出掛けに目についた楕円形の缶。
美しい西洋絵画が描かれ凝った装飾が施されたそれは殺風景なこの家のリビングに酷く不似合いで浮いていた。
何だと手にとってみればお菓子の缶。
ただのお菓子の缶にしては随分と大層な入れ物とそれに添えられていたカードを手に取ったとサスケは、目を通すと当たり前のように鞄に封の切られていないそれを突っ込んで家を出た。
あまり変わる事のない表情の下で少しばかり気分浮かび上がらせて。









キャンディー








久しぶりの空いた休日だった。
高校2年生であるサスケとナルトにとって休日とは毎週必ず1日、ないしは2日はあるものだが、その予定がしっかりと空いてる日はここ最近無かったのだ。
二人が通う高校は個人個人の能力と個性を活かし、文武共に全国でもそれなりに名が上がっている。
当然体育系の部の活動も盛んで全国大会の声をよく聞く。
悪い事ではないのだろう。
だがサスケにとっては少々忌まわしい。
高い運動能力を持ちながら特定の部に所属せず助っ人という形で終末毎に行われる大会や試合に友人と走り回る恋人の姿を見ればそれも仕方のない事だと思う。
少しは断れと何度かした抗議を「だってどれもスゲー楽しいんだってば」と本当に楽しそうな笑顔で返され撃沈した事は棚上げするとにして。
そんな中、まるでぽっかりと空いた穴のように出来たどこの部の試合もないこの日を二人で過ごしたいと思うのは当然の成り行きだとサスケは足を動かしながら強く思う。
走り回って、興味を持ったものに打ち込むその姿は強く惹かれている部分でもあり、愛おしくさえあるが少しだけでも自分の側に繋ぎとめて置きたいという欲望は常にサスケの中に存在し、苛立ちを生み続けた。
それに反応するように鞄の中に入れた綺麗な缶がこつっと小さな音を上げ、つられるようにサスケは口元に微かな笑みを刷く。
15分ほども歩けば着いた駅の改札前の噴水は二人の家のほぼ真ん中にある事から待ち合わせ場所にするのはしょっちゅうだが、目印となる物がある上見通しも良い事から待ち合わせに利用する人は他にも多かったりする。
休日である今日は予想出来る通りの人の多さだがナルトの姿がないのは遠目からでも分かった。
開けた広場であるこんな場所であの派手な色彩を纏ったナルトを見付け損なうなどサスケには考えられない事だ。
人口で染めた金髪とはまるで違う金糸が陽の下で光を吸い、いるだけでその場が暖かな明るさに変わるナルトがいるかいないかを違えた事は未だ一度としてない。
噴水に向かい合うように掲げられている大きな時計は9時47分を指していた。
約束した時間まで13分。
大雑把なところがよく顔を覗かせたりするがナルトはあれで時間にきっちりとしている。
もうすぐ来るだろう、とサスケが思ったと同時にふわふわと上下に揺れながらこちらに来るひよこ頭が見えた。
少しして青い瞳もこちらに気付き視線が固定される。
それだけでサスケの中に喜びが込み上げるのだから随分とお手軽な人間になったものだと、ぱっと顔を輝かせて小走りにくるナルトを見ながら思った。
「わりぃ、待ったってば?」
「いや。まだ時間前だろ。それより時間までどうする?」
二人でいれればそれでいいサスケはあまり予定を考えたりせず、ナルトも前もってあれこれ決めるというのをしないので当日に行動を決めるという時もあるが今日は取り敢えずナルトが観たがっていた映画があるのでそれを観るとは決めている。
だがそれ以外は殆ど未定と言っていい。
上映時間までには移動時間を差し引いたとしても1、2時間ほどあり、どこかに寄るっても十分余裕があるというか時間を潰さなくてはいけなと言って良かった。
「そうだな〜。本屋のぞいて、CDショップも行って、んでゲーセン寄も行って、あと先に軽くなんか食わねぇ?」
ナルトが思いついた要望を聞きながら即座に映画館周辺の店を頭に浮かべるとサスケは頷いた。
「分かった」
どの店にしようとかは一切言わないサスケにナルトも慣れたもので、何も言わず揃えたように二人同時に歩き出した。



館内に入ってすぐ鼻腔から侵入してきたそこら一帯を満たす甘い匂いにサスケは即座に顔を顰めた。
映画館ではお馴染みのキャラメルポップコーンの香りが強く、甘い物を苦手とするサスケには息をするにも苦痛と感じられる。
チケットは既に購入済みで当日券との引き換えも済ませてあり、こうなればさっさと上映される館内に行くのが一番の得策だと思うのだが、サスケと違い甘い物が大好きなナルトの目はうっとりとしていた。
「うんまそー」
息をするだけでも十分分かるのにくん、とわざわざ匂いを嗅ぐナルトを見てとてもではないが真似出来ないと思う。したいとも思わないが。
「食べるか?」
ついさっき軽食を済ませたという事はナルトには関係ない。
男にしては華奢な方ですらあるのにその食欲はナルトよりも恵まれた体格を持っているサスケより遥かに上だ。
長い付き合いでもういい加減慣れてはいるが毎度ながらどこにあれだけの量が入るのだと、案の定頷いたナルトに内心首を傾げる。
「待ってろ」
「あ、オレ行く」
買いに行こうとするサスケを腕を引っ張って止め、そのまま追い越すように身を滑らせた。
「サスケは先に入って座席の場所見つけといてってば」
サスケが口を開く前にそう言うと、ナルトは売店へと向かってしまったので言われた通り指定された座席位置を探す為にチケットゲートをくぐる事にする。
まだ少し時間があるせいか上映館内はそこそこの人入りで、手元に持った半券に記された番号と座席番号を追って見つけた席は上部の中心というそこそこに見やすい場所だった。
確認する為の半券が手元に無いからはっきりとはしないが、確かナルトは左隣だったはずだと思いながら座る部分にあたるシートを降ろして待っていると、ポップコーンがこんもりと盛られた大きな紙コップを持ったナルトが入って来て、きょろきょろと見回すのが見えた。
サスケが声を掛けようかと思うと同時にナルトと目が合う。
真っ直ぐに通路を上がって来たナルトがポップコーンを持つ手とは逆の手に握っていた半券と席番号を交互に見て座ったのは思っていた通りサスケの左側。
「サンキュ」
手荷物を抱えた手で降ろす必要のなかったシートににこっと笑ったその顔は幼い時から変わってない。
「どういたしまして」
別に礼を言われるほどのことでもない。これぐらいで笑ってくれるなら安いものだ。
「お礼」
ほら、と差し出されたポップコーンに思わず眉を寄せそうになるが漂ってきた匂いに気づく。
「バター塩味。これならサスケも食えるだろ?」
言いながら自分も一つ二つ抓まんで口へと放り込む。
それに習うようにサスケも幾つか手に取り口に運んだ。
程よい塩加減とバターの風味が広かる。
確かにこれならサスケも食べれるがナルトはあの甘い匂いに釣られて欲しくなったのではなかったのだろうか。
「キャラメルでなくて良かったのか?」
「うん、だってアレ匂いすごいし。サスケ気分悪くなんじゃん」
好きなものや欲しいものが急に気が変わる性格でもないと知っているので疑問に思えたまま聞けば、さらりとそんな可愛い答えを返してきた。
「後でやるよ」
照明の落とされていない館内で込み上げてきた色んな衝動を抑えながらナルトの耳元に口を寄せる。
「何が?」
「甘いの」
ぽしぽしぽしぽしと手を休める事なく口とカップを行き来させているナルトの耳朶に流したその声が酷く甘いものだった。



本日のメインとも言える映画鑑賞が終わり、適当に歩き適当に入った店を冷やかしたり少し遅めの昼食を取ったりしたところで予定は完全に消化してしまい、自然とどちらかの家に行くという事になり、ナルトの家へ向かう。
いつもならサスケの家でも別にいいのだが、今日は良くなかった。
仕事やらプライベートの用事やらで海外を飛び回り、滅多にいない兄のイタチが昨日出張していたフランスから帰ってきている。
しかもイタチはナルトが大のお気に入りだ。それもサスケと同じ種類の感情で。
おまけに幼い頃から知っているという事もありナルトも懐いているのだからどう考えても連れて帰るべきではないのだ。
並んで歩く足取りはどちらとも迷いはない。ナルトは当然ながらサスケももう何度と無く歩いた道で地図を見ず道筋を全て言えと言われたら出来るだろう。
歩幅も違うのに意識もせずに自然と合ったペースで他愛ないことを喋り、ナルトの顔を見ながらこうして歩くのがサスケは好きだったりする。
そして恐らくナルトもそうだろうとサスケは思っていた。
「んでさ、この近くにキンモクセイあっただろ?あれもう咲いてんの。スゲーいい香り!ほら、なっ」
元気一杯、身体を動かすことが大好きといったイメージの強いナルトだが、ガーデニングを趣味に持っている一面もあり、植物好きのナルトはまるで自分の事のように咲いた花を誇らしげにサスケに見せる。
振り向いて言ったナルトの服の色と同じ金色がかった橙の小さな花が煌びやかに寄りそい、咲いていた。
確かにいい香りだと軽く同意を示すように頷くとナルトはまた嬉しそうに笑い、それにサスケもまた嬉しくなる。
足を僅かに緩めて人工のそれとは違う、柔らかな甘い金木犀の芳香を抜ければ、ナルトの家はすぐそこだった。
「今日、親父さんは?」
鍵を取り出したナルトに分かりつつも一応聞いてみる。
「まだ帰ってないってばよ。多分今回はちょっと長いって言ってたから来週ぐらいになると思う」
思っていた通り。
社長業をやっているナルトの父親はその忙しさから家に不在である事が多い。
出張やら商談やらで日本にと留まらず海外にまでそれこそ飛び回っているが、その分息子と過ごせる時間は果てしなく大切にする。
のでナルトに予定がない日にあの父親がいて出かけたり、もしくは帰ってきたナルトを玄関で迎えて即お帰りの――いい加減いい年してやめろと常々言いたい――熱い抱擁をしないということは居ないということなのだ。
色々と都合がいいと頭によぎらせたものは不埒なものだがそんな考えなど僅かにも見せずサスケはナルトの部屋へと入っていった。
「なんか淹れてくる。お茶でいいってば?」
「ああ」
サスケがナルトの後ろから部屋に入り床に腰を降ろしたところで入ったばかりの部屋を出て行ったナルトを見送ってから、サスケは鞄から指に当たった冷ややかな金属を探り当て取り出した。
凝った装飾の缶。
どう言って渡そうかと考えていると扉が開き、片手で盆にのせたグラス二つを持ってナルトが戻ってきた。
サスケには緑茶と自分には牛乳。
未だにサスケを追い越すという目標の下、ナルトは毎日の牛乳を欠かさない。
不幸にして、サスケには幸いにして今の所その目標が達成される気配はないようだが。
部屋のほぼ中心にある簡易テーブルに盆ごと置くと、ナルトはサスケの手の中にあるものを目ざとく見つけたようで好奇心を大いに出してじっと視線を外さない。
「何もってんだ?」
ナルトがすぐ側に来て腰を降ろすまで待ち、サスケはしっかりとナルトに向き合った。
そして妙に真剣な顔で缶を差し出す。
「やる。つーか受け取ってくれ」
「え?そりゃくれんなら貰うけど…なんか、ヘンだってばよ?サスケ」
たかだか缶一個の物を渡すのに何をそんなに改まっているのだろうとおかしく思わないはずがない。
「別に変じゃねぇよ。それより受け取るか受け取らないかどっちだ」
「貰うってば」
一見するなら普段とあまり変わらないようだが、ナルトには多少のイラつきというか、落ち着かなさが見える。
だが機嫌が悪いというようなのでもないのでまぁいいかとナルトは手を差し出した。
体質的なものだろうか、普段かなりの数のスポーツをしていて練習にも参加したりするのにナルトの手は日焼けやタコなど出来る前に治ってしまう。
その柔らかく白い手に楕円形の美しい絵が描かれた金属の缶が乗せれた。
缶自体にも彫り細工が施されていてかなり凝っている。
「すんげぇ綺麗だけど、これ何?」
缶に何か書かれてあるが見た目で誤解されやすいが英語は――正確には英語も――さっぱり駄目なナルトはこれが何なのかわからない。
「アニスキャンディー。一応フランス菓子だ」
英語が完璧でも無駄だったようだ。
「キャンディーかぁー。サンキュ」
サスケと違い甘いものが好きなナルトは中身を聞いてほんわりと口元を緩める。
「ああ。それより食べろよ」
「あ、うん」
名前からして聞いた事のないキャンディーの味に興味を持たぬはずがなく、ナルトは缶の蓋をしっかりと止めているシールを剥がしていった。
シューっと滑らかな音をさせて取れたシールを捨て、パカリと蓋を開ければ涼しげなハーブの香りが広がった。
中には綺麗なアーモンド型の真っ白な粒が並んでいる。
表面を少し粗めの砂糖でコーティングしてあるせいか光をうけてきらきらしていた。
「ほら」
少し骨ばった長いサスケの指が一粒抓んで、ナルトに差し出す。
そんな恥ずかしいことは止めてほしいが、嫌だと拒否したところで無駄だと過去の経験から悲しくも学んでしまったナルトは少し顔が熱くなりながらも大人しく口を開けた。
「…イタダキマス」
ぽん、と入れられたそれは芳醇なアニスの香りとそれがきつすぎないように入ったバニラの香り、そしてハーブ達を包んだ砂糖の甘味がナルトの口の中で溶けあう。
「変わってっけど、おいひーってば」
キャンディーと頬で転がしながらにこーっ子供のような笑顔になる。
それをサスケは妙に嬉しそうに、というか喉の奥で声を殺して笑いいながら眺めていた。
「?なんだよ?」
「そのカード読まなかったな」
さっきからあまりにおかしなサスケの態度に訝しがるナルトにサスケは缶に添えられていたカードを取り、渡した。
これとサスケが変なのとなんの関係があるのだろうと思いながらも、フランス語と日本語訳で書かれたカードに目を通す。
『アニスキャンディーはアニスを砂糖で包んだフランスブルゴーニュ地方が発祥の素朴な味わいのキャンディーです。このアニスキャンディーは古くから…』
書かれてあるのはごく一般的な説明。
「これがなんだって…」
至って普通だと思いながら読み進めていたナルトの目が徐々に開かれていったのをサスケは面白そうに見ていた。
『古くから男性が愛する人に結婚を申し込む時に贈る伝統があります。愛する人に贈り甘い時間をすごしてみてはいかがでしょう』
自由恋愛の国らしい一部では余計なお世話な文句が謳われているが、今注目すべき点はそこではなく。
「………なぁサスケ」
自分でも分かるほど硬い声が出た。
ああ、この考えが間違っていてほしい。
「なんだ」
「ひょっとしてスゲーバカなコト考えてねぇ?」
「いや、至って真面目だ」
恐る恐るといったふうにナルトに心外だと言わんばかりにサスケは眉を顰め否定する。
「真面目って」
聞きたくないが、聞かずにいるのはもっと嫌だった。
「そりゃそうだろう。巫山戯てプロポーズなんて出来るかよ」
例え予想通りの弾丸が待っていたとしても。
「ッ!やっぱ、バカなコト考えてんじゃねーか!」
「バカ?どこがだ」
瞬時に沸点に達して大声を上げるナルトに、整った顔は至極平然と、否、少し楽しそうにしている。
「どこがって、ああもう!オレ達男同士なの!結婚なんかできるかー!」
サスケは頭の出来がいい。そのはずだ。ナルトが知る限り中学からテストでずっと校内トップ10以下に落ちた事がない。
なのに時々こんな常識も分からないようなどうしようもないアホになるのは何故だと頭を抱えたくなる。
「まぁ戸籍は養子縁組って方法を取ってもいい。それが嫌なら国外って手もあるしな」
さらりと返してきた常識を蹴飛ばす案に、アホなのに無駄な考えには回る頭を恨めしくナルトは思った。
「てか、そういう問題じゃねーってばよ…」
がくりと脱力し項垂れるナルトの顎に長い指が掛かって上を向かせた。
それまでのどこか面白がっている気配は消え、真っ直ぐにナルトの青を射抜くような漆黒の眼がじっと熱をぶつけてくる。
「ならどういう問題があんだよ。オレは一生お前以外の誰かを選ぶつもりはねぇよ」
急に落とされた、低い声。
元よりすぐ側にいたせいもあり至近距離で低い耳に酷く心地良い声でしっかりと言われ、その声に、言葉にどうしようもなくどきどきとしてしまう。
そんな顔で、そんな声で、そんな事を言うのは卑怯だ。
「お前は?」
問われ、答えるよりも先にその口を塞がれた。
反射的に眼を閉じてしまったナルトのねっとりと溶けた蜜を滴らせる舌を絡めてゆっくりと弄なぶる。
ぞくりと背を走る快感はすぐに全身に行き渡りナルトから力を奪っていった。
舌でアニスキャンディーをナルトから取ると少しだけ唇を離し、啄ばむような軽いキスを繰り返す。
執拗に舌先で唇を舐めてから奥にある奪ったキャンディーを転がして薄く開いたナルトの唇に押し当てた。
その甘さと執拗に唇だけの愛撫に焦れたナルトの舌が誘い出されるとすぐに角度を変えてもう一度深く口づける。
サスケの口内で少し溶け、ナルトの中で広がったキャンディーの芳香は、今日味わったどの甘い香りよりも甘いと思いながらナルトへキャンディーを渡し、ちゅっと下唇を吸って今度こそ離れた。
「ナルト」
ナルトの息は上がって声がすぐには出ない。
潤んだ目が瞼の下から現れて濃くなった艶やかな青が反応を返してきた。
血が昇った頬はナルトの色素の薄い白い肌に赤を添えていて、サスケに次の行為を促しているようで。
「受け取ったよな?」
キャンディー、と続けてにやりと人の悪い笑みを浮かべ、声すら出せずに開けられたままの口をゆっくりともう一度塞ぐ。
「誓いのキスだ」
アニスキャンディーの香りに混ざりそれよりも甘い声がサスケの中に吸い込まれた。
ナルトの抗議する言葉だけではなく気持ちまで。



「サスケ、ここにあったお菓子の缶を知らないか?」
珍しくリビングにいた――というようりはこの家にいる事自体が珍しい――兄であるイタチが、帰宅したサスケに開口一番の台詞は己の用件だった。
別に挨拶がなければ嫌だなどと思うこともなければ、むしろ色んな意味で疎ましい相手と余計な会話をしたくないのでサスケは敢えてそれに追求する事なく持っている答えを返した。
「それならオレが使った」
短く返された台詞にイタチの形の良い眉が顰められる。
「アレはナルト君へ渡す物だ。人の物を勝手に持ち出されては困るな」
「そのナルトに渡したんだ。問題はねぇだろ。そっちこそ人のモンに手ぇだすんじゃねぇよ」
悪いと言う風など全くなく、逆に低い声は静かな怒気を帯びて発せられた。
そもそもこの人付き合いというものをまともに出来ない兄が仕事や旅行先からの土産を渡す相手など限られているのだ。
しかもあんな甘い菓子を渡す相手などナルト以外ない。
ナルトにあんな意味合いのある物など渡させるか。それが他意がないどころか、大いに下心を持ったこの兄なら尚の事。
要らぬ手出しをするなと牽制を込めた視線で睨み付けるがイタチは気にしたふうもない。
「せいぜい愛想をつかされないよう気をつける事だ」
「余計な世話だッ…!」
非常に腹立たしい一言を残して自室へと引き上げて行ったイタチの背中を抹殺してやりたいと心の底から思う。
「誰が離すかよ」
一人リビングで呟いたそれは決意だ。
取り敢えず言質は取った。
ふ、と独特の香りが口の中で甦ったような気がし、サスケは知らず笑みを浮かべた。




















(終)


世界○見えTVで紹介されていたアニスキャンディーを使った求婚の方法を聞いて即座にサスナル変換してました(毎日がサスナル妄想で頭に花が咲いてます)
だって絶対ナルトがそういう風習あるなんて知らないだろうし、そんなものでも利用するのがサスケだー!罠男なんだー!と叫びたかったんです…!というかしっかり繋ぎとめて置きたいというサスケの積年の野望がそうさせるんだと責任転嫁(笑)
拙くアホな話ですが読んで下さってありがとうございましたー!


'05/9/17