆黒の双眸が真摯に渇望してくるのが二つの蒼眼に伝わり、映してくる。
「どんな時にも共に在り、共に生きたい。唯一無二の存在として隣に在りたい」
ほんの少しの間を置いて触れそうな唇が最後通告のように開かれた。
「……嫌ならはっきりそう言え」
嫌では、ない。
それはもう分かっている。
昨日腹を立てたのはサスケがこちらの、ナルトの気持ちを無視するような行動に関してだけで求められた事ではない。
昨夜一晩、寝不足になるくらい散々訳の分からない感情に苦しめられたけれど結局それはサスケへの気持ちを一気に自覚してしまい、それを受け止められずにいたからだと今なら分かる。
好きだと言われて、サスケのいきなりあんな事をした理由が好きだからだと聞かされ、ナルトの心はそれを嬉しいと思ってしまっているのだから。
ずっと共に居たいかと問われれば、悔しいがそれも。
むしろそう在る存在が他の誰かでは思いつかない。
それほどに大きく、今まで意識する事も無いほどにナルトの胸の裡に存在していた。
自覚してしまったナルトには嫌だとは、この誓いを拒む事など出来るはずもなく。
僅かな隙間しかない唇の間に互いの熱が放たれ、伝った頃にナルトは声を絞り出せた。
「嫌じゃない…オレも、オレもサスケとずっと一緒に居たいってば…!」
すぐに吐息ごと奪うような荒々しい口付けが逃さないように奪っていったが。



里を見下ろす高台は、里を一望出来るその切り立った崖の後ろには深い森がすぐに広がっている。
一番近い大木に背を押し付けられたナルトは弱々しく幹へと爪を立てた。
「…っ!…あっ…やっ、も、」
力が抜けて今にも崩れそうになる脚を伝って流れていく白い先走りを擦り込むように撫でながら、すっかり勃ちあがったナルトを舌で唆すのをサスケは止めない。
未だに下肢を隠している葉も取らず、最終的な刺激を与えられずナルトはもどかしさに腰を揺らしてしまう。
「ナルト、お前さっさと葉っぱから卒業したいって言ってたよな?でももうちょっとこのままでいろよ」
普段ある健康的で快活な姿からは遠い、滴るような色香を纏って誘う肢体を見せるナルトにサスケは口の端を上げた。
「な、なんっ…ああっ、ん……」
突然何を言い出すのだと困惑を浮かべたナルトだが、口ではなく、裏側から掌で包んで上下へと扱かれ腰がぴくりと跳ね、まともに聞けない。
それでも意味は伝わったらしいサスケは口元に笑みを刻んだまま答える。
「こっちの方が色々と見えていい。着けててもこんな風にしたら全部丸見えだよな、やらしい」
目の保養、と喉の奥で笑ったサスケにナルトは羞恥が込み上げた。
「そん、なんっ、サスケが…あっ、ヘンな、こ、とする…から!」
「変な事じゃねぇだろうが。伴侶が契るのは当たり前だろ」
立ち上がり、軽くナルトの唇を啄ばめばすぐに薄く開かれ、サスケの舌を入らせる。
すぐに食むように深くされる口付けにナルトは息苦しさから頭がくらくらとなり、サスケの背に爪を立てたが許しては貰えない。
舌が絡め取られてざらりと擦り合わせさり、上顎の過敏な部分を撫で上げられればナルトの背は細かい波のような震えが走る。
開いて蜜を滴らせていた敏感な割れ目をぐりっと指の腹を立てるように弄られ、どくりと達してしまった。
「んんっー!……はっあ…はっ、はぁっ…」
漸く唇が開放され、キスから瞑っていた目を開ければ、まだ高い日が眩しさと上手く出来なかった呼吸から目の前が少し白く霞んでいる。
だが、すぐに下肢伸ばされた大きい感覚がナルトの潤んだ瞳を見開かせ、明瞭にさせた。
放った蜜を受け止めた指が支えるようにサスケが脚を割り込ませたナルトの両足の間の奥へと這入ってくる。
一度も何かを受け入れるなどしたことのない場所が感知した違和感に身体がすぐに強張るが、宥めるように顔じゅうに降らせて来る優しい触れるだけの口付けにふっと息を吐いた。
「ひっ、あ…あっ、ん…」
僅かに力が抜けたナルトは赤く色づいた胸の突起をもう一方の手がきゅと摘み捏ねるように嬲りだされ、灯しなおされた快楽の火が身体を焼かれていき、意識が持っていかれた内に最初の指が蕾の中へと押し入った。
「いっ…!ああっ…っ…!」
すぐに動き出し、みっちりと隙間ない肉を押し広げるように擦られ、異物に対する違和感と下腹から湧き上がる息苦しさにナルトは呻く。
だが異物感は拭えないが何度も抜き差しされ、粘液を纏った指が卑猥な音を立てて滑らかに動くにはそう時間も掛からず、もう一本、二本と次々と指を増やされた。
「…やっ、ああっ……くる、しっ…」
ばらばらに動き、掻き回すような指達に先よりもずっと強い痛みと圧迫感が襲い無意識に首を振って、苦しげな涙を浮かべたナルトにサスケは慌ててすっかりと萎縮してしまっていたナルト自身へと指を絡める。
樹液で張りつかせた葉を退け、筒状にした手で全体を擦り上げ、弱い括れを念入りに揉みしだくとナルトの声音に艶やかな甘さがまた滲み出した。
「あっ…ああっ、…んっ……」
芯を持ち、上を向く頃になってから埋めた指をゆっくりと動かし、探るように襞の一枚一枚を押して、擦り上げていく。 そうして出入りさせていた数本の指の一つが当たりを見つけたのは後庭の口と蕾の奥を広げて大きさに慣れさせた頃だった。
「っああ!やぁっ、あっ、あっ!」
びりびりと強烈な痺れのような快感が齎され、ほんの少し指が掠っただけなのに、ナルトは一際高い声で啼いた。
きゅっと肉襞がそこから離れるのを許さないように締めてくる。
「ここ、か…?」
柔らかな肉の下にあるこり、固いと痼りのようなそれを中の指全てで強く、弱く擦り上げれば、サスケの声も耳に入らずナルトはびくびくと肩まで揺らして嬌声を上げた。
擦る手を止められたのに前からは白い蜜が長い首を伝ってまた新しく濡らしていく。
「んんっ!あぁっ…っ!」
初めは排除しようとしいたサスケの指に肉襞が撓んで収縮をしだしたそれを促すようにたっぷりと弄ってからサスケは指を全て引き抜いた。
出ていく指にまた戻る感覚を知らず期待しいたナルトは急な喪失に、あれほど感じた違和感が無くなった安堵よりも物足りなさを憶えてしまう。
「サ、スケ…」
とろりと透明な熱で瞳の青を潤ませ名を呼んだナルトの唇と軽く啄ばむと、サスケは身体を反転させて木の幹に両手を突かせた。
回した腕でぐっと腰を引き、突き出すような形を取らせると毛皮の腰巻を捲り上げる。
突然背を向けさせられ、顔が見えない心許なさから振り返ったナルトにすっかり怒張し赤黒いサスケのものが目に入る。
張り詰め大きさを持ったそれがサスケの両手で左右に広げられ、露わにされた蕾へと当てられ、それだけでナルトの身体がぶるっと震えた。
「ナルト」
熱が篭った声が耳の裏側から吐息と混ざって聞こえる。
低い響きの良い声が耳から腰へとその熱ごと落ちて行き、ナルトはきゅっと目を瞑った。
「あっ、あ、あ、あーーーーッ……」
こくり、と小さく頷くと先の頭がしどけなく緩んだ口へと入り、そのまま残りの肉が重苦しく、それでも塗りたくられたナルトの蜜の滑りと借りてずっ、ずっ、と一気に身を進めた。
指よりももっと大きく埋め尽くしてくるどくどくと生々しい熱を持って脈打つ楔に内壁がぎゅっと固まり、ナルトは息すら吐けない重い痛みに目を見開く。
ぽろぽろと涙が溢れ、開いた口からは掠れた息が弱々しく吐かれた。
「ナルト、息、しろ…っ」
どうにか全てを埋め込む事は出来たがきつ過ぎる締め付けにサスケも動けないでいる。
「吸って、吐くんだ」
後ろから抱き締め、腹を撫でて息を吸えというがナルトは涙を流しつづけた目を動かすことなく頭を振るばかりだ。
それでも逃れようとも、拒絶もせず必死に受け止めようとするナルトにサスケは堪らなく愛おしくなる。
けれど決して辛い思いをさせたいわけではない。苦しませるのを耐えさせるのではなく、心底気持ちよくさせたい。
サスケは再び萎えそうなナルト自身やの先端の割れ目や双果の裏筋に少し荒い刺激を与えた。
「あっ、ああっ!」
上下に擦られ、弱い箇所を指でつくった輪で締めるように弄られ、痛みと苦しさばかりの感覚の中にまた呼び戻された快楽がサスケを迎え入れ縮こまっていた蕾をもじんと疼かせ始める。
強張りが解けてきたのを感じたサスケはゆるりと動きだした。
浅い所まで引き抜くとナルトが大きく反応した箇所を先の固い部分で擦り上げる。
「ああっ、あっ、あっ、あっ、あっ、ああっ、」
指の先まで快感が走り抜け、痛みと意識を浸蝕していく。
快楽に絆された肉壁がゆるゆると蕩けだし、おもねる様にサスケへと絡みつき、締め付けた。
より大きくなったのが感覚が敏感になっているナルトには分かり今更ながらに居た堪れないような恥ずかしさを感じる。
それでもそんな事などすぐに片隅へと追いやってしまう快楽の波がナルトを攫っていく。
微かに残る痛みと過ぎる快楽が齎す不安に目を閉じてやりすごそうとしたナルトの律動を繰り返す男に揺られ弱々しく突いた手に、不意に温もりが重ねられた。
サスケの大きな手がナルトの手を覆い指を絡めて握りこむ。
痛みすら感じるほどに繋げられた手に胸もぎゅうと握られたかのように堪らない感情が込み上げてくる。
泣きたくなるような、それでいて酷く甘い。
濡れた卑猥な音を激しく立てて深く挿抽しだしたサスケもナルトももう限界が近かった。
「ナルト…好きだ」
「あっ、あっ、サス、ケェ…」
掠れた声に好きだ、ともう一度繰り返され、身体も心もどろどろに溶けてしまうかと思う。
「…ッ!ナルトッ!
意識無く強く締め付けたナルトに一際大きく穿ったサスケが熱を開放するのと、腰から背中に駆け抜けたぞくぞくっとした快感に追い上げられたナルトが再び白蜜を吐き出すのはほぼ同時だった。



沈みゆく陽が今日最後の熱というように、朱色に空を染めていくのをナルトはぼんやりと眺めていた。
高台から望む夕焼けは座っていてもよく見えるな、などと思いながら。
後ろにはナルトをしっかりと抱えるように座ったサスケが木の幹へと背を預けて同じ夕日を眺めている。
「綺麗だってばー」
本当は手を翳して全てを照らすその圧倒的な姿に別れを贈りたいがだるくてとてもではないが上げられない。
のんびりと出した先の声も酷く掠れて、思ったよりもずっと小さい声だった。
そうなった原因に文句の一つでもやろうかと振り返ったナルトはそのまま見上げた顔を長い指に持ち上げられ、開くはずだった口を口付けで閉ざしたままにされる。
かぁぁっと未だ慣れず空よりも赤く染まったナルトの手を取ると、真っ直ぐに黒い、真剣な光を湛えた眼がナルトの全身を縛った。
「誓う。この太陽が必ずまた昇るのと同じように、この肉体が滅び、大地に還ろうともお前という太陽と共にこの心は共にある事を」
低い声が全てを捧げると誓いを紡ぎ、取っていた手の甲に触れたばかりの唇を押し当てる。
「……キザやろー」
掠れた声でそれだけ呟いたナルトはすぐに前へと顔を戻したが、夕日よりも熱くなった耳が見えたサスケは小さく喉を震わせた。





















(終)


かすみ様、すみませんでした…!
ええっとこれは素敵サスナルサイト『空頃』のかすみ倫太様が作られた葉っぱとコテカの世界、パラレル設定を元とさせているのですが…すみません、その魅力はおろか、勝手に設定が変わっていたりしております;(土下座)
成人の儀やら何やら色々と捏造もいいところでして;;狩りの衣装とかも勝手に作ってしまっております;;
そして何よりコテカ出てねぇぇええええ!!!
サスケは本来コテカなのですが、以前占いの開運下着の「毛皮の腹巻」から「毛皮×葉っぱ」妄想して書き始めていたものでして;;
つい、ついうっかりー!
すみません;(土下座)こ、こんな偽物100%ですがかすみ様、捧げさせて下さい。(殴)
そして恒例補足説明(最悪)なんですが、狩りに行かない普段の日常ではサスケはコテカ、と思って頂ければ嬉しいです。
狩りの時にナルト達が狩ったのはオーロックスという牛の祖先のようなもので、180万年前から生息し、1627年に絶滅しております。
180万年前から人間に狩られ、食べられていたようで、大体今回書かせて頂いたお話もそれくらいの時代設定を勝手にさせて頂きました><;
180万年よりはもう少し後ぐらい、とか勝手妄想しちゃいまして;
しかもタイトル、サンライズとなってるくせに夕日だし;でも意味的には(沈んでもまた必ず昇る)暁の太陽に誓う婚約、というような感じで付けております;;説明が必要な物を毎度申し訳ありません;;
かすみ様、このような勝手な駄文妄想を本当に申し訳ありませんでした…;本当にすみません;;
皆様、かすみ様の同人誌で葉っぱとコテカの素晴らしさを、萌えを味わって下さい!
遅刻の上にこんなんで本当に申訳ありませんでした。
このようなものですが読んで下さって本当に本当にありがとうございますー!


'06/3/15