「好きです、付き合ってください」
目の前に立つ人物から放たれた言葉が、思考も身体も見事に凍らせる。
予想だにしなかった事態に驚きというものを十分過ぎるほど堪能させられた。









告白ノススメ










九月最後の日。
サスケが通う高校は明日の創立記念日が休み、前日の今日は半日授業となっている。
だが高校一年だった去年と全く同じ特に予定というものが一切無かったうちはサスケは、縮まった授業時間の分キッチリ、帰宅時間を早めるだけだった。
明日の休みには、来年からは大学受験も始まる、という一種の強迫観念的な心理が働いた多くの生徒達が勉学以外の予定をぎっちりと詰めている。
サスケも中学からのクラスメイトであるサクラから映画にでも、と誘われたが、1秒の間もおかずに断った。
興味がないという単純な理由だ。
好意が含まれた誘いだったと分かっていたが、だから何だとしか思えない。
誰が自分に何を思おうとも、相手に対して思うことなど生まれないサスケにとって興味のない事で時間と体力を無駄に使うぐらいならば部屋で寝ている方が余程マシだ。
そうやって規則的な行動に乱れることなく動かされていた足が止められた。
視界の端に入り込んだ目立つ色、というよりは高い陽を受け、跳ね返す金色は光に見え、目が引かれ上げた顔をばちりと真正面から見てくる真っ青な双眸の透明度に惹かれる。
そしてふうわりと浮かんだ笑顔はそれ自体に温度を持った存在があるようで、意識の外にあるサスケの警戒をいとも容易く絡め取った。
次いで思考は一瞬にして完全に奪いさられる。
「『好きです、付き合ってください』」
笑顔を貼り付けたままの見知らぬ男は確かにそう言った。
驚きで声が身体から消えてしまったように、サスケは一言も発せずに固まる。
一瞬で中が真っ白になった頭は何の対策も練ってはくれず、サスケはたっぷり十秒は呆けた顔を晒してしまった。
「えと、うちはサスケクンだってば、じゃなくて、ですか?」
沈黙を破ったのは、それを作り出した方で、男にしては少し高いが女にしては低い声をころころと転がす。
取り敢えず理解出来る言葉に頷きを返せば、サスケの名前を確認した目の前の男は再び口を開いた。
「良かった。もし間違えてたらスゲー恥ずかしー、すごく恥ずかしいですし。ええと、逆になっち……なってしまいましたが、俺はこういう者です」
丁寧な言葉遣いと同様、非常に不慣れな手つきで渡された名刺には『木の葉代行屋 うずまきナルト』と書かれている。
胡散臭い名詞に自然と眉間の皺を作ったサスケに構わず、男―――ナルトは続けた。
「代行屋ってーの、言うのは、色んな物を名前のとおり依頼人の代わりにするっ、させて貰う仕事で、犬の散歩とか家事とか、引越し手伝ったりとか、あと俺には無理だけど何かムズカシイ書類の作成とか、まぁ、何でも屋みたいなもなんだけど、その中で告白の代行もやってて」
「それでお前は告白の代行をしに来たんだな」
「だってば!じゃなくて、そうです」
先を続ける前に一足早く事態を呑み込んだサスケに、ナルトは強く頷いてから、あ、という顔になり、また硬い物言いで言い直す。
言葉遣いはサービス業に於いて重要だと普段から言われているのに、相手の年が近いせいかつい普段通りのものが出てしまった。
「呼び捨てでいいし、下手な丁寧語と敬語の混じった変な言葉遣いなんかするな。聞き辛い」
普通に話せばいいだろ、と素っ気なく続けたサスケに、ナルトは少し見開いた青い目をじわりと緩める。
年下であっても相手は依頼人から頼まれた相手で客も同じ。だからこそこちらを下の立場で接するのが常識で、それを分かっているから年下だろうと何だろうと、上の立場を崩そうとなどしない人が殆どだ。
それが当たり前の事なのだが、帰国子女であるナルトにとって敬語や丁寧語、謙譲語、尊敬語など呪文のように感じられる。
日本生まれ、日本育ちの日本人ですら完璧に正しく使えている者など滅多にいないのだから無理もないのだが。
そんな日本以外の国からみれば非常にややこしい言葉を、当然の如く使うのが苦手なナルトは普段の口癖が混じった喋り方で良いと言われ、嬉しげに顔を綻ばせた。
「…へへっ、サンキューだってば!そんじゃ改めてなんだけど、」
「いらねぇ」
仕切りなおして、きちんと依頼人の名前と言葉を伝えようとしたが、またしても続ける前に遮られ、きょとん、と目を丸める。
「へ?」
「本当に言いたいんなら自分で言うべきだろ。他人を使って言うなんて気がしれねぇし、興味もねぇ」
だからこれ以上聞く気はない、と終わらせるサスケにナルトの蒼穹が一瞬、濃くなり、すぐにすぅっと伏せれ、次には酷く腹だたしそう色と悲しそうな色を混ぜたような、サスケには不可解な目を向けてきた。
「うちはってさ、人を好きになったコトねーだろ?」
たった数分だが単純な性格らしいと見抜いた相手が見せたのは、ストレートな怒り顔を予想していたサスケが見たのは、意外だと感じるほどに静かなもの。
「好きだったら自分で言えるって人ばっかりじゃねぇし、本当に好きだから、好きって気持ちが大きすぎて言葉に出すコトも出来ねぇって奴もいるんだってば。『好き』が大きすぎるから出しちまわねーと苦しくてしょうがなくて、どうしようも出来なくて動けなくなっちまった奴とか」
つい先ほどまでの騒がしい声ではなく、落ち着いた、ほんの僅かだが低くなった声がサスケの鼓膜を震わせ、裡にするりと入った。
サスケの言い分が間違っているというのではなく、知らない、と突きつけてくる静かな声と透明な青に思考も意識も囚われる。
「……お前はそんな風になった事があるのかよ?」
サスケから出たのは考えての反論ではなく、ただ、目の前の男が誰かに対してそんな風な想いを抱いた事があるのか気になったから聞いただけの言葉だったのだが、ナルトの青の目は気まずげに曇った。
「それは…ねぇ、けど……」
ナルトは本当の恋という経験をしていない。
何となく可愛いな、とか、一緒に居ていい子だな、と思う女の子に出逢った事はある。
けれどそれは単なる友人としての好意や憧れの域を出なかったものばかりで、先ほどの言葉は代行屋の社長に教えて貰ったものだ。
ナルト自身、どちらかというと好意はすぐに口出す方だが、だからといってサスケへ言った気持ちを軽く考えているわけではない。
「でも、誰かを好きになったら伝えたいって思う。そん時、言える勇気が出るかどうかは分かんねぇ。好きすぎ言えないって、オレだってなるかもしんねぇ。もしそうなった時、ほんの少しだけでも手伝って貰えたら、上手くいってもいかなくても、きっと、ぐるぐるしちまってるところから踏み出せるってば」
それが悪い事だとナルトには思えなかった。
今までの依頼で笑顔を見せてくれた依頼人達を思い出せば尚更。
一瞬影を落としたが、すぐにゆらぎを無くして真っ直ぐ射抜いてきた青に、サスケはただ一言「そうか」と呟く。
すんなりと受け入れられた理由は本能的に理解してしまったからなのだが、それに気付けるはずがないナルトは、声に否定が含まれてない事にぱっと顔を輝かせた。
「じゃあさ、じゃあさ!今度こそ」
「やっぱりいらねぇ」
改めて、と続けようとしたナルトの声は三度遮られ、詰まる。
「なっ」
きゅ、と寄せられたナルトの眉根は、けれどすぐに離された。
「お前からじゃねぇ告白は聞きたくねぇ」
ナルトから以外の告白は聞きたくない。
至極淡々と返された男の言葉を、呆けた顔をしたナルトが理解して絶叫を上げるまでたっぷり十秒。
そして、『うずまきナルトへの告白代行』をサスケが依頼しに木の葉代行屋のドアを開くまであと十日。
十月十日その日に、ナルトは人生で初めて、自分への告白の依頼を受ける事になる。





















(終)


ナルトさんハピバーーー!!!!
祝えてない上に短い上に駄文すぎて本当にごめんなさい…!
気持ちだけは!気持ちだけはあるんです!!!
サッケさんはナルトさんに一目惚れだったりします。
サッケさんこの後、木の葉代行屋にしょっちゅう顔を出すようになって、バイトに採用されたりして、そっからナルトが指導係りになったりして、その間、立場をフルに使ってナルトさんを落とせるよう頑張ったりすればいいと思います。
出てませんが、ナルトの同僚にシカマルとか、社長は綱手とかがいたりします。
きちんと書ききれてない上にgdgdで本当にすみません;;
こんな駄文ですが、読んで下さってありがとうございましたー!


'07/10/10