馥郁なる音色が静まり冴え渡った冬の夜空に響く。
ごぉぉぉぉん、と長く空気とともに銅の鐘が最後、一度細かく震えるように揺れた。
それを耳にした者に与えるはずの恩恵を染みこませる事なく。









誰がために鐘は鳴る










普段、意識をすることもなく繰り返される呼吸が白く視覚化され、冷えた空気を肺に取り込み、吐き出している事を妙に確りと認識する。
纏う空気の清浄さも。
前日まで任務漬けの毎日だったが、首尾よく一日で大掃除も新年のおせち作りも終え、熱い湯で綺麗さっぱりとしたうずまきナルトとうちはサスケは人のまばらな神社の境内に居た。
年越しがもう十数分で済もうかと言うのに随分と人が少ないのは、恐らくここからそう遠くない場所にある火の寺の存在が大きく影響しているのだろう。
忍里、それも忍五大国の一角を担う木の葉の里を有する火の国中でも忍僧の強さからその名が知れ渡っている火の寺が除夜の鐘をついている。
忍が住民の中でも高い割合を占め、任務の為、生きて戻る為と理由は個々の差あれ日々強くなるよう望んでいる者が多い木の葉隠れの里の住人が、どちらに多く人が流れるかは自然と決まり、強くなる事に対し、決してあやかりでは望まないナルトとサスケがこの小さくも千年以上は続いてるらしいこの神社にいるのも、特に話し合う事なく決まっていた。
洗われでもしたのか、玉砂利を踏む音にきゅ、きゅと新雪に跡をつけた時のような音が交じるのが楽しいらしく、ナルトは少し足を速め、サスケの二、三歩先を少し跳ねるように歩いている。
ふわふわと揺れるクセ毛が夜闇をほんのりと払う灯篭の火を纏わせてきらりきらりと光を躍らせるのを、サスケは後ろから少し眩しく想いながらも目を逸らせずに見つめた。
髪が上下へと揺れて時折寒さから赤く色づいた耳を覗かせると、引き締まった気持ちで新年を迎えようとしているこの場には相応しくない欲求が込み上げてくる。
熱いだろうか、それとも見た目の赤に反して冷気に晒された耳朶は冷たいか。
歯で噛み、舌でなぞりその温度を確かめたい。
「よ、っと!」
ナルトが軽やかに声を掛け、石畳の舗装された道へと飛んで着地したのを合図のように、夜空に青銅の大きな鐘が身を震わせた音色が響く。
サスケの両眼に熱が灯り、篭りだそうかとしたのを遮るように上がった音と声に疚しさを含む考えが掻き消された。
先ほどから遠巻きに聞こえていた重厚な音は、大晦日に一〇八回で人の煩悩を落とすと言われている鐘の音だ。
近いとはいえ多少なりと距離があるのでそれほど明瞭というわけではないが、それでも忍の、人の話し声や微かな物音を拾う事を重要とし訓練してきた忍の耳には十分に届く。
その清冽さを感じる音が。
成程。確かに清めの音色だ、とサスケは小さく喉の奥で笑う。
寸前まで立ち昇り、あと瞬き一つ分でも遅ければガキくさい掛け声をあげたナルトに伸びていた腕に絡んでいた欲を溶かされた。
今はもう後ろから見る、着地のバランスを取っている自分よりも細い腕を強引に引き寄せるのではなく、手袋をしていない手や夜風に色づいた耳をただ温めたいと思うだけだ。
意外にも効果のほどがあるものだ、とすっかりと穏やかな温かさに落ち着いた熱に小さく苦笑めいた息を吐いたサスケを、数歩前にいる金色の頭が何の前振りもなく振り返った。
「なーサスケー、早くいこーぜ。そんでさ、おみくじで勝負しよーってば!」
へへっ、と笑って見せたのは本当にガキくさい、血生臭い任務も随分と増えそれを通った身だというのに、先の鐘の音よりも澄んでいる笑顔に言い様のない何かが込みあがる。
どうあっても、どれ程のものを呑み込み受け入れようとも、濁る事がない。
何があろうとも己というものを失わないこの手だから、今自分は掴めるのだと、隣に立ったサスケはぼんやりとした闇に浮かぶ白い手を握る。
指先は血が巡り赤みを帯びている手は想像していたよりも温かく、けれどだからこそ低い空気の寒さを感じているようだった。
「おみくじに勝負もなんもあるかよ。ただの運だろうが」
「だから運勝負。運も実力のうちって言うだろ」
「運だけならテメーのが有利じゃねぇか」
軽口を返しながら力を込めて手を引き、先ほどまでサスケの手だけが入っていたコートのポケットに、二人分の掌を押し込める。
ナルトの桁外れの勝負運の強さを知るサスケが嘆息しながら引いた手に包まれる温かさを貰い、ナルトは手だけではなく頬まで発する熱が上がった。
「負けるからって逃げんのかよ、サスケちゃん」
頬の熱さを振り払うように悪戯を仕掛ける小僧のように楽しそうに挑発する、勝負好きな眼に同じように負けず嫌いの性格を持つ黒い双眸がガキくささを楽しみながら応える。
「…後で吠え面かくなよ?」
「それはこっちの台詞だっての!んじゃさっさと行こーぜ!」
サスケの返事に口の両端を上げたナルトは、次には前を向きサスケの手を繋いだまま引っ張る。
同時にコートのポケットの中の手がぎゅ、と隙間無く近くなった。
「手、アリガト」
ぽつり、と零れたそれはサスケの鼓膜をようよう掠めるほどの小ささなのに、寒さだけでない理由で耳まで朱に染めた顔とで強烈にサスケの熱を再び呼び起こすように、誘う。
「本当に、後で覚えてろよ」
掠れたサスケの声は、静まり冴え渡った冬の夜空に響いた馥郁なる音色に掻き消される。
ごぉぉぉぉん、と長く空気とともに銅の鐘が最後、一度細かく震えるように揺れた。
一際大きく届いたそれは恐らく最後の、一〇八回目の禊なのだろう。
だがそんなものに最早効果などなく、サスケは朱色の肌の全てを指で、舌で暴きたい欲が募る。
耳にした者に与えるはずの恩恵を染みこませる事なく響き終えた鐘音の余韻の下、小さな篭った空間の中でサスケは傷の残らない掌の柔らかな肉としなやかに伸びる指を擽るようにもう一度重ね合わせた。
初詣から帰った部屋で行う勝手な予定を密かに胸に描きつつ。





















(終)


やまなしおちなしいみなし、内容まったくなしの駄文で本当にすみません;;
当初ギャグのつもりで、なりきれずどうしようもないヘタレ駄文ですみませんすみませんすみません(エンドレス)
除夜の鐘を聞いても煩悩落ちるどころかむしろ募らせるナルト限定万年煩悩まみれなサスケさんを目指して色々と玉砕で;;
この後、おみくじ勝負で写輪眼まで使って何度も振りなおしして無事大吉を出して引き分けまで持って行ったサスケさんは、次の射的勝負で見事勝ちを収めて美味しく勝利の品をたっぷりがっつり頂けたそうです。そんでもって元旦からシカトの洗礼を受けるのもお約束です。
そして上忍で19歳、サスケが里に戻って数年経っているという二人です。きちんと中で書けず、申し訳ありませんでした。
新年早々、こんなアホ駄文で本当にすみません;もっと精進努力していきたいと思います。
こんなんですが、読んで下さってありがとうございました!


'07/1/5