「ちっこっくっ、するって、ばー!!」
朝の怜悧なほど冷たい空気を切り裂いて今まさに閉ざされようとしていた門扉を抜けたのは、この寒空の中で唯一熱をもった陽の光を集めたような黄金だった。









極上風紀委員会










あと5センチで閉まろうかとしていた門の端に手を掛け、鮮やかに身を横に躍らせて飛び越えた少年に、遅刻を取り締まっていた風紀委員全員の視線が集まる。
タッと軽い音を地に鳴らせて見事な着地を成功させたうずまきナルトは煌めく金髪の下から透き通るような青い眼を見せ、あまりに綺麗な色合いにその場に居た者関心が縫い止められた。
「はーっ、ギリギリセーフ」
振り返り、すっかり閉まった門に視線を遣りながら胸に手をあてて息を吐く。
安堵をしていたナルトに唯一近付いて来た者がいた。
「おい」
低い、それでいて通りと耳心地のよい声に釣られ振り向くとナルトとは対称的な髪も眼も漆黒の、けれどそれが酷く印象的な雰囲気を持った生徒――腕章を付けているので恐らく風紀委員――がじっと険しい表情でナルトを見ている。
「なんだってば?」
あまり心地のいい視線ではなく、同じように見返せば上から下まで検分するかのようにじっくりと見られ、ますます落ち着かない気分にされた。
「お前ここの生徒か?」
「そーだってばよ。つっても今日からだけど」
急な父の転勤に合わせての、2年の3学期の途中というなんとも時期外れの転校だったため制服が間に合わず、前の学校は制服が無かったので許可を取ってではあるが私服で来たナルトを知らなければここの生徒だとは思われないだろう。
「転校生の『うずまきナルト』か?」
疑問で聞かれても仕方ないと思いつつ問いに頷くと、相手は意外にもナルトの名前を出してきた。
「そう!今日からだけどよろしくな」
にっこりと大輪の向日葵を思わせる笑顔を広がる。
「………さっきの、遅刻としてカウントするからな」
笑みを向けられた生徒が不自然な間と硬い――と言ってもその前から無表情なのであまり変わりはしない――表情で返したのはナルトには到底認められない宣言だった。
「なっ!なんでだよッ!?」
一瞬で笑顔が消え、驚きと不満に彩られたナルトににべもなく断じる。
「何でじゃねぇ。どう見たってあんなのは遅刻と一緒だ」
「ちゃんと門が閉まる前に入ったじゃん!」
「飛び越えたって言うんだろうが。普通じゃ入れてねぇだろ」
「でもオレは入れた!」
「うるせぇ。不満があるならもっと早くに来やがれ。文句があんなら点数1の所を2引くぞ」
危ないだろうが、と続けられた声は呟きにも満たず、ただ傲慢なまでの声で通達された決定だけがナルトに届いた。
「こ、このオーボー!レイケツカン!!そんなん勝手に決めて、てめぇナニサマなんだってばよ!?」
びしっと指を突き付けられた男は挑む青い目に口の端を上げ、躊躇いもせずに開く。
「風紀委員長様だ。文句あるかよ、ウスラトンカチ」
これがうちはサスケとの初対面だった。
最悪な初対面だと言っていい。
なのにどういうわけか、同じクラスになり、隣同士の席になり、そうしていつの間にか友達、それも親友になっていたりするのだからなんとも不思議な話だと、服装チェックの列に並びながらナルトは息を吐いた。
ナルトの前の女生徒の頭髪と服装チェックをしているサスケの顔が目に入る。
いつも以上に仏頂面なのはサスケがチェックをしている列だけ矢鱈と人、というか女生徒が多いからだろう。
ウザイと顔に極太マジックで書かれているようで、ナルトは密かに笑いを噛み殺した。
文武両道、学園一の天才だのと言われ何事にも器用に卒なくこなすくせに、女の子というか対人関係に於いてだけは不器用な、サスケの弱点のようなものを見ている気分でつい笑いが込み上げてしまう。
(大体ゼータクだっての)
不機嫌を表すことに如何なく発揮されているその顔は同じ男のナルトから見ても悪く無いものだ。
その顔の良さからモテるのを本人は酷く疎ましがって、時には側にいるナルトが酷いと怒るような対応をする。
勿論、サスケなりの言い分があるとは分かるのだけれどそれでも時に度を越す場合があった。
周りの話を聞くと何故か自分といる時ばかりがそういう状況に合っていると思えるのだが、まぁ偶然だろう。
そんな物思いに耽っていたナルトの前の女生徒が漸く立ち去り、順番が回ってきた。
「はよってば」
「ああ。今日は遅刻じゃねーみてーだな」
ナルトの顔を見た瞬間から眉間に深く刻まれた皺が一瞬で成りを潜め、微かな笑みへと変わる。
少し皮肉を混ぜたものだが。
「サスケってばホントしつこい。オレ初日以来してねーじゃん」
ぷうっと幼い子供のように顔を膨らませたナルトをじっと見つめ、僅かたりとも逸らされない黒い双眸にもう検査が始まったのかと内心小首を傾げかけた時、整然とした空気が上がった大きな声で破られた。
「これくらい染めたウチに入るわけないだろっ!」
声のする方にその場にいた大勢の目と注意が行く。
当然ナルトとサスケも同じだ。
特にサスケは風紀委員長の立場もある。
「どうした?」
「それが殆ど分からない程なのですが、髪の根元と先で色が違いまして…」
それを問い詰めた所染めていたと認めたのだが、もう染めてはいないし今まで分からないくらいだったのだからいいだろうと開き直ってきた、と声を掛けたサスケにチェックをしていた委員は困り顔で事情を説明した。
確かに余程注意して見なければその差など殆ど分からないが、差があるのも事実だ。
それを認めず、ここまで生徒が不満を表すのはこの学園の少々厳しい校則にある。
頭髪を染めたと分かった者はその場で自宅へと帰り、髪の色を元の色、もしくは黒にして登校し直さなければいけないというものだ。
少々、厳しいが頭髪検査が今日ある事など昨日から知らされていたし、この校則を知らないはずもない。
「校則は知ってるんだろうが。さっさと帰って出なおして来い」
容赦が一片の欠片も感じない声でサスケが言い放ち、睨むような視線を投げつけた。
性格とともにこんな時の威圧感は年齢に似合っていないものを持っているサスケに断じられれば強く出れるものなど滅多にいない。
「…じゃ、じゃあそいつはどーなんだよ!?」
真正面から行けば勝ち目がない事を自覚している男子生徒は矛先をナルトへと持って行った。
「へ?オレ?」
いきなり隣の列から指さされ、蒼眼がきょとんとなる。
「あいつなんか完全な金髪じゃねーか!クォーターだからって本当に地毛かどうか分からないだろ!」
続いた明らかに苦しい言いがかりにサスケの不機嫌さが一気に跳ね上がった。
ナルトの金髪は人工的に染められたものではない事ぐらい一目で分かる。
自然な濃淡のある、美しい光沢と深みのあるこの黄金色がどうして偽物だなどと言えるのか。
見る目もなければ考える頭も無いと開きかけたサスケの口が不意に閉じられ、次いで笑った。
その場に居合わせて、それを見てしまった風紀委員の面々はあまりにおかしな物を見たせいで背筋を凍らす。
あの委員長が、正当性の無い言い分になど欠片の容赦も無く実力行使へと即座に出るうちはサスケが難癖を付けた相手に笑ったのだ。
これが気持ち悪く無いはずがない。
特に同じ風紀委員であり、クラスメイトでもある春野サクラはぞっと不気味さに身震いさえしてしまった。
「サスケ君、何考えてるのかしら…」
多少なりとも他の委員や生徒達よりも長い付き合いのあるサクラは、単純な気味の悪さとそれ以上に不自然さの原因となった事を考え嫌な予感を走らせる。
「確かめる、か。…まぁそう言えばそうだな」
軽く頷くと、生徒から踵を返しナルトの前へと戻って来たサスケはがっしりと男にしては細い腕を掴んだ。
「という訳だ。確かめに行くぜ?」
ぐいっと腕を引かれ、突然の事にナルトは何の抵抗も出来ないままサスケへと倒れ込んだ。
「ッて!何すんだよ!」
引かれた腕の軽い痛みに顔を顰めたナルトは、上目遣いにサスケを睨むが当人は飄々としている。
「何って、お前の髪の色が本物かどうか見に行くんだろうが」
「そんなん知ってるだろ!てかもう見てんじゃん!」
悔しいかな少しばかりサスケの方が高い身長はナルトの頭を見るには何の問題は無く、腕を引かれたこんな至近距離でならば今確かめているも同じだろう。
大体どうしてどこかに行かなければならないのか訳が分からない。
そんな心情を表情豊かに訴える顔にサスケは呆れたように、自身が呆れられる結果となる事を言った。
「ウスラドベ、上で見たってマメに染めてりゃ分からねーだろ。下で見ンだよ」
「はぁ…?下ァ?」
「まぁ、お前がここで見られてもいいってんなら俺は別に構わねーけどな」
じっとサスケの視線を辿って、それが下腹の下、足の間へと注がれている。
「それともまさかまだ生えてねぇのかよ?」
そして決定打となる台詞にナルトは瞬時に顔を真っ赤にした。
「なっ、なっ、ナニ言ってんだバカサスケー!生えてるに決まってんだろ!!」
多くの生徒がいる前で思春期の青少年としては不名誉な言われように思わず叫んでしまったナルトにサスケはニヤリと人の悪い笑みを深くする。
「なら問題ねぇじゃねぇか。さっさと行くぞ」
「えっ?あ?ちょ、待てってば、サスケ!」
「サクラ、後を頼むぞ」
捕らわれたままの腕を身体ごと引き摺られるナルトの静止など全く聞かない風紀委員長様は恒例の規律など押し付けて、校舎内へ向かう足を止めない。
「サクラちゃん、助けてぇ…!」
泣きそうなナルトの後ろで来るなと視線を込めて来た男に暫し呆然とした後、我に返りサスケ達の後を追ったサクラは、男子トイレの前で派手な何かを叩くような音とナルトの悲鳴じみた「〜〜〜!触んなっ、この変態ーッ!!!」という叫びを聞いたとか。





















(終)


もうタイトルからハラキレシンデコイな内容でごめんなさっ(殴)
うちの行ってた高校ってたまに朝の服装、頭髪チェックという、その時は先生なのですがたってる前にならんでチェックを受けてから玄関に入るというのがあったのです。
それを思い出してというか最後の下の毛の話がしたかっただけで…!(殺)
上と下が同じ色なら間違いなくその色は天然の、地毛の色ですね!…すみませんでした!!
因みに原因を作った生徒は後にナルトに謝りにきたとか…気の毒だと思ったそうです。
って本当にアホ話をすみません><;
こんなタイトルがついてますが某アニメとは全く無関係です。
そして!!
なんと有り難くも碧様から挿絵を頂戴してしまいました!!
コチラですvvv
もう、こんなアホ駄文には勿体無い、というかこっちがメインだと言いきれる素敵なイラストですvvv
皆様、是非是非目の保養をしてくださいませー!ヽ(´▽`)ノ


'06/1/28