歩く姿にいつもの元気さはなかった。
とぼとぼと動かす足に力は入っておらず、いつもなら真っ直ぐに前を見てその瞳をきらきらと輝かせているのに今は暗い影が覆っている。
どんよりと重たげな雨雲のように。
そして澄んだ青色をついに濡らし始めた。
「とーちゃん……」
ぐしゃりと歪んだ視界ナルトの視界に今一番見たいものは見えなかった。






温度変化






久しぶりの休暇が取れてする事といえば一つしかない。
少なくともナルトの父には一つしか思い浮かばない。
「ナルくん!今日はずーっと一緒に遊ぼうね」
にっこりと笑顔で愛息子を抱き上げる。
「いいってば?おしごとだいじょーぶ?」
常日頃大量の仕事と時間に追われている―――時にはそれをサボり、ナルトを構って後で苦労している―――父の姿を見ているナルトは嬉しい反面、やはり少し心配になってしまう。
だが、そんな心配は無用とばかりに頷き、ナルトのそんないじらしさに浮かべていた笑みがさらに広がった。
「だいじょーぶ!今日は本当にお休みだからね」
ナルトもその言葉にそれこそ向日葵が咲いたような明るい笑顔になる。
「お天気もいいし、折角の日曜だからどこか出かけようか。ナル君、どこに行きたい?」
自分と同じ青い瞳を覗き込めば、小首を傾げながら少し考えるナルトの可愛らしい様子に目じりが下がる。
「んっとねー、じゃあねー、ゆうえんち!」
「遊園地か。楽しそうだねー。じゃお弁当持って行こうか」
「うん!」
嬉しそうに首にその小さな腕をまわして抱きついてきたナルトをさらにぎゅうっと抱きしめ返し、早速準備すべく台所へと向かった。


日曜とはいえ、連休でもなければ、目立つ最新アトラクションが整っているわけでもない遊園地は思ったよりも混んでおらず、まさに親子でのんびり楽しむにはうってつけだった。
「先生、そろそろお昼にしますか?」
カカシが『パパ特製ナル君のための栄養バランスもしっかりばっちり愛情たっぷりお弁当』の入ったバッグを持ち上げた。
時刻は1時。
確かにそろそろお腹も空いてきてちょうどいい頃だ。
「そうだね……ナル君、お腹すいた?」
時計を確認していた顔を上げ、ちょうど空中ブランコからナルトが戻ってくる。
「しゅいたー。ぺっこぺこだってば!」
しゃがんで目線を合わせて聞けば、お腹に手をあてて元気よく返事が返ってきた。
「じゃ、お弁当たべようね」
紅葉のような手を取り、どこか場所をと探せばすかさずカカシが園内地図を差し出す。
「あっちにピクニック広場ってありましたよ。レジャーシートも持ってきてますし、そこにしますか?」
「うん、そうしよっか。ナル君、行こう、こっちだよ」
「わかったてば!」
父に手を引かれながら歩きだしたナルトのもう片方の隣に並んで、いつものようにカカシも手を繋ぐ。
何故カカシがいるのかといえばナルトの「カカシしぇんしぇーも!」の一言で呼び出されたのだが、この直属の上司と同じく久しぶりだった休日を埋められても、さして不満は無かった。
前日が珍しく早く帰れたのでしっかり取った睡眠で疲れも無く、普段のマメさで家事も溜まっておらず、そして密かにモテる割には忙しさから彼女もいない。
はっきり言ってしまえば暇だったのだ。
それに自分に本当によく懐いてくれる可愛いナルトからの誘いとあれば、例え多少の用事があっても来たくなる。
忙しい父親の代わりにナルトの遊び相手を務める事も珍しくなく、こうして親子と一緒に出かけるのもよくある事だったし、勿論楽しくもある。
上司の子供という理由ではなく、ナルト自身が可愛くてしょうがないカカシも立派なナルトバカだったりする。
目に優しい淡いグリーンの芝生の上にレジャーシートを広げ、3段重ねのお弁当箱を広げれば感嘆の声がナルトから小さく上がった。
きらきらと目が輝く。
一段目には人参がこっそり入ったミートボールに海老のケチャップ煮。冷めても美味しく味をつけた唐揚げにふんわりと焼かれた卵焼き。
二段目には辛くないきんぴらごぼうと豆腐と白身魚のふわふわしんじょの餡かけ和え。定番のタコさんウィンナーに細かく刻んだお野菜たっぷりの五目春巻きと南瓜とそぼろの甘煮。
三段目はナルトでも食べやすいサイズに握られた鮭とこんぶとおかかと梅のおにぎり。
どれもナルトの大好物で、かつちゃんと野菜嫌いのナルトでも食べれるよう味付けしてある。
これまた別の入れ物にビタミンたっぷりの旬のフルーツが待っている。
三人といはいえ一人は子供で、多いと思われるが、見た目の細身を裏切り作った本人もカカシも良く食べるので恐らくは残らないだろう。
「いただきましゅ!」
きちんと手を合わせていただきますの挨拶をしてから、お皿にたっぷりと乗せられたおかずとおにぎりを頬張る。
満面に広がる笑顔が美味しいと物語っており、その嬉しそうな顔はまさに作り手冥利に尽きるというものだ。
「美味しい?」
「おいひーってば!」
もぐもぐとお口をうごかしながら思った通りの嬉しい返事を聞いて自分も食べだす。
「いっぱい食べて、いっぱい大きくなるんだよ」
ナルトがご飯を食べる時に必ず聞く台詞に目を細めながら、カカシも卵焼きを味わった。


それが見えたのはデザートも食べ終え、すっかりお腹いいっぱいになった時だった。
色とりどりの風船を持ってやってきるまあるいまあるいおめめをしたおっきなくまさん。
ナルトのベッドにあるガマおやぶんよりもおっきいくまさんにナルトは興奮して頬を赤くした。
「とーちゃん」
「ん〜?ちょっと待ってね、ナルくん」
「うん…」
食べ終えた重箱やレジャーシートを片付けながら返事をされたナルトは言われたとおりにちょっと待った。
少なくとも、ナルトの気持ちとしては待ったのだ。
くまさんに近くにいた子がみんな走っていく。
みるみるうちに無くなっていく風船と歩いていくくまさん。
片付けをしている父親の背中を見た。
そしてそんなに遠くない所にいるくまさん。
もう一度振り返る。
ちゃんと見ているから、ここにいるのは分かっているから。
ちょっとだけ。
(とーちゃんはおかたづけだし、ひとりでいくってば!)
そう思いつくだけの間は、待ったのだった。
たっと駆けだし、淡いベージュのくまさんのまあるい足に飛びつく。
とん、という衝撃に気付いたくまさんがなんだか懐かしいようなまっくろのおめめでナルトを覗き込んで、オレンジの風船をナルトの前に持ってくると、きらきらと喜びをたたえた青い目が閉じるほどに細まり、満開の笑顔が零れた。
「ありがとうってば」
ぎゅっと抱きつき、お礼を言って風船を貰うと、くまさんはまた歩きだす。
ぷかぷかと浮かびふうわりと揺れるオレンジ色の風船がついた紐をしっかり握り、くまさんとすこしだけお散歩をしたナルトは帰ろうと後ろを振り返った。
そして固まる。
駆けだす前に見た風景とは違うのだ。
大好きなとーちゃんの姿が見えない。
あれ?と思いながらもさっきまで歩いてきた道を戻ろうとする。
右にまがったから、右に。
こっちにきたからこっちにと。
だがいくら歩いてもとーちゃんも、一緒に来たカカシの姿も見えない。
少しでも早く戻りたくて走ったがそれでも見えてこない。
右も左も見ても、前を見ても、後ろを見ても、どこを見てもいない。
「どこだってば?」
弱い小さな声がぽつりと落ちる。
ついさっきまで雲の上にいたような楽しい気分は消え、知らないうちに地面がなくなってしまったような怖い気持ちが生まれた。


ほんのちょっと。
それは一瞬の隙間だったのだろう。
「あれ?先生、ナルトはどこ行ったんですか?」
トイレから戻ったカカシがいる筈の、小さな暖かい子が見当たらないのに気付いた。
「え?」
当然回答が返ってくるものとばかり思って聞いたのだが聞かれた本人は、最後の片付け物のナフキンを手にして一瞬固まる。
そして大慌てで振り返った。
「な、ナル君!?いないの!?」
「ええ!?先生、どこに行ったか知ってるんじゃないんですか!?」
「知らない、っていうかずっとここにいると思ってて…」
普段なら決して見ることのない、不安な弱気な姿と声。
仕事の時ならいかなる場合であろうとも、冷静さと可能性を忘れない彼とはかけ離れた父親の背中をカカシは叩いた。
「ともかく探しにいきましょう。オレは迷子センターに行ってみますから」
ぽん、と伝わった衝撃と言葉に蒼い目に芯が戻り、頷くと同時に飛び出した。
「見つかったら携帯で連絡して下さいよ!」
背中に掛かったカカシの声が追いついたかは難しいほどの速さで。


くるくるとまわるメリーゴウランド。
ぴかぴかに光る石や色とりどりのお花で飾られたお馬さんや馬車。
その向こうに見えるおっきな鏡。
どれもきれいでいつもならずっと見ていたいのに今はちっとも思わない。
きのこの傘がついたシートが空へと大きくあがっていく。
けれどそれに乗りたいなんて思わない。
人がたくさんいるのに、ナルトが見たい顔はどこにもいなかった。
ずっとずっと胸のどきどきが止まらない。
さっきよりも速くなって、怖い感じがする。
それに追われるようにナルトは一生懸命辺りを見回してた。
ずっと走っていた足は疲れ、今は力なく、それでも何とか動かしてナルトは歩く。
「とーちゃん、どこだってばぁ…カカシしぇんしぇー?」
呼びかけた声はとても小さく、震えていてちっとも届いてくれそうになかった。
ぐしゃりと歪んだ視界を戻そうと、小さな手が盛り上がった涙を必死に拭う。
けれどナルトの視界に今一番見たいものは見えなかった。
ぽてぽてぽて。
いくら歩いてもいない。
知らない人ばかり。
一人ぼっち。
その怖さに足が動かない。
「…ふぇっ……」
ついにしゃがみ込み、前を見えなくする涙がそのまま落ちてしまいそうになった時。
「ナルト?」
突然降ってきた自分の名前に、ナルトはびっくりして閉じかけた青い瞳を開いた。
声のした方を振り向くとそこには知っている顔があった。
黒い目が驚いたように見開かれる。
「しゃしゅけ…?」
「なっ、どうした!?どっかいたいのか?」
「しゃしゅけだぁ」
ようやく一人だけだった世界が終わり、ほっとしたナルトからぽろぽろと我慢をしていた涙が零れる。
嬉しくて、胸があったかくなって、怖いのがあっという間に消えて。
「なんで泣いてんだよ?だれかにいじめられたのか?」
安心したから止まらなくなったナルトの涙にサスケは慌てだした。
家族に連れらて遊園地に来たはいいが、誘うと思ったナルトは留守で。
何度目かのここにナルトがいればと思った先に見つけたふわふわと浮かぶオレンジ色の風船とその下にある金色のつんつん頭。
どんなに遠くても間違えた事のないその姿に駆け寄ってみればやっぱりナルトだったが、声を掛けたら突然泣き出してしまい。
大好きな大好きなナルトが泣くのはとても悲しくて、サスケは嫌だった。
なんとしてでもその涙を止めたいのに、サスケの顔を見てずっと泣いている。
何がナルトを泣かしているのかさっぱり分からないがナルトは泣いている。
「ナルト、泣くな、その、オトコがかんたんに泣いてんじゃねーよ」
「う、んっ…っく…ふっ……」
とにかく泣きやませたくて必死に紡いだ言葉にナルトは頷くが、空よりも海に近い青になった瞳から透明な水が止まることはない。
それでも止めようと手で擦った目許はすっかり赤くなってしまい、その痛々しさにサスケの胸も何かに刺されたように痛くなった。
「ナルト、泣くな」
それ以上ナルトの涙を見ていたくなくてひよこのような小さい頭を引き寄せる。
ぎゅっと胸に抱きしめるとお日様の匂いと涙がじわりと染みてきた。
「しゃしゅけ?」
サスケの胸に頭を押し付けられ、服に吸い取られた声はくぐもっていただが、さっきよりもしっかりとしている。
「なんで泣いてんのかわかんねーけど、オレがいるから泣くな」
困ったような、けれどとても優しい声でそう言い、指に柔らかな金糸を絡め、そっと力をこめて抱きしめてきたサスケの温かさにナルトは今度こそ本当に安心して涙をとめた。
「とーちゃんがいないんだってば」
泣きやんだナルトの声はそれでもいつもの半分もの元気もない。
「いないって、どこにいるかわかんなくなったのかよ?」
抱きしめていた腕を解き、サスケが尋ねるとこくりと頷く。
そしてそのまま俯いたままになりそうだったナルトの瞳の青がまた濃くなったのを見て、サスケは力強く宣言した。
「オレがさがしてやる!」
そうしてナルトの手を取ると、その手はいつもよりちょっと冷たくて、温めるようにしっかりと握る。
「行くぞ」
「…うん!」
握り返したナルトの手と声がやっと強くなり、サスケはなんだか胸を張りたい気持ちになってきた。
大好きで大切でやっぱり大好きなナルトの涙をとめれたのが自分なのだから。


「すみません!この辺でふわふわの金髪で、青い瞳がくりっとした可愛いこれぐらいの男の子を見ませんでしたか!?」
道行く人や、売店の店員に聞きながらもその足は速かった。
愛しい我が子を一分でも一秒でも早く見つけだしたい。
心の底からの想いが、足を急かす。
もしも見つからなければ。
絶対に見つけてみせると思っていてもそんな嫌な考えが浮かんでしまう。
変質者などに連れ去られたんじゃないんだろうか。
それとも池などに落ちたりしてないだろうか。
時折ある悲しいニュースが頭に浮かび、さらに不安が膨れ上がる。
大事で大事で大事で。
世界中の宝物よりも何よりも大事な存在。
いつもいう事をちゃんと聞くからとか。
勝手に、何も言わずいなくなったりしないからとか。
そんな事で一瞬でも目を離してしまった自分が許せない。
一瞬でも考えた恐ろしい結末を砕くように握った拳を額にあてる。
ぎゅっと瞑った目の奥に眩しい、それこそ自分の全てを照らしてくれるような笑顔が浮かぶ。
「ナルト…!」
名前を呼ぶ声は苦しげで、一度だって呼んだことのない声だ。
それに応えるように突如として音階を踏んだメロディの後、大音量の音声が響いた。
『迷子のお知らせです。うずまきナルトくん。金髪に青い目、うずまき模様のTシャツと白のハーフパンツを着たうずまきナルトくん。保護者の方が探されているので至急迷子センターまでお越しください。またお見かけの方は迷子センターへお連れ下さますようお願い致しします。繰り返します……』
園内放送だった。
カカシが頼んでくれたのだろう。
これを聞いて来てくれれば、もしくは誰かが連れていってくれれば。
自分の血を濃く引いて目立つ容姿をしているナルトなら見つけてもらえる確率も高いはず。
行かないと。
何故か分からないがそう確信した。
必ず来るとはいえないし、このまま探した方が早く見つかるかもしれなかった。
それより一度はぐれたピクニック広場に帰ってきてるかも見た方がいいかもしれない。
様々な可能性があったけれどすぐに行くべきだと何かが訴え、従うことにする。
それを信じるかどうか迷う時間さえ惜しかったのだ。


握った手が温かくて、ちょっぴり汗をかいてしまっていたけれど離したくなくて。
滑りやすくなった手のひらにどうしようと思っているともっと強くぎゅうっと強く握ってくれたので、ナルトも握り返した。
さっきと同じで父もカカシもぜんぜん見つからない。
けれどちっとも怖くなくなっていた。
まったく分からない所に一人きりでぽつんと離されたような、地面がなくなってしまったような感じがしない。
しっかりと足が動く。
サスケの手があって、いつもいるサスケがいて、いつもナルトを見るくろい目が見ていてくれて、一人じゃなくて。
だから怖くないのだ。
「いなくなったときどこにいたんだよ」
ただ歩いても一向に見つからないと分かり始めたサスケはいそうな場所、と思いナルトに聞く。
「えっと、おべんとーたべてたってば」
「どこでたべてたんだよ?」
「ひろくて、くさがはえてるとこ!」
「………」
うーん、と少し目を彷徨わせ、頑張って思い出したがあまり役に立たなかった。
ナルトしか分からない場所の言い方では、サスケには皆目見当がつかない。
だが見つけてやると言い切った手前、なんとしてでも見つけなければいけなかった。
大好きな子の前で出来なかったなんて失態を見せるのは例え5歳児とはいえ、サスケの男としてのプライドが許さない。
どうしよう、と考え出したところで大きな音がその思考を遮った。
『迷子のお知らせです…………』
否応なしに耳に入ってきたそれはまさにサスケの行き詰っていた悩みを解決するのもだった。
「行くぞ」
「?うん。でもどこ?」
「まいごセンター。いまおまえをよんでたろ」
「よんでたけど…ホゴシャってひと、オレしらねーもの」
しらないひとについていっちゃだめってとーちゃんが言ってた、とらしくもなく眉根を寄せて困った顔をするナルトの手を引き、サスケは歩き出した。
「それはおまえの父さんとかのことをそう言うんだ」
「しょーだってば?しょこにいったらとーちゃんいるってば?」
「いる」
きっぱりと言い切ったサスケは今日初めてのナルトの笑顔を見る。


柔和な光をたたえることの多い青い目がきり、と鋭く真剣な眼差しを放っていた。
それほど多くないとはいえ、やはり多少の混雑をする園内の人混みをすり抜けるように走る。
乗り物のエリアを抜け、花時計が綺麗に時刻をつげる大きく開けた広場の向こうに迷子センターの標識が見えたと同時に、さらにその奥に見つけた。
見間違いようのない色彩。
間違えたことなど一度としてない姿があった。
「ナルトー!」
思いっきり声をあげて名前を呼んで迎えに行く。
その声が聞こえたナルトはきょろきょろと声の場所を探す。
そうして真っ直ぐこちらにやって来る姿を見つけ声を同じくらいおおきくあげる。
「とーちゃん!」
お口をめいっぱい広げて、潤んだあとの目がきらりと光った。
風船とサスケの手で塞がった両手をそのまま上げて、ぶんぶんと振る。
それに励まされるように足をさらに早め、ナルトの元へ辿り着いた。
やっと見つけたその小さな身体をしゃがみこんで、逃がさないというように抱く。
「ナルト…無事で良かった……」
頬に頬をよせて発せられた呟きは安堵と歓びと優しい弱さに震えていた。
「とーちゃん………ごめんなしゃい」
どれだけ心配させたか、どれだけ想ってくれていたか。
雄弁に伝わるその気持ちに何だかとても悪い事をしたのだと思った。
「いいんだ。ナルトが無事ならそれで。よく帰ってきてくれたね」
少し身体を離し赤い目が痛々しい顔を撫で、ぽんぽんと頭に手をやると、ナルトはほっぺを赤くしながら横を向いた。
「しゃしゅけがつれてきてくれたんらってば!」
そうしてにこっと嬉しそうに笑い、手を見せるように差し出した。
繋がる先には良く知っている子が何とはなしに嬉しそうにナルトの愛らしい手を握っている。
「サスケ君がナルトを連れて来てくれたの?」
こくんと縦に首を振って肯定した。
「ありがとう、サスケ君。本当に、ありがとう」
いつも大事なナルトにちょっかいをかけるところがちょっとだけ気に食わないなんて思っていたけれど、大事なナルトを保護してくれた事の前にはそれは消える。
「べつにこれぐらいあたりまえだ」
心の底からのお礼に照れたのか、赤くした顔をぷいと背ける子供らしい姿に笑みが浮かんだ。
ナルトにちょっかいを出すのはいただけないけれどやっぱりまだまだ小さい子供で可愛いところもあると思えた。
「ナルトはオレのだからオレがナルトを泣かせない」
そのまま不穏な台詞を吐かなければ。
それってどういう意味かな?と張り付いた笑顔のまま問い詰めそうになった親馬鹿の背中に涼やかな女性の声が掛かった。
「サスケ、こんな所にいたの!?あ、うずまきさん!」
うずまき親子とまさに家族ぐるみで付き合いのあるサスケの母の声だった。
「どうも、うちはさん。いつもお世話になってます」
立ち上がり、深々と下げる。
お隣さんという親しさだけではなく、このうちは家の母には父子家庭であるうずまき家は町内会の事やら何かとお世話になっている。
それに今回はナルトをここまで連れてきてくれたサスケの事もあり、心配する原因を作ったこちらはお詫びをしなくてはいけない。
長くなりそうな親同士の会話の横で、ずっと離されない手と手はもう熱いくらいだったがナルトもサスケも離さない。
ナルトの手がいつものように熱くなったのにサスケは気付いて、しっかりと目を合わせれば。
サスケが何度みても見惚れてしまう笑顔で笑っていた。


30分後。
「見つかったら携帯に連絡して下さいって言ったでしょ…」
迷子センターの奥の事務室から出てきた、一人未だナルトが見つかって無いと焦っていたカカシが脱力とともに洩らした言葉は、またもや困った上司の背に届かなかった。










(終)


「君の書く(園児)サスケやんはちっとも子供らしくない」と友人に言われ(激しく納得し)たので今回はサスケを子供らしく!!をモットーに頑張ってみたんですが………前回とあんま変わってねぇ…!どうしてこんな子供らしくない5歳児になるんだー!(涙)
因みにこの後、一言も言わず勝手にいなくなったサスケがちょっとだけお叱りを受けそうになるんですが、パパが庇うよりもナルトが「ごめんなしゃい!」と謝って庇ったので、ナルトに弱いうちは母はあっさりと許します(笑)密かにうちは父母は子供らしい、素直なナルトをお気に入りだといいなーとか妄想してます(笑)


'05/8/31