扇風機


カタカタカタカタカタ。
上手くいかない。
説明書さえいらないような単純な組み立て作業で完成したはずの扇風機は、回し始めて数分としないうちに風の他に望んでない音まで送ってきた。
上手く行かない。
はぁっと吐息のような落胆が零れる。
寝転がって風が当たってないはずの金色の髪が微かに揺れた。
やるって、言ってたのに。
何事も一人でやってきたのでこういった物の組み立てが別段苦手と言うわけではない。
ただサスケの方が自分よりも更に器用でこういったのが得意だとはっきり言えるからこんな組み立てなどはいつもサスケの役割だった。
でもそのサスケは今居ないから。
任務から戻ってないから。
そして今日は今年最初の夏日だっていうから。
カタカタカタカタカタカタカタ。
思考に沈んでいたナルトに耳にまた入り込んでくる音。
どくどくどくどくどくどくどくどく。
妙に耳に付く、どこかがおかしいと訴えるように鳴り続けている音。
帰ってこない事におかしいと不安になるたび、速まる心音。
汗がぽたりと畳におちてはっとする。
かなり暑くなってきている。正午がすぎてこれからが気温が上がる時間帯だ。
カタカタカタカタカタカタ。
上手く行かない。
こんなんじゃ煩くて使えないではないか。
カタカタカタカタ。
怪我、したんかな。
どくどくどくどく。
扇風機を買ったその日に急な任務なんて。
カタカタカタカタ。
何がよくなかったのかなんてわかんねーってば。
どくどくどくどく。
簡単な任務の筈が予定日を過ぎても帰ってこない理由なんて。
カタカタカタカタカタ。
ああ、上手くいかない。
扇風機ものんびりする休日も。
ごろりと仰向けにまた寝てみても、目を閉じても落ち着いて休めない。
悔しいけれど、こんな自分に腹が立つけれど上手くいかないのだ。
いるはずだったサスケがいないと。
機械の組み立ても、予定外の一人の休日も。
カタカタカどくどくタカタカタカタカどくどくどくタカタ。
ちっとも。
「上手くいかねーってば」
「何がだ?」
ふっと影が掛かったのが、瞼を閉じていても分かった。
声の近さから覗きこんでいるのだろう。
低い、けれど通りの良い耳に馴染んだ声がすぐ近くにある。
鉄錆のようなものが混じっているが鼻腔を擽る懐かしい匂い。
瞼を上げれば真っ黒なあの眼とかちあうだろう。
「サスケ」
遅い。扇風機の組み立てしろってば。怪我してんじゃん。心配なんてしてない。煩い音のゲンインカイショウしろ。
驚いたようなサスケの顔が間抜けで笑えるから何を言おうかって考えるけど。
カタカタカタカタ。
やっぱり今は何も上手くいかない。
汗が目に入って染みるから。
この矢鱈と耳に付く声をあげてばかりの、効率の悪い扇風機のせいで。










(終)


私的に凄く珍しいナルトさん視点のお話。
ええええっともしかするとこんなに想っているナルトさんって初めてかもしれませんです(どんだけサス→ナル傾向強だっちゅー話ですね;)


'05/6/10