手の上ならば尊敬のキス
    額の上ならば友情のキス
    頬の上ならば厚意のキス
    唇の上ならば愛情のキス
    瞼の上ならば憧憬のキス
    掌の上ならば懇願のキス
    腕と首ならば欲望のキス
    それ以外は狂気の沙汰

『フランツ・グリルパルツァー 著』





頬の上にするキスは厚意のキスと言ったのは誰だったか。
馬鹿くせぇ、と腹の底で湧き上がった熱とともにサスケは笑った。
どこであろうとこいつに向けるのがそんなもので治まるはずがないのだと。









接吻










硬い岩と重い土が囲む窖には人気というものが今や殆どない。
いや、全くないと言っても差支えが無かった。
時間感覚などとっくに狂わされ、長くなくも気の遠くなるものに暫定的な終息を迎えたこの場には今や三つの人影しかない。
黒と金が薄暗い闇の僅かな導として灯されていた蝋燭の不確かな明かりに燻し出される。
「…掴まえた」
すっと蝋燭が生む陰影のゆらめきのように身を滑らせた黒い影に左の手首を捕まれ引き寄せられた金色の頭が逃れようと反対へと身を捩るが。
「逃げンのかよ」
同じ、それこそ全くの同一の姿形、のみならず中身を持った者がそれを阻んだ。
「サスケッ…!」
小さい悲鳴のような声で名を呼ばれた二人の男は、全く同じタイミングで同じ笑みを浮かべる。
抗議を含んだようなその声で逆に触発されたようにしなやかで無駄なく成長した身体で両肩を押さえ込んだ男の手が、僅かな逡巡もなくナルトの喉元まで覆い、白い肌を守っている服を開いて行った。
ジィィィ、っとジッパーが降りる音とひやりとした冷たさを纏いながら侵入した外気を感じてからナルトはその手に気付く。
「や、やめろ、なに考えてんだって…!」
何を考えての行動かは分かっているがそれを今認められない。
そのはずで、ナルトは腕を突っぱねようとするがジッパーを下ろし終えた左のサスケの手がしっかりと捉えて邪魔をした。
同時に右のサスケが背中から腰へと腕を回し、よりナルトの動きを封じる。
肩から抱くようにして、二人のサスケはナルトの肩に、そして頬に手を添えた。
ずっと優しいてつきに、そして近くなった顔にナルトは頬に血が昇っていくのを急速に感じる。
見てはいけない。
今こいつの顔を見ると、真っ直ぐに向けられる感情を見ると、すぐにでも許してしまいそうになる。
そんな自覚があるからただ左右の二人を見ず、正面の薄闇にほんのりと周りを紅く色づきいた青い目をやり続けるナルトに二人のサスケは口端を上げた。
右の耳朶をやんわりと噛まれ、左からはクッと喉の奥で笑うとその振動がナルトの首筋に伝わる。
薄い皮膚の下にある骨を食みながら、吸い上げれば赤い痕がつき、痛みとともにそれより強い刺激、不快ではなくむしろそれとは正反対の心地良さがナルトの身の中で強く生まれる。
「なに、か…言わなくても分かってんだろ」
すっと右耳がより大きく、そして吐息をも含んだ声を拾い、ナルトは乾いた口の中の少ない唾液を飲み込む。
「テメーを満足させてやれんのはオレだけだろうが」
頬に手をあてられ、肩に置かれた手に縛られ、気付いた時にはふ、と触れた感触、というより熱に意識の全てを持って行かれていた。
「ナルト」
三年ぶりに聞いた声。
正確には再会し、顔も拳も合わせた時から今ももう何度も聞いたがそれらとは今一つ違っている。
激しい熱を篭らせた、雄の色を隠さない声だ。
そんな声を聞かせながら触れたのは頬への優しい接吻だった。
ナルトの目がその青い石を零れ落ちてしまいそうなほど開かれる。
ゆっくりとその潤んだ目は二人を捉えてしまった。
優しく、けれど正気の沙汰ではない渇望を飼った口付けを贈られたナルトは、贈った男に身の内も外もなく貪られる。





















(終)


サッケがまだ二部未登場時に某絵茶様にお邪魔させていただいた時、ちょう素敵なサスナル再会のの萌え絵を見せて頂き、妄想させてもらった物なのですが、素晴らしい萌え絵から妄想してこれかよ!というようなので本当にすみませっ…!(スライディング土下座)
本当はもっと前後にいろいろとあったのですが、トロくさいせいでサッケが登場し、話に矛盾が出てしまうのとあまりにヘタレ駄文っぷりに没りました;(ヘタレ駄文なのはいつもなんですが;)
きちんと書けなくて本当にすみませっ;
読んでくださった方、本当にありがとうございましたー!


'06/4/12

'07/7/6