それを目に出来ないなんて考えもしなかった。
たった一度、一瞬だけ見えたそれはあまりにも鮮やかに心を奪って。
いつまでも見たい、と。
それだけしか思えなかった。









最果ての地で 2










父と祖父の前に座る時はいつも正座だ。
警察官であった祖父は定年するよりも早く職務中に部下を庇って亡くなった。
二階級特進を果たして辞めた警察内で英雄と讃えられた祖父の遺影に父は家に帰れば必ず手きちんと背筋を伸ばして正座をして祖父の遺影に手を合わせる。
その時には必ず幼いサスケも同席するのが習慣となっていて、祖父と同じく警察官であり忙しく滅多に帰ってこなかった父と話す唯一の時間でもあった。
前に顔を見てから今日までにあった出来事を、いつもそうしていたようにサスケは父の横に正座をしながら話す。
「聞いてよ、父さん」
幼いサスケは幾分誇らしげに胸を張り、父をちらと見上げるが、父は目前の遺影に手を合わせたままだ。だがいつもの事なので気にせずサスケはまた同じように前を向いて続ける。
「今日、父さんみたいに人助けをしたんだ。正確には人と猫助けだけどさ」
少しばかりの緊張と早くなった鼓動を隠しながら告げた言葉にも父は何も言わず、少しばかり不安になり父を再び見上げれば、今度はこちらを向いてくれていた。いつ見ても優しそうなとは言い難く、強面の父の顔だがきちんと聞いてくれている事にサスケは嬉しく頬が緩んだ。
「でさ、それで、すごく気になる奴ができたんだ。まだ名前も知らないんだけど、」
「サスケ」
「すごく…」
思い出すだけでじんわりと胸が熱くなってくるそれに何故か分からないが顔を上げてられず、下を向いたサスケの声に父の声が被る。
そしてすぐには止められずそのまま続いてしまったサスケの言葉を終わらせるように、父が告げた。
「用事を済ませてくる」
気付けば父の背中しかもう見えない。
「待ってよ、まだ聞いてほしいことが…父さん!」
振り向かず走っていく。
どれほど伸ばしても手は届かず、小さくなっていく背中は真っ暗な闇の中に埋もれた。
そのまま、永遠に。




「父さっ…」
追いかけるように伸びた手は空をきり、遠い背中も暗い闇もなく、くすんだ壁には不似合いな明るく蛍光灯とシーツの白が目に入る。
急激に身を起こした所為か少しぼやけていた視界が時間を掛けず定まり、迷彩服を着た数人の体格の良い男達が無駄の無い動作で動いているのがしっかりと見えた。
次いで自分が寝ている簡易式の鉄パイプのベッドといくつかのコードのようなものを付けられている何かの計測器のようなものが見え、サスケはすぐさまに自分の置かれている状況がどういったものであるかと判断しかねる。
「どこだ…?」
当然発生した疑問を口にするが、それに答えてくれる存在はない。
どうするか、と逡巡し、取りあえず近くにいる人間にここはどこなのかを聞くべくベッドから足を下ろそうとして、そこで初めて左脚に温かい重みがある事にサスケは気付いた。
あまりにもある事が当然のような温かさに違和感を覚えなかったその重みの正体は、ベッドの横に置いた椅子に腰を掛け、疲れたのか倒れるようにサスケの脚の上に乗った金色の塊。
蜜色の髪が柔らかそうにさらりと落ちた、少年の頭だ。
見覚えのあるその顔はの目は、今は閉じており、閉じられた目元は少し赤く腫れぼったく、涙の痕を色濃く残している。
泣いた痕跡を見ていると訳も無く、気分が下がり、涙が乾いて出来た痕だけでも拭おうと手を伸ばそうとし、見えたそれにサスケはびくりと引っ込めた。
幾何学模様のような、見たこともない模様とまるでひび割われたかのように行く筋も浮かびあがる線。
肌の色はしているが、異様なそれは明らかに13年見慣れていた手とは違う物体にサスケは背筋に嫌な寒気を感じた。
「なっ、なんだこの手…」
「そいつは"exex"(エグゼクス)だ」
未知から来る恐怖を紛らわす呟きに期待していなかった答えが返り、慌てて顔をあげれば、円熟という言葉が似合いそうな年齢の女が出入り口から入って来る。豊満すぎる胸が横に追いやっているが羽織っている白衣と、後ろに控える黒髪の看護服を着た女から医者かと推測出来たが、雰囲気というものがらしくない、とサスケに思わせた。
「はじめまして、だな。私は軍の研究施設に所属している綱手だ。どうだ?"軍の秘密兵器"になって目覚めた気分は」
口元に浮かべた笑みはどこか自嘲気味で、目が苦しそうに眇められるがそれはあまりにも短く、サスケは気付かない。最も見えたとしてもそれを気にする余裕など無かっただろう。
どうだ、と聞かれたその内容がサスケの頭を占め、理解を拒否させる。
「秘密、兵器?……何の冗談だ」
冗談としか思えなかった。
例えこの場所に出入りする者が軍人ばかりで、明らかに軍の管轄下にあるように見えようとも、向けられた言葉を自分に結びつけるのを脳が受け付けない。
だが女は静かにサスケの否定を砕いた。
「残念ながら冗談でも何でもない。簡易検査で適正が認められたのでお前の右腕を"エグゼクス"というデーモンを破壊できる力を持った"もの"に変えさせてもらった」
軍の秘密兵器。
"エグゼクス"。
"デーモン"を破壊出来る"もの"。
より明確な情報で理解させられ、強制的に置かれた立場に腹立たしさや不快さといったものがない交ぜになってサスケの腹から頭の先まで突き抜けた。
「何、勝手に人の腕を弄ってやがる…!」
目が覚めれば自分の腕はまるで知らぬ異物に変えられていた。こちらの断り一つなどなく、当然のように。
傲慢で勝手な行動に、どうしてそうなったかという事情を聞く気など飛び去ったサスケは黒い双眸に敵意さえ宿らせて綱手を睨んだ。
「怒るな、というのは無理かもしれんがこっちも上からの命令でやった身でな。………出来るならもう二度とお前のような子供に"エグゼクス"を持たせるなんざしたくなかったんだが」
サスケの非難を真正面から受け止める。現状を嫌というほど理解し求められたから下さざるをえなかった判断だとはいえ、非難を受けて然るべきことだと。
だが続いた呟きに添うように茶色の目が僅かに翳るのを常にチームを組んでいる看護婦のシズネにはよく分かり小さく唇を噛み、そしてすぐに負傷した患者達を安心させる笑みを浮かべた。
「今後の件で紹介したい人、カカシさんというのですが彼は今、作戦会議中でして、取りあえずその間に食事と入浴を済ませてください」
唐突に差し出された入浴セット一式と優し気な笑みに、怒気を発していたはずのサスケは萎むように毒気を抜かれた。
「ここは交戦区域に残されたホテルの廃墟なんですが、有り難い事に一部ですが水道と電気が生きているんです」
にこにこと笑みながら続けるシズネにサスケは少々、呆けてしまう。 いきなり秘密兵器だなんだと言われ、次には食事と風呂を取れ。
壊れたとはいえ、それまで辛うじて保ち、暮らしてきた日常から離れているのに妙に緊張感に欠ける会話に脱力を覚え、サスケは溜め息を一つ盛大に吐くと、差し出された温泉桶を受け取った。




風呂を済ませ、向かった食堂で渡されたプレートに並んだ食事はお世辞にも美味しそうだとは言い難い代物だった。
簡素なテーブルの上に置かれた、冷凍中心のインスタントの食事は元より無かったサスケの食欲をより減退させる。
(墓参りなんかに来たせいで…)
箸を持った手がテーブルの上で止まり、浮き上がっている模様が否応無く目に入り、サスケは舌を打った。"エグゼクス"と呼ばれていたこれはもうサスケの腕というだけの代物では無い。軍の兵器だ。
未だ実感が湧かず、変な模様がある以外は普通の腕とどこが違うのか分からないが。
―――──────「デーモンを破壊できる力を持った"もの"に変えさせてもらった」
綱手と名乗った女の声が脳裏に浮かび、すぐにそれはあのデーモンを破壊した金髪の少年の姿へと変わった。
圧倒的な、凄まじい力。
確かにデーモンと対抗出来るもの。それが今自分の右腕になって在る。
(俺に…戦えっていうのかよ?)
事実に導き出される考えにサスケはざわ、と裡を燻らせた。
今日、間近で見た戦闘は初めてのものだが、見ていなくともデーモンとの戦いが命を賭けるものだと分かる。
この戦いは自分を犠牲にして何かを守るものだ。
(戦う…何のために、誰のためにだ?俺は、俺は自分のためだけに生きていくって決めた…!)
自己犠牲を払い、戦う先に残されるものを知っているサスケは胸先で吐き捨てるが、だがどうしてか少心の中で吐き捨てた直後に金髪の少年の面影が過ぎり、あっという間にたった今再確認したばかりの気持ちを否定するようにサスケの頭も胸も占めて落ち着かせない。
名前も知らない少年のデーモンを一瞬で消し飛ばした力を揮う姿よりも、意識を失う直前に見た笑顔が転がらせた言葉を焼いていくようににじりじりと胸を熱くしていく。
「関係ない…」
そんな熱を振り払うように、サスケは頭を横に一振りすると箸を完全に置いた。
「食べなきゃダメだってばよ」
思考に囚われていたサスケは声が聞こえるまで完全に近づいてきていた存在に気付いてておらず、突然後ろから降って湧いた声に激しく動揺するが、慣れた無表情がそれを隠す。
それでもすぐに勢い良く振り返ってしまった先には、つい今しがた思い浮かべていた顔があった。
但し、思い描いていたような笑顔ではない。
白熱灯の下でさえその濃淡が美しく光る金色の髪と、空と海を交わらせて結晶にしたような澄んだ青。血色が良くほんのりと赤く染まった頬に映える色彩に、初めてではないのにサスケは見惚れそうになる。
もし戒めるように顰められた目元が少しでも緩んでいたなら恐らくサスケはまた見惚れてしまっただろう。
実際は食事を取らないのを咎めるつもりなのか、眉間に皺を寄せた顰め面でサスケは何故だかそれが堪らなく面白くない。
顰めた顔などいきなり向けられて気分の良い人間はいないだろうが、食事を摂らない事を心配してだと分かっていても、つい今しがた思い描いていた顔との違いに腹が立った。
笑顔でなかった事への期待の裏返しだと、サスケは気づかない。
「お前に関係ないだろ」
「でも!」
同じように眉間に皺を寄せ、仏頂面で切り捨てたサスケに返された声は酷く大きかった。
想像しなかった声の大きさに少し目を見張ったサスケに、少年はぼそぼそと今度は小さな声で続ける。
「……怪我、治ったばっかりだし、食べとかねーと」
きゅっとまた眉根が寄せられるが、先ほどの心配気なものでなく、まるでどこかを痛めているようで、まだ幼さの残るその顔には不似合いだとサスケは思った。
こんなのではなく、もっと楽しげな、柔らかな。
あの時のような。
「それに、仲間だから関係なくねーってば」
無自覚で思考に再び沈みそうになったサスケを引き戻したのは、また目の前の少年の声だったが、言われた内容と今度はまるきり無表情に近い顔にサスケはまた不快になる。
面白くない、と頭でなく感情が下した命令のままにサスケは吐き捨てるように言った。
「誰が仲間だ。こっちは勝手に腕を変えられただけだ」
「!それは、怪我させちまったのは悪かったけど、でもあの時はああしないと腕がっ」
ガタン、と引くことを忘れられた椅子が音を立てて後ろへと押しやられるが、おしやった本人である少年の耳には届かず、ただまた眉を寄せて顔を顰める。
それがまたサスケの苛立ちを強めた。
「余計なお世話だって言ってんだ。誰がいつ頼んだ?軍の兵器だか何だか知らねぇが、イカレタた医者が勝手に使っただけだろ」
「綱手のばーちゃんはイカレてなんかねぇ…!」
立ち上がり、サスケの襟元を掴みんだ少年の頭はカッと血を昇っており、辛そうに歪んでいた青を怒りで濃く活発な火を灯させる。
先ほどまでの辛気臭い表情より余程、小気味が良いと思うが、口になど出す気はないサスケは軽く手で振り払い、軽い少年の身体はあっさりと離れたが、それだけでは終わらなかった。
ドンッと、重く鳴り響く。
テーブルだけでなく床まで破壊された衝撃と音に近くに居た人間の視線が集まった。
食堂に居た者が驚きに満ちた目で突然壊されたテーブルと、掌の形に陥没した床を見つめる。
それを行った本人、サスケでさえ。
「あーあ、やっちゃってくれたねぇ」
「力の制御を憶える必要があるな」
驚きよりも落胆を込めた視線を寄越してきた銀の目と髪を持つ男と、その後ろに立つ綱手意外は。




「俺ははたけカカシ。一応階級は中尉でエグゼクス班のリーダーね。こっちの綱手様とはもう話ししてたから別にいいデショ」
少年とともに食堂から連れ出されたサスケは、着いた部屋で受けた銀髪の男の、どこか気の抜けたような自己紹介に興味をさして引かれなかったが、次いで続いた方には耳を疑った。
「で、そのコがうずまきナルト少尉」
つん、と顔を背けてサスケの方を見ない少年が少尉という階級を与えられている。
父や祖父、親戚関係が就いていた仕事の関係で一般的な同じ年の子よりも軍の階級に詳しいサスケは年齢に不似合いな肩書きを与えられている現実に、如何にこの少年、ナルトがデーモンとの戦いで重要な位置に置かれているかを知った。
澄ましたような、無表情の下は読めないが、単純にその細く小さな肩に掛けられている物の重みは分かる。
こんな子供に、と思わずには居れないが、それを口に出すほど素直な正義感に溢れているわけではなく、それでも腹の底から生まれるもやもやとした感情に押され、サスケはただ黙ってその横顔を見つめた。
「同意無しで右腕を"エグゼクス"にしてしまったのは申し訳ないと思っている」
返事の言葉も視線も無いが、気にする様子もなくカカシと名乗った男は続けて謝罪を口にする。
食堂でナルトにああは言ったが、サスケに救命措置として取られた行動を責める気などない。
「だが…ナルトが吹き飛ばした君の右腕を治療するには他に方法が無かった。"石"が一つしか無かったからな」
黙って聞き流していたが、続いて教えられた事情には声を上げずには居れなかった。
「…吹き飛ばした?コイツが?」
どうして己が腕を失ったのか記憶を漁っても一瞬の事で、そしてすぐに気を失ったサスケは分かっていないが、腕を吹き飛ばしたのがナルトだと言われてもどうにも納得が出来ない。
あの時、ナルトが何かしたとは思えなかったし、されるような事などなく、敵意も当然無く、ただ嬉しそうな笑顔を浮かべていただけだ。 猜疑を声に滲ませたサスケに、だが、カカシははっきりと頷きく。
「そうだ…」
「"エグゼクス"は元々、再生医療の為の技術だった」
続く説明に僅かな逡巡を見せたカカシの後を引き継いだ綱手は、頭に叩き込まれている知識を皮肉と自嘲を交えた笑いとともに語った。
敵であうる"カーネル"と"デーモン"が齎したのは破壊だけでない。
人類にとって新しい技術、それは"カーネル"と"デーモン"に対抗する軍事技術だけでなく医療における分野にも及んだ。
デーモンの"概念領域"(スパーククラス)から実態を生み出すプロセスを人体に応用する技術。
「まぁ、乱暴に言ってしまえばデーモンの組織の一部を移植させ、人体を再生させている」
「なっ!?」
あっさりと告げた綱手にサスケは己の腕になった物を嫌悪を込めて見た。
「じゃあこの腕はあいつらのッ…!」
何もしらなかったとはいえ家族を殺した物が自分の肉体として在るのかと、今すぐ腕を引きちぎりたい衝動に駆られかけたサスケに、綱手の声が落ち着きを払ってそれを止める。
「落ち着け。あくまでプロセスの応用だ」
同じではない、と暗に言った綱手にサスケはそれでも不快気に細めた目を向けた。
「概念領域と更新する粒子振動の波形がプログラミングされた特殊な物体…これを私達は"歌う石"と呼んでいるが、カーネルが生み出すデーモンの"芽"と結合すればデーモンに、人の傷口に結合すると人体の欠損部位を概念領域から引き出し、実体化させる」
人に移植され作られるのはあくまで人の身体だと、険しい光を燻らせる黒の双眸に言った綱手は「ここからが重要なんだが…」と声を改め、サスケへと向き直った。
「"歌う石"には生み出される実体の性質の一部を変質・強化させる特殊な物が存在してな。それが"特殊実存"(エクストラ・イグジステンス)、通称"エグゼクス"―――お前達の"力"であり、私達の希望だ」
お前達、と言われたところでサスケは遅まきながら自分の右腕だけでなく、隣に座るナルトにも自分と同じくエグゼクスを持っているのだと気付く。
初めて逢った時デーモンを破壊していた能力や、こんな子供が従軍している理由などそれしかないのに、サスケはこの異形の物質がナルトが今一つ結びつかず、具体的な考えが回らずにいた。
まだそっぽを向いたままのナルトを見れば、服に隠れているだけかも知れないが、ぱっと見た所ではサスケのように身体の一部に幾何学の模様があるようには見えない。
「こいつは……」
「ナルトは」
サスケの疑問に反応したのはナルト自身ではなく、立ち上がり、ナルトの側まで来てくしゃりと頭を撫でたカカシだった。
癖ッ毛だが柔らかいのかふわふわとカカシの大きな手を受け止めて、通りよく梳かれていく髪とほんの少し頑なな無表情が崩れて柔らかくなる。
花が綻ぶように広がり、緩んでいく頬に、サスケは脳裏に焼きついた笑顔が浮かび、どくり、と心臓が大きく打った。
(あんな風に、笑うのか……)
カカシに向けられるその貌に底が焦げ付くような苛立ちがサスケの中に生まれるが、それ以上に期待に弾む。
サスケの視線に気付いたナルトは少し照れを含んではにかむように目元を緩めるが、だが広がりかけていた笑顔は大きな手で塞がれ、見れなくなった。
カカシがナルトを撫でていた手を翳し、サスケから隠した所為で。
まるで見るなと言わんばかりの手にサスケの柳眉が跳ね上がるが、すぐに手が退けられ、出てきたナルトの蒼穹が今にも薄く水を湛えていてサスケは上げかけた言葉を失う。
一瞬、笑いかけたその顔はくしゃりと歪んで、凍っていた。
「ごめん、なさい」
溌剌とした、高い声を弱々しく震わせて謝られる理由が分からない。
「ナルトのエグゼクスは"笑顔"。微笑みかけた相手を破壊する"死の笑顔"だ」
先の疑問とともに教えられた答えの意味がすぐには理解出来ずにナルトを見やるが、ナルトは黙ったまま俯いている。
「かつてナルトは両目を失って、エグゼクスで再生してね。戦闘以外では見せてはいけない"笑顔"だ。……この"笑顔"がサスケ、お前の腕を破壊した」
困惑を宿したサスケに言ったカカシの声がサスケには酷く重く聞こえた。
腕を失い、意識が途切れる寸前に見た顔がサスケの中で明滅する。
心の底より嬉しそうにゆうるりと緩まった目元を赤く染め、澄み切った青を湧き上がる感情で深く染めて潤ませた瞳で、丸い頬を、唇を柔らかに上げた笑顔。




世界で一番綺麗な笑顔だと思った。
今でも思っている。
それを目に出来ないなんて考えもしなかった。
たった一度、一瞬だけ見えたそれはあまりにも鮮やかに心を奪って。
いつまでも見たい、と。
それだけしか思えなかったのに。
誰よりも笑顔が似合う子は、誰よりも微笑み見せてはいけない。
その事実がサスケの中に絶望のように横たわった。




絶望する理由も分からないまま。





















(続)


遅すぎる二個目です。
ほ、本当にトロすぎて1年以上ぶりの続きとか、すみません!すみません!すみません!!(土下座)
しかもまた駄文で、本当にもう…(涙)
ナルトさんの笑顔は世界一!
ナルトさんは世界で一番笑顔が似合うと思ってます(真顔)
そのナルトさんが笑顔を見せれないというのは本当に辛いと思うんです。
笑顔になりたくても、嬉しい事があっても笑えないナルトと、どれだけ望んでも微笑んではもらえないサスケを書きたかったんですが、諸々玉砕です;すみません;
時間は掛かりますが、必ず完結させますので、もう暫くお付き合いいただけると幸いです。
拙い駄文を読んで下さってありがとうございましたー!


'08/01/09