信じている。
勘違いでないと。
思い込みでないと。
あいつが見た目ほど分かりやすい奴でないことぐらい分かっている。
そう理解しているつもりだ。
ただ少し分かりにくいだけなのだ。
だが。
だがそれでも。
我が侭かもしれないが。





だけど言葉が欲しい





「あっ!ネジー!」
長い黒髪を流した後姿を見つけた途端、ナルトはサスケの隣から走って行った。
引き止める間もなく駆け出したナルトの背中に不愉快なものを感じつつ後を歩いて追う。
「ナルト、久しぶりだな」
人の断りも無しに――あっても許すはずなどないが――ぽん、とあの触り心地の良い髪に指を絡めたネジに不愉快さは一層増した。
それを目を細めて、嬉しそうに受けるナルトにも。
「ホントそうだってば。ネジ、ずっと長期任務だったもんな〜」
「ああ。こうしてナルトの顔を見るのも本当に久しぶりだ」
白い眼がナルトだけを見て、柔らかくなっていった。
「ナルト、もう任務報告は終わったんだが良ければ一楽に行かないか?奢るが」
「え!?いいの!?ネジが一楽って珍し〜」
一楽の名前と誘いにナルトの顔がそれこそキラキラと音がしそうなくらいに輝く。
ああ、苛々する。
眉間に皺、もとい山脈を作りながらサスケはナルトの後ろに立ったがナルトは全く気付いていない。
「久しぶりに里に戻った事だし、たまにはな」
「うんうん。木の葉の味っつったら一楽のラーメンだってばよ!」
「行くか?」
「もっちろん!当たり前だって!ネジ大好きー!」
ぶちっ。
がばりとその腕を取った所で見事に切れたサスケの嫉妬を抑える理性の糸は儚く散った。
「このウスラトンカチ…てめぇは今から任務だろうが!」
ネジからそれこそ上忍の名に恥じぬスピードで引き剥がし、ナルトを腕に収める。
「あ、そか。う〜〜〜じゃあさ、じゃあさ、明日は?」
サスケと暮らし始めてからめっきり行けなくなった一楽にどうしても行きたいし、滅多に行くと言わないネジが言ってくれたのが嬉しくてナルトは何としてでもこの誘いを無しにしたくない。
上目遣いに必死になって言うナルトにネジは当然快諾しようとしたが。
「いいわけねぇだろ。腹減ってんだよ。お前だったら一日我慢できるのかよ?」
サスケの台詞が遮る。
「そりゃそうだけどさぁ〜」
ナルトにとっては目の前の一楽を一日も我慢する事は不可能と認識されており、ついネジもそうだという考えをしてしまう。
そしてそれがサスケの思惑であり。
「ならネジにも悪いだろうが。それより遅れる。さっさと行くぞドベ」
「ドベ言うな!って引っ張るなってば。あ、ネジ!ごめん!また今度行こーなぁ〜〜〜」
後ろ向きにずるずると引きずられていくナルトに言葉を掛けるタイミングを完全に逸してしまったネジはぶんぶんと手を振るナルトをただ見送った。


任務の受付と開始の為に必要な物を受け取りに受付所にはシカマルが肩肘を付いて座っていた。
それを見つけたナルトの行動は。
「シカマル〜〜〜!」
悲しいぐらいに予想出来たもので。
ばっとサスケの腕を振りほどき、シカマルが座っている席に飛んで行く。
「よぉ。書類だろ。揃ってんぞ」
だらけたつまらなそうな顔をしていたシカマルに笑みが浮かぶ。
「さんきゅ。あ、そだシカマルこの前の団子だけどさ、アレってばどこの?」
「あ?あの草餅のか?」
「そうそう。あれスッゲー美味かったから!どこのか教えて欲しーんだけど」
手を合わせて、顔を近づけて拝むナルトにシカマルはうっすらと頬を赤くした。
「あー、その。ありゃ砂隠れのなんだが、なんだ。また近々行くからよ、メンドクセーけど土産に買ってきてやる」
少し目を逸らし、頬を掻いたシカマルにナルトは机越しに飛びつく。
そして。
「やたっ!シカマル大好きだってば!」
本日二度目の理性の糸との別れだった。


今回の任務は火の国の大名藩主への機密文書の受け渡し。
既に里に持ち込まれたものを藩主に届けるだけのものでAランクとされているが実質はBランクと言って良かった。
だが依頼主の強い要望によりナルトとサスケに任務が回され、指名料代わりのAランク扱いになっている。
本来なら楽な任務にもう少し気分も楽でいいはずなのだが、とても重かった。
「なんかサスケ機嫌悪くね?」
木々を移動しながら顔を顰めて聞いてきたナルトにサスケの柳眉が上がる。
何を言ってるんだ、こいつは。
先の事を考えれば悪くないわけがないだろう。
「分かんねぇのかよ」
「なんで?オレなんかしたってば?」
青い瞳が真っ直ぐにこちらを向いて、一点の曇りもない疑問を浮かべていた。
本気で分かっていないらしい。
怒りに思わず足が止まった。
「サスケ!?どうしッ!」
着地した木から動かないサスケに驚いて戻ってきたナルトの腕を掴み、幹へとその身体を押し付けた。
両腕をナルトの顔に突き、身体を使って逃げ道を塞ぐ。
「ってぇ〜…何すんだよ!?」
「何じゃねぇよ。てめぇこそどういうつもりだ」
唐突で理不尽と思えるサスケ行動にキッと血が昇り濃くなった青が睨むが、それより遥かに熱と怒りをもった黒が低い声を伴ってナルトを見据える。
「だからなんだよ、もう!さっきから意味わかんねーってば!オレ別にお前を怒らせるようなコトしてねーもの!」
だが、本当に心当たりがないナルトはそれに怯む事を自身の心が許さない。
「ならあれはなんだ?ネジやらシカマルやら誰にでもほいほい抱きついたりしやがって!テメーは構ってくれんなら誰でもいいのかよ!?」
「はぁ?何だよ、ソレ」
「ネジやシカマルの野郎だけじゃねぇ…!カカシやイルカやあのガキや砂の狸野郎や任務でちょっと一緒になった奴や、誰にでもすぐに懐いてんじゃねぇ!!」
「懐くって、別に仲良くすんのはいいことだろ!皆、大事な仲間だ!」
「大事な『大好きな』仲間、な」
ハッと嗤った含みのあるサスケの言い方に眉根を寄せつつも肯定する。
「そう、だってば。皆、大事だし、大好きだし」
がん、と拳がナルトの頬のすぐ横を掠めた。
ぱらぱらと木の葉が抗議のように舞い落ちてくる。
「…なら俺はなんだ?テメーはすぐに誰彼無しに「好き」って言うが俺には言わねぇだろ…!」
「な、サスケは、決まってんじゃん、そんなの……」
「何だよ、言えねぇのか?」
詰るようにナルトを見つめる黒がどんどん近づいて、耳朶に吐息の熱が分かるほどにサスケの唇が寄せられ。
「好きだ」
それまでの苛立ちや怒りと言ったものがすとんと抜け、乞うような、それでいて甘く擽る様な低い声でナルトの中に入り込んだ。
「さ、サスケ…!」
それまでの状況など吹き飛んで、じわりと身体の奥から生まれる熱とでナルトは真っ赤になる。
「俺は、俺はお前だけが好きだ」
そのまま寄せた唇がくっつくのではないかと思えるほどに近い場所で囁かれ。
「好きなんだ…」
堪らず首を竦め、ぎゅっと瞳を閉じてしまったナルトの唇に暖かいものが触れてすぐ、強引に口を割られ口腔を弄られた。
舌を絡めとり、上顎をざらりと舐められ背中にぞくぞくとしたものが走る。
いつの間にか腰に回された腕がナルトを引き寄せ、その細い身体を確かめるように触れてくる。
「んぅ…ふっ……」
何度も深く浅く繰り返していた口づけは最後、ちゅっと軽くナルトの唇を吸って離れた。
やっとの思いで目を開ければ、すぐ近くにある黒曜のようなサスケの眼があって、何だか泣きそうだと思った。
「オレも…好き」
「知ってる」
「よくわかんねーけど、ネジとかシカマルとか、カカシ先生やイルカ先生とか、他の皆とサスケは違うんだってば…」
「そうだと、思いたい」
「サスケのコト好きだし、すっげぇだ、大好きだけど、だから言えねぇの!」
「………なんでだよ!?」
いつも聞きたいと渇望している言葉を漸く聞けて、サスケの心が満たされていっている途中でそれは止まりつい、大声を上げた。
「だって、だってすっげー恥ずかしーもの!サスケのコト好きだけどおんなじ位恥ずかしいの!!好きって考えるだけでどきどきしちまうし……」
ついとサスケの顔を真っ直ぐに見ていた青目が流される。
「そんな、言えないってば」
頬を染め、泣きそうに潤んだ瞳をして、消え入りそうな声でそんなコトを言う。
こんな可愛いコトをされてしまえば。
許すしかないだろう。
この先また誰にでも抱きつこうとも。
すぐに聞き捨てならない台詞を言おうとも。
許すから。
だからせめて。
「ナルト」
呼ばれ、上目遣いに見上げてきたナルトにもう一度、触れるだけのキスをしながら告げる。
「好きだ」
俺にも言ってくれ。










(終)


サスケ以外には簡単に好きとか言うナルトと、ナルト以外には好きと言わないサスケ。
ナルトは本当に好きだから簡単に言えない(言うだけでどきどきしてどうにかなりそうなくらいに恥ずかしいから)、サスケは本当に好きだから簡単に言えるという話で…した(いい加減説明無しで分かる話を書こうよオレ;)
もいっこ付け加えますと(…)サスケは付き合ってから普段の時(えちぃの時以外)は一度も好きと言って貰えてなかったという;


'05/8/12