埋め合わせ









一日の任務を終え、シャワーで汚れも落とし、ふかふか、とは言わないがきちんと時々干している布団に潜り込む瞬間は至福だ。
同期達から遅れていた中忍にめでたく昇進した分、任務をこなす量と質ともに上がった毎日を送っている身には特に。
ナルトはボロアパートと散々言われているが、それでも住み慣れたこの小さい部屋達を思うと心が座れるような気持ちになる大事な我が家で今からその至福を味わおうとしていた。
する、筈だった。
「………帰れ」
布団を捲る前から一目で分かる不自然な盛り上がりに告げたナルトの声は重く沈んでいる。
こちらに背を向けていて顔は見えないが特徴ある黒い髪の髪型。
振り向かずとも、例えそれが見えなくとも今更確認の必要など無く分かる。
こんな事をする人物の心当たりなどたった一人しかいない。
というかいて欲しくない。
「サスケッ!テメェまた勝手に人ン家に上がりこんで寝てんじゃねぇ!!」
帰れと言ったにも関わらず欠片もその様子を見せない盛り上がりにひくり、と引き攣らせた頬と口を大きく動かして怒鳴ったナルトは勢い良く、本来なら自分がその心地良さを堪能する予定だった布団を剥ぎ取った。
「ドベ、何しやがる。折角暖めてやってたのに熱が逃げちまったじゃねぇか」
漸く動いた盛り上がり――サスケはナルトを振り返ると眉間に皺を溜めて非難を口にするものだから、ナルトの怒りはいとも容易く我慢という言葉を破壊する。
「何しやがる、はこっちのセリフだってば!いつもいつもいつもいつもい、つ、も!!!言ってるだろ!勝手に人ん家のベッドで寝てんじゃねー!!」
時刻は日付を越え、かなりいい時間だという事も忘れ大きく張られたナルトの声は僅か1メートル足らずの距離にいるサスケに聞かせるには十分すぎる音量だ。
その声に含まれる感情の強さと種類が何か、血が昇りうっすらと濃くなった目の蒼と顔を染めた赤だけでも一般的な感性を持つものなら分かりそうなものなのだが聞いた男はその一般には入らなかったのがナルトの不幸と言える。
「ベッドで寝なくてどこで寝るって言うんだ。敷布団はねーだろ」
不機嫌そうに身を起こし、記憶を探るように少し遠くを見たサスケはすぐにナルトに向かって溜め息を吐いた。
このウスラトンカチが、と下忍の頃から頂戴している有り難く無い愛称を呟く声が聞こえてきそうな仕草にナルトはまたしても後から喉がぴりりと痛みを訴えるほど声帯を酷使する。
「そのベッドで寝るのはオレでテメーは帰って寝やがれ!」
玄関へと差す指は真っ直ぐに伸びてサスケを促すが、未だ寝床を占領している男はその指には視線を向けるが、指の先にはちらとも見ずに伸ばされた腕の手首を掴んで引き寄せた。
帰る気配が欠片も無かったサスケが僅かに動きを見せた事で一瞬やっと追い出せると思い込み、ほっと力を抜いてしまったナルトはいとも簡単にサスケの腕の中、ずっと所有権を主張しているベッドの上へと引き摺られてしまう。
「帰ってるからここで寝るんだろうが」
ここ、と言いながらナルトを抱えた腕にサスケは力を込めた。
「や、ここお前ん家じゃねぇから。てかは・な・せ…!」
向かい合う形でがっちりと抱き締めてくる腕から逃れようとナルトは力づくで除けようとするが、持って生まれた体格差か、単純な力の押し合いでサスケに勝つのは中々難しい。
「これからは側にいるっつたろーが。それなのに三日も掛かる単独任務受けやがって。約束守らせろよ」
「別にサスケと24時間一緒に居るって意味じゃねーし、ソレ。だからオレの寝床とるなっての」
抱き込まれサスケの口元に自然近くなった耳朶に流し込まれた声に切り替えしながらも、頑として抵抗を続けてふるふると筋肉が細かく震えていたほどに込められていた腕の力が少し抜けてしまう。
どうあれこの約束、里に戻ると決めた時の気持ちを持ち出されればナルトが弱い事を踏まえてのサスケの言だ。
「フッ、照れんなよ。もう二度と寂し想いなんてさせねぇって誓ったからな。オレは言った事は守る男だ」
「照れてねぇ!」
「それよりもそろそろ寝るぞ」
いっそ見事なくらい会話が成立しない。
呆れが怒りを上回っていくナルトを抱え込んだままサスケは横になると、器用に捲られた布団を足で蹴り上げて、しっかりと二人の身体に被せた。
「人の話を聞けって……あーもういいってば」
ぽんぽん、と布団の上から子供をあやすように優しく叩かれ、布団の温もりとすぐ側の体温に否応なしに心地良さを感じてしまったナルトははぁ、とこれ以上自分の希望と正当性を主張する事を諦める。
もういい。
このまま寝れるなら多少の狭さにも目を瞑ってやる。
ナルトがそう自分を納得させ、文字通り目を瞑った矢先だった。
「………サスケ」
「何だ?」
「この手はなんだってば?」
ナルトの手にはナルトの背から解かれたばかりのサスケの手がある。
ナルトのパジャマを捲りあげ、腹を撫でた手が。
そして開けた目の前にはいつのまにか横ではなく、上から圧し掛かっている男の顔がすぐ側にあった。
「何って決まってるだろ。何度も言ってんじゃねぇか。側に居て寂しい想いなんざさせねぇって。安心しろよ。ちゃんと心だけじゃなく身体の方も満足させてやるから」
にやりと、それだけならばきっと価値があると密かに思っている端正な顔が浮かべた笑みは雄の匂いを漂わせたもので、何も知らぬ女の子が見たのならば間違いなく胸を高鳴らせただろう。
状況によればナルトとて。
だが少なくとも今では無かった。
胸の飾りへと掴まれていないもう一方の手がつい先ほど壊れて新調したばかりのナルトの堪忍袋の緒を盛大に引き千切る。
「いい加減にしろ…」
すっとサスケの手から離れて翳した右手にはすっかりと手際よく発動出来るようになった螺旋丸の青いチャクラが渦を巻いている。
童顔と言われる原因の一つ、くるりとしていたのが半分に縮められ座っている目は本気だ。
後日。
うずまき家の壁に大穴が空いた為一時的という条件の下、うちは家に引っ越す渋面のナルトと嬉々として荷物を運ぶサスケの姿が同期の面々に目撃された。





















(終)


実は大穴空けたけど結局その夜喰われたそうですよ、ナルトさん。
サスケさんは部屋の穴などナルトさんを喰う事の前には些事だそうです。
伯爵様に捧げたいと思います…!
こ、こんなんで申し訳ありませんー!!!
素敵ほろ酔いナルトさんとこれで交換だなんて…えっらい詐欺を働いてしまった;




某様絵茶にお邪魔して、お相手してもらった伯爵様にほろ酔いナルトさんを強奪したいがために押し付けた詐欺物で、す(土下座)
ちょ、本当にいつもいつもすみませっ…!
でも見たかったんだ、ほろ酔いナルトさん!(欲望に忠実)
いつもながらの駄文、読んでくださってありがとうございます…!


'06/5/2

'07/7/6