GOGO!337







放課後の教室に人が集まればそれは自然に喧騒に包まれるというものだ。
だがこの日、というよりはここ数日はそれに昂揚というものが内包されていた。
もうすぐ近づく体育祭という学生生活の中でも結構大きめのイベントを前にして。
繰り返されるサイクルのような生活リズムが変化する僅かな特別な時期。
祭りの準備というある意味本番よりも楽しいかもしれない空気が否応無しそれに携わる者の気分を変えていた。
「ぎゃはははは!いいぜ〜、スゲーいい!」
「ほんっと、サイコーよ〜」
「これならウケるのは間違いナシね!」
2クラスも前の廊下でもはっきりと聞こえる笑いと愉快気な声。
学級委員などという雑用係を二年連続で押し付けられたサスケは生徒会との打ち合わせを終え、戻ろうとしている教室から聞こえた普段よりも2割増しほど大きな声と楽しそうな様子に顔を顰めた。
難しく遣りにくいわけではないが、ひたすら面倒な雑務や事務をこなすだけでも多大な疲れを憶えるのに、その上生徒会の実に不愉快な、どうあってもいけ好かない野郎と顔を合わせなくてはならず精神を磨耗してきたというのに、その時間をこいつらは楽しく駄弁って過ごしていたのかと思うと不愉快にならぬはずがない。
しかも今借り出された理由は教室に残っている奴等が準備している応援合戦を進行するための打ち合わせで、内容を書いて許可を貰うための書類が手に握られている。
片方は疲労困憊、片方は楽しくお祭り騒ぎ。
改めて己が如何に不利益な立場を押し付けられたかを深く認識しながらサスケは教室へと入った。
「おい、何をするか決め…」
何をするか決めたんだな。だったらコレにとっとと書け。
そう発するはずだったサスケの口は途中でがちりと固まり、頭は手にしていた書類の裏より真っ白になる。
「お、サスケー、おかえりー」
扉を引いて身を一歩入れた所で止まってしまったサスケの元へナルトが駆け寄った。
並べられた椅子や机の間を素早く縫ってちょこまかと動く足がよく見える。
本当によく見える。
いつもなら学校指定の制服、ズボンがしっかりと隠している白く柔らかな太腿まで見える。
ふわりと広がった白のブリーチスカートから。
「サスケ、これどう?」
そう言ってサスケの前でスカートの端を持ち上げ、ニシシと笑った。
上目遣いに見上げてくる青い目は悪戯小僧のもので実に楽しげにきらきらと輝いている。
どう?と聞かれてもサスケはそれにコメントを返す事など出来なかった。
ナルトの性別はサスケと同じ男だ。
同年代の男より細身で腰も華奢で顔もよく動く表情に隠れているが実は愛らしく整っていたりするのだが、それでも男だ。
だが今は一目見てそうだと判断するには難しいほどに完璧なチアガール姿になっていたナルトがいた。
胸に赤い文字で大きく『ILove2−A』と書かれた白のTシャツに膝上10センチは行ってるであろうミニのスカート、同じく白のハイソックスを着て、いつもはツンツンに跳ねている蜜色の髪を真ん中で分けてヘアピンで止めているナルトの姿を目にして声など出せようか。
もし声に出せなかった率直な感想を言うとしたら。
可愛い。
死ぬほど可愛い。
てめーなんだその可愛さは。
そしてなんだそのスカートの短さは。
誘ってやがるのか?
というものだった。
声にされなくて何と幸いなことか。
されていたら即座にその心情が殆ど出ることがなかった校内一端正だ、美形だと評判の顔に渾身の右ストレートが入った事だろう。
「コレ、ぜってーウケると思わね!?最初はさ、やっぱビシッっと格好良くガクランで応援!とか思ったんだけどそれじゃ他のクラスとも被りそうだし、あんま面白くないかなーって」
一見無反応なサスケの様子を特に気にする事はなく、ナルトは笑顔で続ける。
「そしたらよ、いのの奴が演劇部の衣装持ってきてよ。そん中にこんなモンがあったらそりゃ着せなきゃいけねーだろ」
ナルトの隣に来てキバがナルトの言葉を引き継ぎ、また笑い声を上げた。
なんであったら着せなきゃいけないのかサスケにはさっぱり分からないがナルトは面白いからという理由で納得しているようだ。
「な、な!サスケもウケると思うだろ?コレでいこーぜ!シカマル達だっていいって言ってるしさ!」
「ま、予想以上に似合いすぎて笑うレベルじゃねーってのが気になるがまぁいいんじゃねぇ?」
教壇の近くの多少スペースがある所で衣装の入ったダンボールの周りに座っていたシカマルもいつものやる気のない声とは違う、面白がって弾んだ声で同意してくる。
「あら、ナルトなら似合うってコトぐらい最初っからわかるじゃなーい」
「そうよね。後は当日メイクもしたら完璧よね。これなら笑いが取れなかったとしても他クラスの野郎票は確実ゲットよ!」
「あ、なら絶対ナチュラルメイクよねー。当日持ってこなきゃー。部のヤツは濃すぎるから駄目だし」
「あったりまえよ!でもナルトってかなり肌、白いわよ?それに合う色アンタ持ってんの?」
いのとサクラが二人で何やら違う方向で話を盛り上がっているが、声を抑えられたため耳に入らなかったナルトはシカマルの言葉に指を指して抗議した。
「はぁ?ナニ言ってるってばよ?似合ってるわけねーじゃん。シカマル変なのー。これで笑わなきゃオカシイって!」
「いやいや、似合ってるぜ〜。ナルコちゃーん、ぱんつみしてー」
指し付きで抗議されたシカマルが何か言うより先にキバが速攻で否定とおフザケに入り、囃し立てる。
これに乗らないようなナルトではない。
「いやーん、やめてくださいってば〜」
スカートの端を持って下げると見せかけ、チラっと持ち上げたのだ。
一瞬ではあるが内股のかなり上の方まで見える。
それこそ下着も見えてしまうのではないかというぎりぎりのライン。
ぶつり。
「おおっ!色っぽいぜーナルトー!」
「きゃー、キバのエッチ〜」
ぎゃははははと馬鹿笑いするナルトとキバを前にサスケの中で切れた音がした。
理性とか忍耐とかの糸だ。元よりナルトに関しては恐ろしく脆い。
「ナルト」
「ん?サスケも見たいってばー?」
低く、怒気すら孕んだ声を絞りだす、不自然なまでの無表情さにナルトは気付けないでいた。
だからこそこんな悪ふざけを続け、もう一度チラリとスカートを捲ろうとし。
次の瞬間には。
「ちょっと来い」
ふわりと身体が浮き上がり、視界がぐるりと回る。
「へっ?」
間の抜けた声を上げた時にはナルトはサスケの肩に担がれていた。
「ってなにすんだってば!お、降ろせ、サスケ!」
身を捩りなんとか降りようとするが、担がれた方の腕でがっちりと腰を抱かれ、もう片方の腕でばたつく脚を纏められ動きを封じられてしまう。
「うるせぇ。大人しくしてろ」
そのまま唖然としている教室にいる者達全員を無視して教室を出て行ってしまったサスケを追う者は一人もおらず。
「あれは30分は帰ってこないわね」
サスケの思考を大まかながらも正確に読み取ったサクラの呟きに、嫌そうな顔をしたシカマルとびっちりと固まってしまったキバがいた。



「いきなりなにすんだっ!」
ナルト達の教室と同じ階にある教材資料室に連れてこられ、置いてあった予備机の上に降ろされたナルトは埃っぽい空気を吸い込み、開口一番にサスケへの文句を言う。
が、鍵を閉め振り返ったサスケの顔を見た時、初めてこの状況がそんな風に言ってられるものでないと知る。
笑っているのだ。
それも目だけは笑わず、口元だけ。
眉間に皺を寄せ何故か怒っているぴりぴりとした空気を撒き散らしながら、笑うサスケ。
この笑顔は大変よろしくない。
過去の経験上とてもよく知っているナルトの顔が引き攣る。
「さ、サスケさん?どうしたんですかってばよ…?」
腰が引けそうになりながら聞いたナルトにサスケの笑みがますます深くなった。
ぞくりと背筋が震える。笑顔でこんなに人を恐ろしくさせていいものだろうかとナルトは嫌な汗が出るのを感じながら思う。
「どうした、か」
「な、なんだよ」
がたり、とまた引いた腰が乗っていた机を揺らし音が上がった。
だが精一杯の抵抗でナルトが作った距離をサスケはあっさりと詰める。
「たっぷりと教えておかなきゃなんねぇよな…」
「だからなにが!」
堪らず叫び睨みつけたナルトにそれまでの気味の悪い笑みが消え、まさに鬼のような形相に変わった。
「お前が誰のもんかって事をだ!そんな格好して大事な場所をオレ以外のヤツに見せてんじゃねぇ!」
言い放たれたあまりに予想外でアホな台詞にナルトは一瞬呆ける。
「は?」
だが本人は至って真面目で真剣。
「お前の太腿やお前の内股を見ていいのはオレだけに決まってんだろ!それを軽々しく見せやがって…!」
「なにバカなコト言ってんだ!って聞けー!」
拳を作り怒りに肩を震わせていたサスケはいつの間にか自然に開かれたナルトの脚に手を掛け、大きく広げる。
ぐいっと持ち上げるように広げられたナルトの脚は、ミニスカートを穿いているため殆どといっていいほどサスケの目に丸見えになった。
「なにすんだっ!」
真っ赤になって足を閉じようとするがサスケの両手がそれを阻まれ、せめて中心だででもとスカートを引き降ろして隠す。
両腕でスカートの端を必死に引き下げ、上目遣いに目元まで真っ赤にして睨んでくる青い瞳を楽しげに見返すとサスケは徐に屈みこんだ。
ナルトよりも下の位置になったサスケが見上げ、ニヤリと口の端を上げる。
「言っただろ、ウスラトンカチ。誰のものか分からせてやるってな」
言い終えると同時に机の上で大きく開かせた脚の内側、白く滑らかな肌がしっとりと続いている内の腿に唇を寄せると強く吸った。
ちゅ、と小さな音ともに赤い痕がつけられていく。
「っ!ちょ、やめろって!」
なんとか顔を引き剥がそうと髪を引っ張るが手が震えてあまり力が入らない。
ぴくりと小さく跳ね、反応を返してしまう身体とそういう風にした目の前の男を恨む。
ただでさえ己の内股にサスケが顔を埋めるという死ぬほど恥ずかしいものをしっかりと見せられていたたまれないというのに。
「やめねぇ。こんなモン、外では着れねーようにしてやるよ」
僅かに離した唇から出た言葉は濡れた息とともにナルトの肌に直接ぶつかり、それを追うようにまた白い白い肌に目立つ赤を落としていく。
「もう、このっバカサスケー!!!」
息がもう上がり始めたナルトの静止はサスケに届く確率はきっと空から槍が降るより低かっただろう。
そうして。
ナルトとサスケが教室に戻ってきたのはサクラの予測を少し超えた頃だった。
紅色につやつやと上気した頬と潤んだ目をずっと下を向け、すぐに制服へと着替え始めたナルトが明らかに隠そうとしていた、けれどスカート故見えてしまった白い脚の内側にびっしりとつけられた赤い点。
そして無表情を装ってても非常に上機嫌なサスケの様子を見て何があったかは気付かぬほど鈍い人間はその場にはいない。
結局、体育祭でナルトのチアガール姿が披露される事はなかったとか。




















(終)


ま、またアホな話をすみません;
ナルトの内腿、内股ってすごく気持ちよさそう、サスケはきっと大好き、自分以外の誰にも見せたく無いと思ってると妄想してました。大事な場所だしね!(殴)…アホですんませんでした!
サスケが何故教材資料室の鍵を持っていたかといいますと(また説明かい)、放課後残っていた体育祭応援デモンストレーションの準備の為に必要なものを取ってこれるようにと、担任から鍵を貰っていたからです。都合よく利用。でもそんなん無くてもどっか見つけて入ってそうですが(笑)
因みにナルトがサスケの言いなりに何故なったかというと「チアガールをやるなら当日にキスマークを今日の倍つけてやる、それでもいいならやりやがれ」と脅迫され「こいつならやる…!やるアホだってばよ!!」と慄きながら止める事を決意したそうです。


'05/9/6